【再録】老桜は眠る

2021年11月発行の楊普アンソロ『42 僕たちの恋模様』に掲載していただいた楊戩と普賢のお話です。
たくさんの楊普を集めたすばらしいご本でした。ありがとうございました。

あとしまつ後の教主楊戩と普賢の話。いつも誰かを助けているだろう普賢が、誰かに助けられる側になったらどうだろうと考えて書いたお話です。

「理由がなければ、いけないかな」


霧雨が降りはじめた。普段あけやらぬうちから囀る鳥たちも、いつもより暗い木陰で雨をしのいでいるようだった。
一睡もせずに夜を明かした。楊戩が腕に抱えたその人は、じっと身をあずけたままだった。あたたかいよと言ったけれど、ほんとうはどうかわからない。
「嘘でしょう」
そう訊ねると「嘘じゃないよ」と普賢は言った。
「だって僕は、きみがあたたかいことを覚えてる」
ねえ、楊戩。呼びかけた声は雨音に溶け込むささやかやだった。
「ずっと考えていたんだ。魂魄体って実はとても便利で、入れものさえ用意できれば、その人はずっとその人でいられるかもしれないって。いちど封神された魂魄は生まれ変わることはできないといわれているけれど、生まれ変わりじゃなくて——
「魂が別の体に乗りかえる、ということですか?」
「人じゃなくても、木とか、鳥とか、猫とか——
普賢師弟が猫。楊戩がおもわず吹き出すと、普賢もくすくすと笑う。
「野良猫になって、そのへんの町をわが物顔で徘徊して、知ってる人とすれ違っても知らないふりをするんだ」
「今とあまり変わらないじゃないですか」
「ええ、そうかな」
場所も時間も超えて、見ず知らずのだれかに、なにかにそっと隠れている。それはまるで宝物を探すようじゃないかと、楊戩には思えた。
「魂があなたであるなら、僕はちゃんと見つける自信がありますよ。猫でも、鳥でも」
答えないまま、普賢は笑みを深くする。
「朝だよ、楊戩。準備をしよう」