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ナガレ
2021-04-30 20:18:23
9266文字
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SSまとめ(その1)ぶぜまつ
すべてページメーカーで作って上げた小ネタの再録です。(名前を書く話、軽装ヘアピンの話、雪の夜の話、片想いの話、赤い糸の話)
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【指先はまだ届かない】
まだ入り口にすら立っていない豊前とアシスト桑名と、豊前に理解者以上の矢印を向けていない松井。
「ありがとう。でも、君のその手は必要としている他の者達に貸してやってくれ」
差し出した両手を返された日の事を、今もまだはっきりと覚えている。
*****
あの日も戦場に血が流れた。血の流れる歴史を変えてはいけない。そのために戦っているのだから。変わる事の無かった戦場を見つめる松井がどこか辛そうで、豊前は出陣後に少し松井と話をした。目の前の光景と己の知る歴史を重ね合わせて心を痛めている松井の事が心配だった、だけだと思う。同胞の曇った顔は見たくない。だから豊前は少しでも松井の心の中にある重りが軽くなればいいと思い、力になる事を申し出たのだ。
正直言うと、豊前は松井が頼ってくると思っていた。しかしその予想は裏切られた。「豊前
……
」と言葉を濁した松井はそれまでずっと強張っていた表情をふっと緩め、豊前の申し出を遠回しに断った。何をするにも、「豊前がやるなら」、「豊前が言うなら」としか言わなかった松井が、だ。
それ以来豊前は、どうやったら松井が頼ってくれるのだろうか、どうやったらこちらに来てくれるのだろうか、ずっとそんな事ばかり考えていた。篭手切も桑名も、豊前が何かしなくたって向こうからやって来る。松井も来るには来るけれど、豊前の求めているものではない。
松井は豊前を己の理解者だと言う。でも豊前には松井の考えている事が分からない。松井自らが引いた一線を豊前に越えさせる事は無かった。豊前がわっかんねーな
……
と弱気になってしまうのも無理はなかった。
「また松井絡み?」
「
……
桑名」
通称、江部屋。屋敷の空き部屋を勝手に占拠している刀は多く、この部屋も江の者達が主に占拠している部屋だ。今日も松井にするりと躱された豊前が江部屋で消沈していると桑名がやって来た。一仕事終えて汗を流してきたのだろう。中途半端に乾かしただけの癖毛はまだ湿っている。
「今度は何やったの?」
「何もしてねーよ」
庭先に黄昏れている松井がいたから声を掛けた。ただそれだけだ。松井はちょっと考え事をしていただけと言うと、すぐにその場を立ち去った。豊前の伸ばしかけた手は今日も松井に届かなかった。
「松井、れっすんもすてーじも誘うと普通に乗ってくるだろ。でも、そういうのじゃねーと逃げるんだよな」
まるで心の内を見透かされているみたいだった。力になりたい、話を聞かせてほしい、そう思って豊前が声を掛けると必ず逃げられる。同胞で集まっていれば向こうからやって来るのに、豊前一振りだけだと松井は近づいてこない。もしかして嫌われているのかと思い、篭手切にそれとなく探りを入れてもらった事もある。一応、嫌われているわけではなかった。篭手切から松井が「豊前は頼りになる僕の理解者だ」と言っていたと聞いた。
「拗らせてるねぇ」
「うるせー」
桑名は豊前に容赦が無い。だが、それくらいで丁度よかった。下手に慰められるよりも、容赦なくばっさりと切り捨てられる方が今はいい。そうでないと、あれこれ考える事は苦手なのに悪い事ばかり考えてしまうから。考えたってどうにもならないなら、いっそ踏み込んでしまおうかという衝動に駆られる時もある。でも、それは何とか耐えている。今は、まだ。
「松井って豊前の言う事は何でも聞くけど、結局は別々の存在だからね」
抱えているものに触れてもらいたくない松井と、そこに触れて受け入れたい豊前。まずその時点で決定的にすれ違っている。桑名はそう思っている。
「少し離れてみたら?案外、松井の方から来るかもよ」
きっと豊前は戸惑っている。桑名が話を聞いている限り、豊前はずっと求められる事ばかりで、自分から何かするというのは松井が初めてだから。一緒にれっすんをしたいと求められたので参加した、貸して欲しいと求められたから膝を貸した、めんばあを増やしたいと言っていたから増やした。
――
ほら、全部誰かに何か言われて動いた事ばかりだ。
そんな豊前が自分から意識して動いたのが松井相手で、残念な事に逃げられた。だからどうしていいのかわからない。すべて桑名の推測だが、大筋では当たっているだろう。
「豊前はまっすぐ松井のことばかり見過ぎ。離れて初めて見えることもあるんじゃないかな」
「そーいうもんか?」
「そうだよぉ。押してもだめなら引いてみろって本に書いてあったし」
押してもだめなら引いてみろ。言われてみれば一理あるかもしれない。豊前は勢いよく立ち上がった。
「うっし。うだうだすんのは性に合わねぇ。ちっと走ってくる」
「行ってらっしゃーい」
悩みが解決したとまではいかないが、鬱々としていた気分は晴れた。外に出た豊前は何となく手を空に向かって伸ばしてみた。当たり前だが、伸ばしたところで何も起こらず、何も見えず、何も掴むことはできなかった。伸ばした手の向こうに青空が広がっているだけだった。指の間を一羽の鳥が横切った。
広い空。自分も視野を広げてみれば何か見えてくるものがあるかもしれない。それを掴むことができれば、きっと松井に近づける。見つけるのは得意だし、追いかける疾さにも自信がある。今はまだ空を切る事しかできなくても、いつかこの指先を松井に届かせてみせる。
届かせて、ぎゅっと掴んで、手繰り寄せて
――
「俺はお前のことが知りたいよ」
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片想いチャレンジの結果でした。
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