著者: 雷歌/らいと
2026-07-17 00:28:05
7013文字
Public バンやろ
 

【bnyr / 宗翼宗・大京・宗一・進徹】VT5無配SS

(pixivより再掲)欠席してしまったVT5で配布予定だった無配SSです。


進徹


 街が可愛らしいピンクや赤に彩られ始めた頃、徹平は凶悪な顔をますます険しくさせて悩んでいた。
 すれ違う人々がぎょっとして道を開けていく様は、さながらモーゼのようだ。道を開けるどころか、徹平から数メートルも距離を置いているのだが。
 そのことに気付いていない徹平は、可愛らしい色の看板が視界に入り、その足を止めた。
 看板を置いている店の店員が、足を止めた人間がいることに気付いたが、あまりにも恐ろしい顔で睨みつけているため、足がすくんでしまっていた。
 徹平が見つめる看板には、バレンタインチョコレートフェアと書かれている。まさに、そのことについて徹平は悩んでいた。
 果たして、恋人はチョコレートを欲しがるだろうか。
 徹平の恋人は、オシリスのドラムを担当する小金井進である。魚屋を営み、そして魚屋らしく魚を愛す。だったらチョコレートよりも魚が良いのではないか、と考えてしまうのだ。
 一方、魚屋に魚を贈るのはどうなんだと冷静に突っ込む自分もいる。おそらく、直接聞くのが一番だろう。しかし、進は徹平の事情をよく知っているので、いらないと言うのが目に見えている。
(日ごろの感謝を伝えるのにも、ちょうどいいしなあ)
 付き合い始めてからというものの、食事をよくご馳走になっていた。
進がふるまう魚料理はどれも美味しく、しかも魚料理であればかなりのレパートリーを会得しているらしく、飽きはこない。さらには、高校生は食べ盛りだからな、といって時には肉料理も用意してくれる。
 あまりの甲斐甲斐しさに、甘やかされすぎてはいないかと、時々不安になるのだ。
「チョコレートが欲しいのか?」
 唐突に聞きなじんだ声が耳に届き、徹平は驚いて声のした方へ顔を動かす。徹平と同じように看板を見ている進が、いつの間にか隣に立っていた。
「あ、あれ、進さん? もしかして俺、時間を」
「いや、約束の時間はまだだけどな。待ち合わせ場所に向かってる途中で見かけたから」
 だから声をかけた、という進。驚かせて悪いな、と人好きのする笑みを浮かべて続けた。
「それで、一生懸命この看板見てたが、徹平はチョコ好きだったのか?」
「い、いや、そういうわけじゃ」
 バレンタインチョコ欲しいかどうか、聞くなら今がチャンスではなかろうか。徹平ははたと気付く。しかし、とまた違う意見が浮かぶが悩んでいても解決しないことだからと、頭を振って余計なことを飛ばした。
「あ、あの、進さんは、その、こういうバレンタインのチョコとか、欲しい人っすか?」
 少しだけ遠まわしな聞き方になってしまった。しかし、察しの良い進ならば、徹平の聞きたいことはわかっただろう。
 おかしそうな笑みを浮かべて、顔を真っ赤にさせる徹平の頭を軽く撫でた。
「もらえるともちろん嬉しいがな、無理はしてもらいたくねえな」
 その答えに、徹平の心は決まった。無理はしない程度に、なんとかこういうものを用意しよう、と。
幅広い年齢を対象にしているため、安価なものももちろんある。自分のような人間が、チョコレートが陳列してある店を物色するのは、なかなかな絵面になってしまうが、それも致し方ない。
「わ、わかりました。無理をしない程度で」
「俺としては、気持ちだけでも良いんだが」
 大人の余裕を見せるかのような言葉に、徹平は眉を寄せた。
 こういうところが少しずるい、とも思ってしまう。まるで自分だけが、相手に必死になっているように見えて。もちろん、甘やかされているので一方向ではないのだが、時には求められたいとも思ってしまう。
 こういうのガキっぽいかもと考えてしまい、徹平は口に出せずにいるのだが。
 徹平は知らないのだ。進に向けられる笑みや仕草や、つまりは無防備とも言える徹平の態度に、相手はものすごい耐久力を強いられていることに。
 自分のために何かしようとしてくれているという時点で、ああもう可愛いなちくしょう、と進の中で黒い欲望が渦巻く。とはいえ、まだ高校生だし未成年だしと、冷静な部分の的確な警告で、ぐっと抑え込んでいた。
「寒いから、もう行くか」
「あ、はい、行きましょう」
 冷気にあてられて、徹平の鼻先は少し赤い。それさえも可愛いと感じ、どうしようもねえなと、笑みを浮かべながら心の中でため息をついた。



「ちょーこー???」
「あ、いや、なんでもないっす」
 後日、安価でもそれなりに見えるチョコはなにかと比較的話の通じ易い先輩に聞いたところ、胡乱げな目で見られ徹平は口をつぐんだ。
 どうやらチョコの話題は厳禁らしい。またしばらく、徹平一人で悩む日々が続きそうだ。

おわり。