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ナガレ
2021-05-15 21:27:27
12798文字
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彼方の呼び声(ぶぜまつ)
8月インテでコピー本(ペラい)として出せたらいいなと思ってる、ボーイミーツガールぶぜまついIF話。べったー掲載分は下書きなので、ここから加筆修正入ります。※独自設定多め。
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「あれは一体
……
」
刀を交えた瞬間、動けなくなった。目の前の人物から目が離せなくなり、呼吸すらもままならなくなった。それは向こうも同じで、見つめ合う事しかできなかった。一体何者なのだろうか。刀剣男士という存在とは幾度となく交戦している。きっと彼の者も刀剣男士だ。でも、何かが違う。
同じ見た目の刀剣男士と交戦した事もある。でも、今みたいに動けなくなる事はなかった。
(また会えるのだろうか
……
)
そう思った自分に驚愕する。かの者とは敵、敵との再会を望むだなんておかしい。戦場はここだけではないし、敵も味方も星の数ほどいる。再び刃を交える事ができる保証はないのに。
それでも、あの赤色が脳裏に焼き付いて離れない。それは己らが再来を願ってやまない太陽の色にも似ていた。
* * * * *
その日の戦場は雨が降っていた。ぬかるみに足を取られながら進軍し、雨で視界が悪い中、白刃戦を行う。悪条件は相手方も同じだ。戦線は膠着状態、双方が撤退を選ぶのも時間の問題だろう。元は刀だ。この肉体はそうでないと頭では理解していても、雨ざらしでは錆びそうな気がして怖かった。
(雨脚が強ぇ。この分だと大雨通り越して、豪雨になるかもしれんちゃ)
撤退して本丸に帰還するにしろ、帰還地点まで行かなければならない。豪雨の中を動くのは無理がありすぎる。仲間達も同じ事を考えるだろう。無理に合流するよりも雨が弱まるのを待った方がいい。豊前は一時戦場を離れる事にした。自分以外の仲間達が合流していたとしても、一振り足りなければ待っていてくれるはずだ。たぶん。
「ここなら凌げそうだな
……
」
雑木林の中、雨の避けられそうな大樹を見つけたので豊前はその陰に隠れて雨宿りをする事にした。葉もよく繁っており、時折ぽたりと雨粒が落ちてくるぐらいで、雷が鳴らなければ大丈夫だろう。濡れて重たくなった戦装束の上衣を脱ぐと、豊前は思いっきり絞った。それこそ、生地が傷むと怒られかねないぐらいの力でぎゅっと。早く本丸に帰って乾かしたかった。
手に持っていても邪魔になるので羽織り直す。濡れた衣類は冷たくて重たい。少しでも早く雨が止んでくれる事を祈るしかないが、そんな豊前を嘲笑うかのように大粒の雨はざざざざと音を立てて降っている。止まない雨、その間を縫うように誰かが小走りにやって来た。
――
「彼」だ。この雨なのでまったく気づかなかったが、この戦場にいたらしい。
「
……
」
向こうも豊前に気がついた。一瞬足を止めたが、この雨には勝てなかったのか、大樹の陰に入った。少し警戒して距離は開いている。しかし戦意は無い。それは豊前も同じで、さすがにここで刀を交えるつもりは無かった。
「そこ、濡れるぞ」
濡れて変色してしまった「彼」の長丈の羽織物から、ぽたぽたと雫が落ちている。裾をたくし上げて絞っているが、なかなか水は切れない。一度脱いだ方が早いのではないかとも思うが、丈が長いので脱いで絞る事も大変そうである。しばらくすると、「彼」は絞りきる事を諦めた。
せめてこれ以上濡れないように、今は一時休戦だからと言い訳をして豊前は「彼」を近くに招いた。
「こっちの方が雨が当たらんちゃ」
「あぁ、すまない」
隣に立つ「彼」の体温を感じる。他の敵刀から体温や息づかいを感じた事は無い。やはり「彼」だけが違う。自分達と同じ存在ではないかと錯覚してしまいそうにってしまう。豊前は「彼」から目を逸らした。
ふたり並んで、無言で雨が上がるのを待つ。まだ雨は止みそうにないが、雨脚は少し弱まってきた。触れた剥き出しの腕がひんやりと冷たかった。早く温まりたいと思うあたり、この器にも随分と慣れたものだ。つい数刻前まで、錆びたらどうしようと思っていたくせに。
「
……
くしゅん」
そんなふたりの沈黙を破ったのは、「彼」の小さなくしゃみの音。足下の水たまりを見ていた豊前が顔を上げて「彼」の方を向くと、少し気まずそうな「彼」がいた。
――
やっぱり、同じだ。その所作や表情、「彼」は自分達と変わらない存在にしか見えない。豊前はほんの少しの期待を込めて「彼」に尋ねた。
「
……
名前」
「名前?」
「そう。名前、教えて」
豊前には「彼」が困惑したのがわかった。何かまずい事を聞いてしまったのだろうか。「彼」に名前を尋ねた、ただそれだけだが
……
。
「打刀」
「刀種じゃなくて」
「そう言われても、打刀としか呼ばれたことがない」
言いたくないとか誤魔化しているとか嘘をついているとか、そういう雰囲気は無い。本当に打刀としか呼ばれた事がないみたいだ。時間遡行軍には刀種だけが必要で、刀でいうところの号や銘は不要なのかもしれない。豊前はしばし考えた。
「
――
松井江」
「まついごう?」
「いい名前だろ。今からお前の名前は松井江。松井って呼ぶ」
そう言う豊前に「彼」改め松井は少し戸惑いながらも頷いた。小さく「まつい」と唱えている松井。豊前は何だかこそばゆかった。
「雨、そろそろ上がりそうだな」
向こうの空が明るい。戦の続きをする気にはなれないから、おそらく今日のところは撤退だ。豊前につられるように、松井も雨雲の切れそうな空を見上げた。
「
……
こうやって空が明るくなることもあるのか」
松井のぽつりと漏らした一言。雨上がりを見た事が無かったのかと豊前は驚いた。雲の切れ目から差す陽光に、綺麗だと呟く松井。彼は今何を思っているのだろうか。穢れをどこにも感じさせない、あどけない無垢な横顔から目が離せなかった。
大樹の葉から垂れた水滴が松井の睫毛の上で弾け、涙のように目元を濡らし、頬を伝っていく。それを見ていた豊前はそっと顔を寄せた。
――
松井は拒まなかった。
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