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もち粉
2026-06-29 21:44:12
21156文字
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「愛のしおり」を読み込んで ――誠実なる友人からのアドバイス(前編)
モブミス カブ→ミス
ギャルとキモ男と練習デート
※名前のあるモブがもりもり出ます
1
2
3
4
ミスぴの食べるペースが落ちて、しまった、頼みすぎたかなって思い始めたころ、テラスに面した大通りからカブっちが現れた。
「あ、こんにちは。リナさん、ミスルンさん」
「あれ、カブっちも今日休み?」
「午後の打ち合わせの予定がキャンセルになってしまって。たまには早く帰ろうかと」
「そーなんだ。おつかれー」
カブっちがいつまでも立ち去らないものだから、ウチは仕方なく声をかけた。
「よかったらカブっちも一緒する? 頼みすぎちゃったし。いい? ミスぴ」
「構わない。カブルー、お前もどうせろくに昼食をとってないのだろう」
(うーん。そこは「二人でいるから」って断ってほしかったなぁ)
好きぴの友達を、こっちから断るのは気ぃ遣うじゃん。
「あはは、お見通しですか。じゃあご相伴にあずかります。おふたりも、飲み物のおかわりはいかがですか?」
カブっちはカウンターで三人分の飲み物を注文して、ウチらの席にやってきた。
ウチらが外でデートしてると、結構よくカブっちと遭遇する。暇なのかな。
彼女でもいれば、休日くらいそっちを優先しそうなのに。
でもカブっち、たまに今みたいに空気読めないとこあるからなぁ。意外とモテなかったりすんのかな。
「
……
ずいぶんたくさん頼んだんですね」
「えへへ。ちょっと多かったよね、お弁当も食べたあとだし。カブっちも食べて」
「そうですね、あんまり食べるとミスルンさんが夕飯食べられなくなっちゃいますし」
んんー?
今の、なんかマウンティングみを感じたぞ?
「俺の方が彼の適量をわかってますけど?」みたいな。
ま、私もマリマリやベティにカレが出来たときは「ぽっと出の男にあの子の何がわかんのよ」って思ったもんよ。
――
マリマリ、ベティ、ウチらズッ友だからね!!
地元のイツメンたちを思い浮かべた時に、脳裏をよぎった影から意識をそらし、隣のミスぴの腕にしなだれかかった。
「ミスぴ、食べ終わったら靴屋さん行こ」
「うん」
カブっちの持つドーナツがポロリと割れてお皿に落ちた。
セーフセーフ、床に落ちなくてよかったね。
◆
夕陽に照らされた紙袋の中で、新しい靴の箱が、かたかたと小気味いい音を鳴らす。
ほっくほくの気分で紙袋を下げたウチは、空いた片手でミスぴと手を繋いでいた。
靴屋さんで、赤いパンプスとシルバーのサンダルで延々悩んじゃってさ。
「ねえ、どっちのが似合う?」
ってミスぴに聞いたら、「どちらも似合う」って言って、ぽんと二足とも買ってくれたのだ。
え、いやいやそんなぁ、そんなつもりじゃ
……
えへへ、ありがと。
ちなみに最初のデートでは「どっちでもいい」と言い放ったミスぴをこう言えるように育てたのはウチの功績です。えっへん。
それにしてもミスぴって謎にお金持ちなんだよな。それが目当てで付き合ってるわけじゃないけど、やっぱりオトコは経済力よね、なんて。
地元にいたころは
……
お金ないお金ないって、ケーキ一個を半分こしたり、誕プレのためにバイト増やして会う時間が減ってケンカしたり
――
。
そんなのだって、あれはあれで楽しかったけど。
繋いだミスぴの手を、キュッと力を込めて握りしめてみたけれど、ミスぴが握り返してくれることはなかった。
ミスぴって何しても嫌がらないけど、積極的に応えてもくれないんだよね。
付き合ってもう半年経ったけど、なんにもない。ウチから一回ほっぺにちゅーしただけ。その時のミスぴは珍しくびっくりしたような顔をして、ぱっと頬を赤くしたから
……
ウチのこと少しは好きでいてくれてると思うんだけど。
(ま、しゃーなし。ウチから付き合ってって言ってる立場だもんね)
「リナ!!」
その時、人混みの向こうから力強い声で名前を呼ばれて
――
時が止まった。
「
……
ダイ?」
振り返ると、見慣れた短い黒髪と、相変わらず日に焼けた顔があった。
地元にいるはずの、幼馴染。
息を切らしているくせに、その目だけは昔と同じ真っ直ぐさだった。
「どうしたの、なんでここにいるのよ!?」
「こっちで仕事が決まって、今日着いたんだ。お前の伯父さんの店で聞いたら、この辺にいるっていうからさ」
仕事? こっちで?
……
また、一緒にいられるの?
「ま、それにしても」ダイがちらりとミスぴに視線を送る。その視線に嫌なものを感じて、ウチは一歩前に出てミスぴを後ろに隠した。
「オマエがデートしてるって聞いたから驚いたぜ。なんだ、女の子じゃねぇか」
「いや、ミスぴ男の人だから。ウチのカレシだから」
「は、男? こいつがカレシ!?」
ダイが近づいてきて、ウチの後ろを覗き込むようにミスぴをじろじろと不躾に見た。
「チビじゃねえか」
ダイの無遠慮な言葉にも、ミスぴは特に反応しない。ぼやっとダイの胸元あたりに視線をさまよわせているだけだ。
代わりにウチの頭が沸騰した。
「ウチのカレシバカにすんなし!」
気づけば右手が動いていた。
じんじんと痺れるような痛みが遅れてやってくる。
顔を押さえて、ぽかんとしている幼馴染を睨みつけた目の奥がじわりと熱くなっていく。
もうやだ。なんでこいつはいつもこうなんだ。久々に会ったっていうのに、何か他にいうことはないわけ?
