【再録】老桜は眠る

2021年11月発行の楊普アンソロ『42 僕たちの恋模様』に掲載していただいた楊戩と普賢のお話です。
たくさんの楊普を集めたすばらしいご本でした。ありがとうございました。

あとしまつ後の教主楊戩と普賢の話。いつも誰かを助けているだろう普賢が、誰かに助けられる側になったらどうだろうと考えて書いたお話です。

「理由がなければ、いけないかな」


こんな押し問答をずっと続けてきたのかと訊くと、普賢は「そうだよ」とこともなげに頷いた。にぎやかしかった鳥たちはどこか森の外へ飛んで行ったようでしんと静まり返っている。わずかに吹く風が、木の葉を囁かせている。
「最初は話すら聞いてくれなかった。対話ができるようになったのはほんとうに最近なんだ」
日差しをよけて、並んで木陰に座った。吹く風は心地よかったが、楊戩はどこかすっきりしない面持ちで空に目をやる。
「彼の願い通り、そっとしておいてもいいのでは?先は長くないのでしょう」
「ほんとうにだれにも気づかれないまま朽ちていきたいなら、だれにも見つからない状況を貫き通せばいい。結界を張るぐらいは容易いはずだから。でも……僕たちは会えた」
楊戩は普賢を見る。
「なにか、僕たちに伝えたいことがある、と?」
……こんなことを、想像したことはある?」
普賢は膝を抱えた。
「彼はほんとうはどこかに行きたかった。でも、そうできなかったのかも、って」
「できない?」
楊戩は首を傾げる。神を思わせる威厳を持ち、来る人を翻弄できる仙力を持っている者が?
「彼が許さなければきっと、僕もきみもここまでたどり着けなかった。それを打ち明けてくれる信頼関係が築けていないというだけで。……それがいつになるか、わからないだけで」
普賢がきゅっと膝を抱え直した。寒いのか、あるいは緊張しているのか。楊戩は両手を広げ姿を変えた。風を遮るそれに、普賢は目をみはる。さっきまでとは違う姿を晒すことにはもうなんの抵抗もない。こちらを覗きこむように見る目に、笑いかけた。
「こうしていれば寒くありませんので」
囲うかたちで伸ばした腕は、包み込むというにはあからさまに遠慮がちだったが、そのことに触れないのも、断らないのもきっと彼なりの優しさであるのだろう。
「ありがとう。……疲れたから、こうしていてもいい?」
もたれたのは湿気た岩肌よりも心地いいからか、どこか安心した表情で目を閉じる人に、楊戩は頷いた。
「もちろんです」
古木の指摘を心のうちに反芻する。(恋情にも似た)
だれにも打ちあけたことなどなかったし、楊戩自身でさえ、そう自覚していなかった——それをどこかで拒んでいた。彼はどう思ったのだろう。あのひとことには触れないままだけれど。
ゆっくりと夜がやってくる。火を焚かない闇は、このまま永遠に続くようだった。