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吾妻
2023-10-03 20:11:36
11519文字
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アークナイツ
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Short Story log02
SNSなどに投げ込んでいた短い話のまとめです。基本的にイチャイチャしています。
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事前報酬
「事前調査?」
「そう。できれば君に頼みたいんだ。別の外勤から戻ってきたばかりで申し訳ないんだけど」
深夜。照明の落とされた室内。場所はベッドの上。
しかも床には脱ぎ落とされた衣服が散らばっているとなると、本来ならばもっと色っぽい話に発展するはずなのだが。
先程までこの腕に組み敷かれて甘ったるい声を上げていたドクターは、一糸まとわぬ姿でベッドの縁に腰掛けて個人端末の画面を見つめている。喉の乾きを覚えてベッドを降りようとしたくせに、デスクの上に置いてあった端末を拾い上げた瞬間、動きを止めてしまったのだ。
おそらく仕事の連絡に気づいたのだろう。真っ暗な室内に、ディスプレイの放つ不健康な光がぼんやりと灯っている。
ピロートークが仕事の話になってしまうのは、別に今に始まったことじゃない。ドクターと俺が上司と部下という関係性であり、彼女が仕事の鬼である以上、致し方のない話だ。
それに俺は、仕事の話をしているドクターの顔が好きだ。冴え冴えとした双眸で今何を見て、今何を考えているのかを想像するのは刺激的で、一を問えば過不足なく二以上のものを打ち返してくれるのも心地いい。つまり、彼女の突出した頭の良さが感じ取れて、端的に言うと胸がときめく。
だが、その格好はいただけない。体が強い方でもないんだから、風邪でも引いたら大変だ。
手近に何かいいものはないかと探して、ベッドの隅に落ちていた水色のパーカーを手繰り寄せる。相も変わらず熱心に端末を覗き込んでいるドクターの肩にそれを羽織らせてた。
ドクターは疑問の声も抗議も一切上げず、まだ画面に目を走らせているので、俺は遠慮なく恋人の彼シャツならぬ彼パーカー姿を堪能することにした。
彼女の細い体躯に俺のパーカーはかなり大きくて、腰回りはもちろん、太もものあたりまでを覆うので、体格差を否応なく意識してしまう。こんなベタなシチュエーション、特段好きでも何でもなかったはずなのに、案外悪くないと思えてしまった。
できれば今すぐ後ろから抱き込みたかったのだけれど、横から覗き込んだ彼女の表情が真剣そのものだったので、じゃれつくのはやめておいた。空気が読めて待ての出来る犬なので、仕事の邪魔はしないと決めているのだ。
「先に派遣していた調査員と連絡が取れなくなってしまったみたいでね。詳細はわからないけど、何らかのトラブルに巻き込まれた可能性が高い。だから、調査能力だけでなく、いざという時に単独で判断ができて、危険な状況に陥っても切り抜けられる人材が欲しいんだよ」
つまりドクターは俺のことを、それらの条件を満たせる頼りになる部下だと見做しているわけだ。
確かに他の外勤から戻った直後ではあるものの、それを考慮してでも俺に頼みたいと言うなら、頷かざるを得ない。
「頼めるかな?」
端末から顔を上げて、ドクターがこちらを振り返った。承諾を得るときは、できる限り視線を合わせようとする誠実さが、俺は好きだ。
有能な部下としての俺なら、二つ返事で「わかった」と答える場面だ。だが、今は業務時間外であり、先程まで散々抱き合っていた余韻がまだ残っていたので、少しだけ意地の悪い自分が顔を出して、
「ご褒美にキスしてくれたら頑張れるんだけど」
などと、調子のいい発言をしてしまった。
予想外の返答だったのか、ドクターはぱちくりと目を瞠る。滅多に見れない可愛い顔なので、それだけでも収穫を得られたと言っていい。
「じょ
――
」
冗談だよ、ごめんね。と詫びようとしたら、丸く見開かれたドクターの瞳が、すうっと細められた。普段はフェイスマスクをしているから、その表情が悪巧みをしている時のものだと知っている者はごく少数だ。しかし、運がいいのか悪いのか、俺はその仕草の意味を知っていた。
掌を上に向けた細腕が伸ばされて、まるで猫の喉をくすぐるように、折れそうな指が首筋を撫で上げてくる。中指の先が喉仏を掠めたあたりで、思わず息を呑んでしまった。
端末より重いものを持てなそうなその指が、俺の顎の裏に触れて、くい、とあまりに自然に持ち上げる。
「ドク
――
」
呼び掛けを封じるように、近づいてきたドクターの唇がこちらのそれに重なった。少しだけ食むような動きをして、ゆっくりと離れていく。
突然のことに瞬きもできずにいると、まだ吐息が触れそうな距離にあるドクターの顔が、やたらと妖艶な笑みを浮かべた。
「これで頑張ってくれるかな?」
強く握ったら折れそうな指先に、顎を持ち上げられたまま、俺は半分夢心地でその言葉を聞いた。
一拍置いて、背筋のあたりがぞくりと震えて、鼓動が早まるのがわかる。
ちょっとドクター、それは狡すぎるんじゃない?
色恋沙汰なんて興味がなさそうな顔をしているくせに、時々強烈なカウンターを繰り出してくるから心臓に悪い。最初に悪戯を仕掛けたのはこっちなのに、身悶えしてしまってうまく言葉が出てこない。
わかった、頑張るよ。
心の中の忠犬はパタパタと尻尾を振って恭順を示したけれど、彼女にすっかり骨抜きになっている躾のなっていない部分が顔を出して、気づいたら彼女が羽織っている自分のパーカーの襟元を掴んで引き寄せていた。
「
……
もっとちょうだい」
結局言えたのはそれだけで、あとは目の前の唇に噛み付くことしかできなかった。
【終わり】
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