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ナガレ
2022-08-24 18:12:52
8991文字
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SSまとめ(その4)ぶぜまつ
すべてページメーカーで作って上げたもの、もしくはポイピクからの再録です。(メイクアップアーティスト豊前※現パロ、桃を貰った松井、細川江二振りの七夕、リップクリームの話、ワンライ企画作品)
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【薬用リップクリーム無香料】
乾燥で唇が切れたぶぜまつ
木枯らしの中、二振りは黙々と庭で掃き掃除をしていた。豊前江と松井江、どちらも本来なら今日は畑当番だった。掃除当番から庭の落ち葉が掃いても掃いても片づかないので人員を回して欲しいという要請が入り、それならと手を上げたのがこの二振りだった。畑仕事も落ち葉掃きも同じようなもんやんというのは、同じく畑当番(ただし自主)の同胞のぼやきである。
黙って手を動かす事は苦手じゃない。木枯らしに吹かれながら、せっせと落ち葉を集めてごみ袋に入れていく。
……
ねむい。あくびが出た。
「
……
痛てっ」
ぴりっと小さな刺激が下唇に走った。もしかしてと指の腹で痛みの走った辺りに触れてみると、案の定血が滲んでいた。乾燥で唇が切れてしまったみたいだ。
「豊前?どうした?」
枯れ枝の先でも刺さったのかと、松井が声を掛けてきた。血の滲んだ豊前を見ると、さっと顔色を変えた。
「大変だ。血が出ている。ちょっと待って、今
……
」
「でーじょうぶだって。舐めときゃ治る」
「確かぽけっとに
……
」
ごそごそと内番着のポケットを漁る松井。ポケットの中からは小さな容器に入った唇用の薬用軟膏、リップバームが出てきた。松井は容器の蓋を開けると少量指で掬った。そして豊前に向かって手を伸ばした。
……
いやいやいや、ちょっと待て。
「別にいいって」
「だめだ」
さすがに今ここでそれはとやんわりお断りをした豊前だが、松井は退かない。豊前がそのうち治るし舐めておけば十分だと言っても、一向に聞く耳を持とうとしない。こうなった松井はとても頑固だ。彼の好きなようにさせてやるしかない。それが一番早いと知っている豊前は折れた。
痛かったらすまないと言いながら、松井はぐりぐりと塗り込んでくる。痛くはないが、ちょっとむず痒い。これを痛痒いと言うのだろうか。というか、あまり触らないでほしい。何だか変な気を起こしてしまいそうだから。
そんな豊前の心の声も、残念ながら松井には届かない。ついでだからしっかり塗っておくよと言い出した松井に、豊前はもう諦めるしかなかった。豊前自身は多少荒れていようが切れていようが別に構わないのだが、松井は気になるらしい。周りに誰もいなくてよかった。この光景を見られるのはちょっと恥ずかしかった。
*
そんな出来事から数日が経ったある日のこと。二振りで非番を過ごしていると、松井が小さく「痛っ」と声を上げた。
「どーした?」
「乾燥しているからか、切れてしまって」
「あー
……
」
その一言で豊前は状況を理解した。先日の自分と同じだ。見せてみろと言って松井の顔を覗き込むと、色の薄い下唇には縦に赤色の線が走っていた。見事にぱっくり割れていて痛そうだ。でも松井のことだからあの時の軟膏(豊前はリップバームという名前を知らない)を今日も持っているだろうと、豊前は楽観視していた。
「わざわざ手入れするほどでもないし、舐めておけばいいよね」
松井は舌先でちろりと割れた下唇を舐めた。
……
この間、俺が舐めときゃ治るって言っても聞かなかっただろ。豊前は何か入っていないかと内番着のポケットの中を漁ったが、あいにく何も持っていなかった。
「大丈夫。舐めておけば何とかなる」
そう言って再び下唇を舐める松井。ほんの少しだけ出た赤い舌先が、何だかやけに艶めかしい。豊前は思わず見てしまった。その視線に気づいたのか、松井がふふっと少しあやしい笑みを浮かべ、豊前ににじり寄ってきた。猫のようにすり寄って、膝の上に収まる松井。豊前の体が少し強張った。
「
……
舐める?」
「やらねーよ」
至近距離に顔を近づけてきた松井の額を、豊前は指でぴんと軽く弾いた。別に遠慮しているわけでも、恥ずかしがっているわけでもない。やらないものはやらないだけだ。しかし松井はなかなか諦めようとしなかった。遠慮なんてしなくていいんだと言ってくる。
どうぞ。やらない。豊前の膝の上でそんなやりとりが繰り返されること十数回。やっと松井が無言になり、豊前は諦めてくれたとほっとした。しかしそれも束の間だった。
「えい」
むにゅっと押し当てられたのは松井の唇。不意打ち大成功と、松井は切れた唇で弧を作って目を細めている。
――
わかった。俺の負けだ。痛いとかしつこいとか、傷の治りが遅くなるとか絶対に言うなよ。豊前は松井の挑発に乗った。
翌日、豊前は用事を作って万屋街の薬局に足を運んだ。松井は小さな器に入ったものを指で取って使っていたが、筒状の容器で中身を繰り出す形式のものもあると聞く。たしか篭手切江はこちらの形のものを使っていた。保湿、色付き、香り付き。一口にりっぷくりーむと言っても色々だ。正直どれがいいのかわからない。豊前は悩んだ。
「
……
これにしとくか」
薬用リップクリーム、無香料。色や香りは好みがあるから無い方がいい。薬用と書いてあるから、これなら荒れも傷も治るだろう。思った以上に松井の唇は乾燥で荒れていた。今日から一日数回塗ってやれば、使い切る頃には良くなっているはずだ。
これならポケットの中に入れていてもかさばらないし、気づいた時にすぐ取り出して塗ってやれる。舐めておけば治ると言うけれど、薬はあった方がいい。一番手前にあった商品を手に取ると、豊前は会計に向かった。
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