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吾妻
2023-10-03 20:11:36
11519文字
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アークナイツ
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Short Story log02
SNSなどに投げ込んでいた短い話のまとめです。基本的にイチャイチャしています。
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do you wanna play?
ロドス本艦、居住区画。
既に真夜中を迎えて静まり返った廊下に、響く足音が二つ。
「
……
本当に、君が一緒で助かったよ」
頭ひとつ分低い場所から、疲労を欠片も隠そうとしない嘆息が落ちて、テキーラは隣を歩く上司を見下ろした。
いつものフェイスマスクにフード付きのコート
――
ではなく、黒のイブニングドレスに、首元と耳にだけ申し訳程度の装身具を身につけたドクターは、華やかな装いとは裏腹に、気怠げなオーラをまとっていた。顔には思いっきり「疲れた」と書いてある。
「どういたしまして。ちゃんとエスコートできてた?」
主人に合わせて、ある程度フォーマルに装ったテキーラも、きっちりと締めたネクタイを緩めて首元のボタンを一つ外す。本艦に戻ってきてようやく、息苦しさから抜け出せた気がする。
らしくもなく着飾って、どこに出かけてきたかと言えば、取引先主催の夜会である。
まったく気は進まないが断れば角が立つ。そんな類の面倒な業務だった。特に人前ではほとんど素顔を晒さないことで知られるドクターは、あれやこれやと手を尽くしてなんとか断ろうと画策していたようだが
――
結果はこの通り。
お得意の裏工作でもどうにもならず、やむなく参加を決断した上司兼恋人によって、テキーラはエスコート役兼護衛として駆り出されたのだった。
「人と話すのは好きな方だけど、ああいう席で代わる代わる話しかけられるのは疲れるよ。言葉の裏を読みながらでは、せっかくの酒や料理の味もわかったものじゃない」
「ロドスについて知りたがっている人はたくさんいるだろうしね。それに
――
」
ドクターのこととなると尚更じゃないかな、という言葉をテキーラは途中で飲み込んだが、勘のいい上司は部下の言わんとしていることを察したのか、横目でテキーラを見上げてきた。
「得体の知れない生き物でいた方が、色々とやりやすいんだけどなぁ」
〝謎〟は人を惹きつけ、同時に恐れさせる。
ドクターが常に防護服を着用しているのは、身体の保護が目的だ。しかし、素性を大っぴらにしないことで、相手の出方をコントロールしている面も少なからずあるのだろう。
「確かにそうかもね」
相槌を打ちながら、テキーラは改めてドクターの今夜の装いを頭から順繰りに眺めた。
一芸に秀でたオペレーターたちのちょっかい
――
もとい厚意によって、コーディネートはもちろんヘアメイクにも余念がない。
人形じみた端正な顔立ちに丁寧な装飾が施され、ケープスリーブのドレスが細身の身体をよく引き立て
……
。お陰で今夜は『ロドスのドクター』と知って接触してくる連中以外にも、フラフラと引き寄せられる男のなんと多かったことか。
恋人の着飾った姿を見られるのは素直に嬉しいが、正直なところ誰彼構わず他人に見せたいものでもなく。
つまりは〝こういう格好でお外に出したくないなぁ〟というのが、テキーラの本音である。彼女がどれほど魅力的なのかについては、自分だけが知っていればいい。
そういう意味では、今日の同行者に自分を選んでくれて本当によかった。機転を効かせて取引先との〝社交〟の手伝いもできたし、下心を向けてくる不届きな輩も手ずから排除できた。
エスコート役としても護衛としても、なかなかの働きっぷりだったと思う。
「それにしても、普段と違う格好をしていても、〝仕込み〟は怠らないものなんだな?」
「ああ、あれ? なんというか、いつもの癖で」
ドクターが言っているのは、話題を上手くすり替えるために披露した手品のことだ。イカサマの手口を応用した簡単なものだったが、それなりにウケたし、目論見通りに話題を変えることもできた。常日頃から奥の手を隠しておく習慣が、役に立ったなら何よりだ。
そんな取り留めもない話をしているうちに、いつの間にかドクターの私室の前まで辿り着いていた。
ドクターの私室は、居住区画でも奥まった場所にあり、テキーラを始め、オペレーターたちが割り当てられているエリアとは少々距離がある。というか、テキーラは自分の部屋の前を通り過ぎて、わざわざここまで主人を送り届けにきたのだ。
酒の味も碌に分からないような夜会では酔えもしなかっただろうが、着慣れない服に履き慣れない靴を身につけているパートナーを最後までエスコートするのも男の役目だろう。
「ちゃんと着替えて、お化粧も落として寝てね。明日はアーミヤさんが午前休にしてくれてるはずだから午後出勤で大丈夫だけど、夜更かしして仕事とかしちゃダメだ
……
よ
……
? ドクター?」
甲斐甲斐しい忠犬の顔で主人を諭しつつ、紳士的に「おやすみ」の挨拶をしようとしていたテキーラの袖口を、不意にドクターの手が掴み、軽く引っ張った。以前、二人で興じたカードゲームの際に、イカサマの仕込みを見咎められた時と同じような引っ張り方だった。
「ちょっとドクター? もう流石にそこにはカード隠してないけど
……
」
「刺激に欠ける宴席だったせいか、少し物足りないんだ」
袖口を掴んだまま、女の手が離れない。
簡単に振り解ける程度の力に縫い止められて、身動きが取れないテキーラに向けて、ドクターは口元を綻ばせて、
「もう少し、遊んでいかないか?」
――
と、言った。
真夜中の、照明の絞られた薄暗い廊下で、ドクターの双眸が常夜灯を跳ね返して妖しく光る。
二度ほどまばたきをしたところで、テキーラは相手の〝遠回しなお誘い〟を悟り、小さく笑った。
戯れるように袖口を引っ張る女の細い指を捕まえて、自分の指で絡め取って、それから。
「いいよ。じゃあ、何して遊ぶ?」
赤を引かれた唇に、そっとくちづけを落とした。
【終わり】
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