「あ、いやあの、スマネ、その
……
」
ウチの涙目を見て動揺したダイが慌ててわたわたと手を彷徨わせる。
知るかバカ。本格的に涙がこぼれそうになったその時、静かな声がした。
「そこの男」
たった一言。
けれど不思議と、その場にいた全員が耳を傾けてしまうような声だった。
「何か、彼女に話があってわざわざ探していたのだろう。
……
ちゃんと話しなさい。リナは人の話を聞けない女性ではない」
「オマエ
……
」
二人は束の間(ウチを挟んで)見つめ合った。
なになに、なんか男同士で勝手にわかりあっちゃってさぁ。
ダイはすっと真面目な顔になると、一歩下がって真剣な目でみつめてくる。途端にウチの心臓がうるさいくらいに高鳴った。
「リナ
……
、オマエが地元を出ていって、会えなくなって気がついた。
オレにはオマエ以上の女はいねえ。そいつと別れて、オレとやり直してくれ!」
開いた口がふさがらない。
バカじゃないの、バカじゃないの。ウチ、カレシがいるって言ってんじゃん。そんな、ウチがフリーかどうかも確認せずに地元の仕事を辞めたわけ? ウチが断ったらあんた知らない街で、一人寂しく働くの?
そーだ、こいつは昔からこういう、信じられないくらいのバカだった。
呆れ果てた気持ちと共に深く息を吐いたとき、そっと背中にミスぴの手が触れた。
ミスぴは、微かに笑っていた。
どこまでも穏やかに、慈しむように。
背中に添えられた薄い手のひらが、「行っておいで」と告げているみたいだった。
「あちらにしなさい」
「ミスぴ
……
」
ウチはそんな移り気な女の子じゃないよって言いたかったけど、ミスぴの顔を見たら何も言えなくなってしまった。
……
この人は、決してウチを引き留めてはくれないのだ。
胸の奥がツンと痛んだけれど、不思議と涙は出なかった。いつかこうなるんじゃないかって、心のどこかでずっと予感していたから。
「おまえのしあわせを願ってる」
それは、残酷なほどに純粋な祝福だった。
ミスぴの触れた背中の温かさに送りだされて、深く息を吸う。
そして、一歩を踏み出して、緊張した面持ちでウチを待つ、幼馴染のその手を取った。
◆
「
……
別れた?」
「うん」
最近はリナのいる食堂に行っても、彼女はミスルンさんの隣に座ってこない。
親しげに言葉は交わすが、以前のように、リナが「ミスぴ、ウチもうすぐ上がりだから待っててー」なんて言って、俺だけ先に帰らされることもなくなった。
期待に弾みそうになる心を必死で押さえつけつつ、何かあったのかと聞いてみれば、ミスルンさんはいつものどこか遠いところを見ているような顔で「別れた」と告げたのだ。
二人は円満にお別れをして、リナには彼女を追いかけてきた幼馴染の彼氏ができたという。
よし。
心の中で拳を握る。
俺はこの半年、本当によく我慢した。
もしも彼女がミスルンさんの家柄や財力目当てで取り入ろうとしているような小ずるい女性なら、なにかしら画策してでも引き剥がそうと思ってた。
そういう周囲に、ずっと傷ついてきたミスルンさんだから。
だけどリナが、付け入る隙もないくらい普通にいい子だったものだから、俺はただ歯噛みをしながら黙って見守るしかなかった。
けれど今、彼はフリーになった。
そしてなにより相手の幸せを願って手を離してあげられるくらいには、心が回復しているのだ。
……
今度こそ、俺が動いたっていいんじゃないか?
きっと彼は俺にも「うん」と言ってくれる。
願わくば、リナの時よりも少しは感情の乗った声で応えてほしいものだけど、それは付き合ってからおいおいでも構わない。
グズグズしていては、また彼が誰かの交際の申込みに頷いてしまわないとも限らない。とりあえず俺の手元に確保することが大切なのだ。
彼の「うん」をこれからは俺だけに向けてもらいたい。
どうしよう、なんて言おうか。
石畳を踏む足取りは、自分でも笑ってしまうほど自然と軽い。正午前の日差しが、やけに心地よく感じられた。
すれ違う通行人にまで愛想を振りまきながらいつもの待ち合わせ場所である食堂に向かう。
告白はシチュエーションが大切だ。
一生思い出してもらえるような、特別な舞台を整えよう。
ああでも心が浮き立ち過ぎて、この食堂のドアを開けて、彼の顔を見た瞬間にその場で言ってしまいそうだ。
セリフはどんなのがいいだろう。
「愛してます」はいきなり重いかな。エルフ語で詩を詠みかけたほうがいいだろうか。
……
いや、ここはやっぱり、シンプルにストレートにいくべきだ。
「好きです! 付き合ってくだひゃい!!」
カララン、と軽やかなベルが鳴る。
俺は、店のドアノブを握りしめたまま足を止めた。
待って、今の俺じゃない。
俺はこんな、余裕のない甲高い声ではない。
目の前には床に跪いてミスルンさんに深紅のバラの花束を差し出す太ましい男。
しん
……
と店中が静まり返って事の顛末を見守る中、ミスルンさんは、まるで落ちていた枝切れでも拾うかのように無造作にその花束を受け取った。
「うん」
……
またかよ!! っていうかそいつ誰!?
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