空のありか

まゆこさま企画の「乙普イiメソンアiンソロ」に載せていただいた乙普を再録します。作業中の太乙のもとにやってくる人の話。小説のページにもすてきな背景を使ってくださって、本当にうれしかったです。ありがとうございました! ※再録にあたり、一部加筆修正しています。

「最高傑作だよ」


「窓をつけようよ」
やけにあかるい声にむっと口を噤んだ。顔を上げれば案の定、同僚がこちらを見ている。春の晴れの日みたいな、それでいて後ろ手にびっくり箱を隠したみたいな、いたずらっぽい笑顔。その手には乗らないぞと、太乙は身構える。
「窓? なんで」
「全面を壁にしてしまうより、雲が流れたり、星空を眺められるほうが退屈しないでしょう。空がどこにあるか、ちゃんとわかったほうがいい」
いつも効率とか機能性とか、そんなことばかり主張する口で、なんの役にも立たないものを欲しがることが理解できない。
「ほらここ! ここなら空気抵抗も抑えられるし」
「ああそう」
「この角度でつければ、使用者の精神安定にも効果があると思う」
「はいはい」
「一日一回は空に目を向けて視界を空っぽにすると、その後の作業効率が上がるというデータがあってさ」
「あーそうなんだねー」
またもっともらしい屁理屈を言いはじめたよと、太乙は話半分で聞き流した。作業は当初の予定より大幅に遅れている。わけのわからない持論に時間を取られるわけにはいかない。
「そもそもなんできみが口出ししてるわけ? 暇なの?」
「暇じゃないけれど、とりあえずひと仕事すんだところなんだ」
「私はまだ終わってないんだけど」
「なんだか太乙、危なっかしくて」
「はあ?! 私のほうが先輩なんだけど?!」
苛立ちにまかせて吐き出してみたけれど、まったく意に介さないとばかりに、彼は勝手に筆を取った。やめておくれよと横から奪い返したが、空を一望できそうな高さの空白部分に、窓がちゃっかり書き足されていて、太乙はがっくりと膝をつく。こういうことは抜け目なく素早いのだ。
「大丈夫。すべての設計を変更する必要がない程度にしておいたよ」
「しておいたよ、じゃないよもう……
「僕も手伝うから」
「言っとくけど、これ以上攻撃力は削らないよ!」
涼しい顔で「わかっているよ」と笑いながら、うんと頭上へ視線を向けた。きらきらした瞳の奥に青い空が映っている。まるでもうそこに大きな窓が見えるような口ぶりで「きっとつけてよかったと、あなたも思うに決まってる」とのたまう。
その自信、いったいどこから出てくるんだろう。