著者: 雷歌/らいと
2026-07-17 00:28:05
7013文字
Public バンやろ
 

【bnyr / 宗翼宗・大京・宗一・進徹】VT5無配SS

(pixivより再掲)欠席してしまったVT5で配布予定だった無配SSです。


宗翼宗


「チャンス以外の何者でもないでしょ!」
 そう言って、翼は実感をともなってないほかの三人に全力で訴えた。
 狙ったわけではないが、次のエデンのライブの日がちょうどバレンタインの日である。それならば、もっとバレンタインであるということを盛り上げて、チョコレートをたくさんもらおうと翼は意気込んでいるのだ。
 宗介は、より多くチョコ――彼はただの食料としてしか見ていない――貰えるなら悪くねえな、とひとつ頷く。徹平は、増えるとは思わないと否定的だ。
「とりあえず、どうするんだ?」
 大和はとにかく、ライブが楽しいものになるなら受け入れるつもりなのだろう。輝く目を翼に向けながら、そう聞いた。
「ライブポスターはなるべく、チョコレートを連想させるものにする。あとは、定番のバレンタイン曲をカバーしたいな」
 すでに考えていたことなのだろう。翼は案をするすると出し、計画もしっかり考えてきていた。
 宗介による修正も入ったが、おおむね翼の案を取り入れて行うということになり、その日はお開きになった。


「やけに必死だな」
 宗介がそう言ったのは、帰り際のことである。
帰っている最中に話していたのはバレンタインの話題ではなかったため、一瞬なんのことかと翼は首を捻ったが、チョコだよ、という宗介の補足で、ああと声を漏らした。
「今年こそは、トラック一杯のチョコレートっていう俺の夢を叶えたくて!」
 毎年、こりもせずそういう夢を見る。無謀な夢だとはわかっているが、もし叶ったらとてつもなく嬉しいことだ。トラック一杯のチョコレート、それはつまりそれだけ自分に向けられた愛情があるという実感だ。
「そうかよ」
 ぶっきらぼうに言う宗介に、おや、と翼は首を傾げた。
 いつもならくだらねえと言うか、妙な調子で煽ってくるのだが、今日は一言だけ。
「宗介、なんか変なものでも食べた?」
「もやしなら、消費期限前に食ってる」
「そうじゃない」
 気のせいならばいいのだが、何かを考えているようにも見えた。
 チョコレートの話題を振ってきたのならそういう話なのだろうが、翼はよくわからなくて首を捻るばかりだ。もしかして、と一瞬頭を過ぎった疑問を口にする。
「宗介さ、もしかして俺からのチョコレート、欲しかったりする?」
「もらえるならもらう」
 あっさりと返してきた答えに、翼は肩透かしをくらった気分でいた。どうやら違ったらしい。そもそも、チョコレートを食料としてみているのだから、宗介がそれを拒む理由はないだろう。
 それならば、なんだ。
 眉を寄せて考えている、宗介から舌打ちが漏れた。
 なに、と問えば宗介は至極不愉快そうな表情のまま言う。
「てめえはいらねえのかよ。俺からのチョコ」
……え?」
 聞き間違えたんじゃないか、と翼は自分の耳を疑った。
 なんて? と口にすれば、宗介の顔がますます不機嫌そうに変わる。
「てめえがチョコに何を求めてんのかぐらいわかってんだよ。それで、俺からのはいらねえたあどういう了見だ、ああ?」
「待って待っていらないとかいってない」
「欲しいとも言ってねえだろうが」
「だって、くれるなんて」
 くれるなんて想像もしなかった。馬鹿がつくぐらいギターと音楽に命をかける宗介が。その他のことには本当ならびた一文でも使いたくない宗介が。自分のためではなく他人のためにチョコレートを用意するなんて想像できるだろうか。
「てめえはもっと欲しがれよ」
「ええ?」
 結構欲しがっているはずだ。トラック一杯のチョコレートなんていっているぐらいだから。けれど、そう、確かに、宗介に対しては欲しがってないかもしれない。
「で? どうなんだよ」
「あ、うん、ええと、欲しい……かな、宗介からのチョコ」
 いざ口にすると、血が沸騰しそうなぐらい恥ずかしい。いつもなら、ふざけながらもチョコレート欲しいな、なんて女の子に対して言っているのに。
「おい翼」
「え?」
 気付けば、宗介の顔が目の前に迫っていた。
「どんなもんでも、返品不可だからな」
 いったいどんなのを渡すつもりなのかと思ったが、思考は柔らかな感触にすべて奪われていった。

おわり。