ナガレ
2022-08-24 18:12:52
8991文字
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SSまとめ(その4)ぶぜまつ

すべてページメーカーで作って上げたもの、もしくはポイピクからの再録です。(メイクアップアーティスト豊前※現パロ、桃を貰った松井、細川江二振りの七夕、リップクリームの話、ワンライ企画作品)


【おそろい、あかいもの】
ぶぜまつwebオンリー「ぶぜまつスプリングパーティー!」開催記念ワンドロワンライ企画で書いた話。

遠征で留守にしていた豊前が久しぶりに部屋に戻ると、同室の松井が出迎えてくれた。松井の「おかえり」は疲れた体にとてもよく染みる。今日帰還する事は知っているはずだから、時間まで本を読みながら待ってくれていたのだろう。文机の上には、挟んだしおりの紐が飛び出た文庫本が置いてあった。
腹が空いているなら何かつまむ物を貰ってこようか、それとも先に湯浴みに行くかい?と松井に聞かれ、豊前の心臓は柄にも無く飛び跳ねた。仲間内で漫画本を回し読みしたから知っている。この台詞には「それとも僕?」という続きがあるのだと。でも松井の口から続きは出てこなかった。……じゃなくてだ。

「松井、お前その目どーしたんだ……

晴天の空の色をしているはずの松井の瞳が赤かった。寝不足や充血とかそういう類いで白目の部分が赤くなっているのではなくて、虹彩そのものが真っ赤に色づいている。病気かそれとも不具合か。手入れを受ければ直るのだろうか。その前に審神者に報告はしてあるのだろうか。松井は自分の事を大切にしないから。
とりあえず自分の事は後回しだ。医務室が先か、審神者の執務部屋が先か。その前に松井に心当たりを聞いて——。フルスロットルで回転する豊前の思考を止めたのは、松井のどこかばつの悪そうな声色だった。

——お揃い」
「お揃い?」

君とお揃いにしてみたかったんだと、松井は視線を逸らして白状した。——今日は非番で元から部屋に引きこもる予定だったから、誰かに見つかって大騒ぎにもなる確率も低いだろうと思って。一応、主は知っている。気が済んだら戻してあげるよと言われた。
ぽつりぽつりと告白する松井。大事じゃなくてよかったが、こんなの心臓に悪すぎる。病気や不具合じゃなくてよかったと、豊前は胸をなで下ろした。

「そっか。明日になったら元に戻してもらうぞ」

お揃いにしたかったと言われて悪い気はしない。赤い目の松井には違和感しかないけれど。とりあえず着替えるかと戦闘衣装の上着に手を掛けると、くいと松井が赤い袖印を引いた。見上げてくる松井の唇がほんの少し尖っている気がする。これは何か言いたい事がある時の、松井の無意識のサイン。豊前はしゃがみこんで松井と目線を合わせた。一体何だろうか。

……戻るよ」

赤色にした虹彩はちょっとした術式で色を変えているだけだから、手入れじゃなくても元に戻るのだという。松井が小声で教えてくれた解除の方法はすごく簡単なものだった。ずいぶんと可愛らしい事を思いつくものである。豊前は今すぐ松井を撫で回したい衝動をぐっと抑えた。元に戻す事の方が先だ。

「ただいま」

そういえば、まだ言ってなかった。「おかえりなさい」には「ただいま」だ。無事に帰ってきた事を告げると、豊前は目を閉じた松井の瞼にそっと口づけた。左右それぞれの瞼に触れて顔を離すと、ゆっくりと松井が目を開ける。――うん。やっぱりこの色がいい。松井の虹彩はいつもの綺麗な空色に戻っていた。


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