空のありか

まゆこさま企画の「乙普イiメソンアiンソロ」に載せていただいた乙普を再録します。作業中の太乙のもとにやってくる人の話。小説のページにもすてきな背景を使ってくださって、本当にうれしかったです。ありがとうございました! ※再録にあたり、一部加筆修正しています。

「最高傑作だよ」


物づくりはいつだって孤独だ。
設計図は目の前にあるけれど、完成図は自分の頭の中にしかない。一人仕事はもちろん嫌いじゃないし普段、批判や反論などには耳を貸さないところだが、この日はどうしても議論が必要だった。
「誰かと話したい……
太乙は卓に突っ伏してぽつりとこぼした。アイデアが行きづまって出口を探しているときは、耳の痛い意見こそが突破口になる。複雑に絡まった思考をほどき、狭くなりがちな視野を広げるためには、第三者の目が必要なのだ。
「じゃあ僕も案外迷惑じゃないのかな」
待ち望んだ声がして、太乙はやや前のめりに身を乗り出した。
「今日は迷惑じゃないよ」
手こずっているのは事実だし、こういう場面で意地を張るほど幼稚ではない。専門分野こそちがうけれど、なにかを追究せずにはいられない性分は似ていると思う。決して目の前の成果に満足しないところも含めて。
「まさに今日、きみからヒントをもらえると思ってた」
「そう思ってくれているんだ。うれしいな」
それがほんとうにうれしそうだったので、太乙も気をよくして、「ここ」と設計図を指さした。
「強度的にどうだろう。ちょっと不安なんだけれど」
当初計画していたよりも重量が嵩む分、一部に負荷がかかりすぎることにいまさら気づいた。大きいし、構造が複雑だし、なにより人手が足りないから目が行き届かない。こんなことならもっと軽量化をはかっておくんだったなと思ったが、大幅に仕様変更するタイミングはとっくに過ぎていた。彼はすこし考えこんでから「たしかにちょっと強度不足かもしれない」と唸った。
「平時ならこれで十分だけど、攻撃力を落とさないつもりなら、もっと衝撃に耐えられるものに変更したいところだね。今のままだと長期の使用は厳しい」
「全部を?」
「補強で間に合うと思う」
攻撃力を削らない主張は尊重してくれるらしい。「ほかに使えるものは?」と訊く顔はいつもの傍観者ではなく、すっかり科学者のそれだった。なにを期待されているかも理解しているのだろう、それなら話は早い。
「素材なら問題ないよ。選び出すのと、加工に手間取るだろうけれど。きみならできるだろう?」
わが意を得たりとばかりに、彼は頷いた。
「力になれると思う」
彼の宝貝は物質を根源から操る力をもっていて、最初話を聞いたときはやっかみ半分で「そんなチートな宝貝なんて気持ち悪い」とからかったこともあったものだけれど、こういう形であてにする日が来るとは思わなかった。使い手が優秀なのは十分理解している。ここは任せてしまっても問題ないだろう。銅やら鉄鉱石やらなにやら、使えそうなものを積んで渡せば、彼はその手に浮かべたまるい宝貝の昏く青い光で照らした。

「そうだ、……あのさ」
徐々に形を変えていく金属の塊を見つめながら、太乙は思い切って口にした。
「前に、私の仕事が好きって言ってくれたよね。あれは本当かい?」
宝貝から目を逸らさないまま、彼は「本当だよ」とかるく答える。
「それってほんとうに仕事だけ?」
「ほんとうに、とは?」
「あー……これが完成したら、ゆっくりお茶でもどうかなって」
さもいま思いついた、という口ぶりはわざとらしかったけれど、彼は驚いたように目を上げた。宝貝は青く光を放ち続けている。意図をはかりかねているようだったので、いまじゃなくていいよと付け加えた。
「私も忙しいから、いまは無理だけれど。そう、きみがよければお酒なんかも飲んだりして。宝貝の製作秘話を教えてあげるよ。——きっと朝までかかるけれど」
最後のひとことで、ようやく気づいたらしい。不自然に瞬きをしながら「ああ、」と息をついた。疲れていただけかもしれないけれど、そのため息に、頬の熱さを隠すような、あいまいな温度が混じっていた気がする。
「どうだい?」
やや芝居がかった口調で訊ねてみた。彼もおどけた調子で「それは愛の告白?」と訊き返す。
「そう思ってもらえれば本望だよ」
「ずいぶん遠まわしだね」
「いきなり寝室に誘うより、慎み深いほうが好みかと思ってさ」
……前向きに検討します」
「じゃあオッケーだ」
あははと苦笑しながら「あとちょっとで終わるよ」という。その声がいつもより弾んで聞こえた。花の蕾がほころぶみたいだ、なんて考えてしまうあたり、われながら調子がいいなあと思う。