著者: 雷歌/らいと
2026-07-17 00:28:05
7013文字
Public バンやろ
 

【bnyr / 宗翼宗・大京・宗一・進徹】VT5無配SS

(pixivより再掲)欠席してしまったVT5で配布予定だった無配SSです。


宗一


「うわ」
 そう声が漏れたのは、両方からだった。お互いの手に持つ複数の紙袋。明らかにラッピングされたものであろうことが、袋の上からのぞいて見えてわかった。
「なんだその数、引く」
「いやお前のもそう変わらないだろ」
 一方的な物言いにすかさず突っ込み、一真は改めて宗介が持つ紙袋へ目をやった。
 なんでこんな目付きも口も悪い奴が、チョコレートをもらうのだろうと不思議に思う。
 本日は正式にはバレンタインデイではない。ちょうど本番の日が日曜であるため、それよりも前の金曜に学校を同じくする生徒たちは、思い思いの相手にチョコレート渡していた。
 緋ノ山第一高校でもそれなりの人気を擁する宗介は、例に漏れず大量のチョコレートをもらったのだ。
「ああ? んな見てもやらねえぞ」
「いらねーから」
 一真も宗介と同じように、同じ高校の生徒からチョコレートをもらっていた。とはいえ、この数を一人で食べるのは苦労するため今年はどうやって数を減らそうか考えているぐらいだ。
「お前……それ、一人で食べるのか」
「当たり前だろうが。チョコレートとはいえ貴重な食料だぞ。もっとあってもいいぐらいだ」
 その宗介の発言に、もしかしてこれはチャンスなのでは、とひらめく。自身の右手にある紙袋へ視線をやり、小さく呼吸を繰り返してから、言葉を口にした。
「だったら、これもいるか?」
 右手に持っていた紙袋を軽く上にあげ、欲しいならやる、という態度を示す。だが。
「てめえからの施しなんぞ受けねえ!」
「なんでだよっ」
 もっとあってもいいのではなかったか。相変わらず思考がわからないと一真はため息をついた。
 ちなみに二人は、エデンでのライブ打ち合わせのために来たところ、ばったりと鉢合わせたのだ。他のバンドメンバーも来る予定なのだが、誰よりも先に来てしまった二人である。
(他のやつらはまだか……っ)
 吉宗はまだしも、葵陽や美郷はどちらかというと約束の時間より早めに来るタイプだ。待ち合わせの時間よりもまだ確かに早いのだが、そろそろ来てもおかしくない。
 顔を合わせると、つい喧嘩腰――自分は悪くないとお互いに思っている――になってしまうため、気まずいのが本音だ。もっとちゃんとした会話をしたいのだが、どうもうまくいかない。一真は複雑な表情を浮かべながら、せわしなく時計を確認するばかりである。
「おい」
「なんだよ」
「てめえからのチョコはねえのかよ」
「はあ? さっきいらないって言っただろ」
「それは、てめえが他の奴から受け取ったもんだろ。そうじゃねえ」
「俺からのチョコって……欲しいのか?」
「ああ? バレンタインってのは目と目が合った人間に、己の魂を込めたチョコをいかに押し付けるか、勝負の日だろうが」
「違うッ」
 どうすればそんな勘違いをするのか。それとも、すべてが間違いとも言えないから、わざとそういう表現をしているのか。一真にはまったく理解できなかった。
「だいたい、その理屈でいくなら、てめーからのチョコも俺にあるってことに」
「おらよ」
……は?」
 冗談で話にのったつもりが、無造作にこちらへと放り投げられたものを手にし、一真は呆けた。
小さくはあるが、黒の箱に赤いリボンのラッピング。会話の流れからして、確実にチョコレートだ。
「え、な、なんで?」
「ハッ、俺の勝ちだな」
「はあ?」
「チョコを大量に得るために他の奴らにはあえて負け続けていたが、てめえにだけは負けるわけにはいかねえからな」
「いや、だから、バレンタインはそういう日じゃない……っ」
 ああもう面倒くさい、と思いながらも一真はバレンタインがどんな日であるかを、きっちりと説明しはじめた。



 エデンの外。ドアに耳をつけて中の様子を伺う三つの人影。それを見守る、さらに三つの人影。
「もう入ってもいいか?」
「まだだめ! 一真くんが宗介くんにチョコを渡すまで!」
 一真と同じバンドメンバーである三人は知っている。一真の右手にある紙袋の中には、ひとつだけ他の人間からもらったものではないチョコがあるということを。

おわり。