ナガレ
2021-04-30 20:18:23
9266文字
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SSまとめ(その1)ぶぜまつ

すべてページメーカーで作って上げた小ネタの再録です。(名前を書く話、軽装ヘアピンの話、雪の夜の話、片想いの話、赤い糸の話)


【豊前と松井と赤い糸】
ぶぜまつと赤い糸。引き千切る豊前と利用する松井の話。


――結ばれる事が定められた相手とは小指同士が赤色の糸で結ばれている。

指に何か赤色の糸みたいなものが絡みついていると松井から相談を受けた審神者は、言い伝えやおまじないみたいなものだけどと前置きをして、松井にそう教えてくれた。
自分には見えないけれど、悪い気配ではないから松井江のそれはきっと良いものだ。審神者にそう言われたので、松井は赤色の糸をそのままにしておく事にした。
伸縮自在の赤色の糸。松井が動けば同じようについて回るし、戦闘中は何かの力がはたらいているのか、動きや視界の邪魔になる事も無い。害のあるものでないならそれでいい。
それよりも松井が気になるのは糸の向こう側だ。この先に自分と同じように小指に赤色の糸が結ばった、運命の相手がいる。そう思うと松井の好奇心が疼いた。もしかしたら、もしかするかもしれない。
期待と不安とともに、松井は己の小指に繋がった糸を手繰り寄せながらその先を目指した。
本丸の廊下をぐるりと一周して外に出る。手合せの道場の横を突っ切って、厩の方へ。そういえば、今日の馬当番は――

……うぉっ。松井?」

糸を辿った先にいたのは豊前江。松井に引っ張られた事により、少し体が傾いた。そう、彼の小指にも赤色の糸が結ばれていたのだ。結ばれる事が定められた運命の相手は松井の恋刀だった。

「赤い糸を辿ったら豊前がいたんだ」
「糸?これ、お前にもついてんの?」
「うん。ほら」

そう言って松井は豊前に小指を見せた。ぐるぐると巻きついて蝶結びされた赤色の糸。豊前の小指には片結びで結ばれていた。

「この糸で結ばれた者同士は運命なんだって」

豊前にはいまいち理解できなかったが、松井が嬉しそうなので良しとする。恋刀になったのに、松井はどこか疑っていた。
僕でよかったのかと何度も聞かれ、そのたびに松井がよかったんだと何度も答えている。
この赤色の糸一本で松井が自信を持ってくれるのなら、それでいい。豊前の恋刀は松井以外ありえないのだから。

「僕と豊前は運命の相手だった……

それ以来、松井は赤い糸を常に気にしている。だらんと垂れた糸をくるくると指に巻きつけてみたり、ぴんと張った糸を指で弾いてみたり。何というか、豊前と自分は恋刀であるという拠り所にしているのだ。
初めは松井が己の恋刀である事に自信を持ってもらえるならと見守っていた豊前だが、そろそろ我慢の限界だった。
自分の想いを伝える言葉や行動よりも、どこの誰が結んだかわからない繋がりの方が重要なのか。これが無かったら恋刀であることを疑い続けたのか。

……なぁ、松井。これってそんなにも大事なもんか?」

――ブチッ

松井の目の前で、豊前は二振りを繋ぐ赤い糸を引き千切った。千切れた糸の両端が下を向く。あぁ何てことを!と、松井が驚愕した。だが、豊前には関係ない。

「こんなの必要ねぇよ。こんなのあろうがなかろうが、俺は松井を選んでいた。松井も俺を選んだ。違う奴に繋がっていても、俺が選ぶのは松井だけだし、松井にも俺を選ばせる」

そう言い切った豊前が手を離すと、千切れた糸の両端は地面に落ちた。

「運命どうこうより、俺の言うこと信じてろ」
「はい……

豊前の圧に松井は頷く事しかできなかった。結んだのはきっと縁結びの神様なんだろうけど、豊前はその神様に喧嘩を売るような真似をしてしまった。
彼に悪気は無いんです。彼を放ったらかしにして、うつつを抜かしていた僕が悪いんです。下手に神罰を下そうとしたら貴方の神域に乗り込みかねないので、どうかおやめください。
松井は見知らぬ神様にお祈りをした。

――翌朝、松井は夜明けと同時に寝所を抜け出した。隣で眠る豊前を起こさないように忍び足でこっそりと。抱き枕にされていたので、代わりに自分の枕を抱かえさせておいた。
今から千切られた糸の先を探しに行くのだ。豊前に見つかったら何やかんや言われるだろうから、寝ているうちに見つけて戻らねば。
豊前の指から続く糸に目を凝らして、松井は地面に落ちた糸を見失わないように辿った。

部屋を出て、縁側から洗濯を干したり短刀達が遊んだりする中庭へ。糸は植木の下を通って、庭園に続いていた。
松井は庭園の池のほとりでようやく糸の端っこを見つけた。本丸の中で見つかってよかった。本丸の外となると、人知れずこっそりと行くのは難しい。最低限、審神者には話を通す必要がある。

……昨日は豊前が手荒な真似をしてすまなかった。きちんと結び直すから、どうかこれで許してほしい」

その場にしゃがみ込むと、松井は簡単には解けないように糸の先同士をあやつなぎで結んだ。何かの拍子で見ず知らずの誰かと豊前の赤い糸が結ばれてしまっては困る。
豊前はこんなものが無くても松井を選ぶと言ってくれたが、念には念を入れておかねば。

「他の誰かが運命の相手の座に収まったとしても、豊前はまた引き千切るんだろうけどね」

豊前がその手で選んで捧げる相手は松井だけ。そして松井が選ぶのも豊前だけ。豊前はおみくじで大吉が出るまで引く男だ。繋がった先が松井じゃないとわかれば、引き千切ってやり直しをさせるに決まっている。

「それに、これがあれば豊前がどこに行っても追いかけられる」

迷子防止紐扱いしてすまないと、松井は一人薄く笑みを浮かべた。


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