遊音。(ゆね)
2026-06-28 15:45:27
6745文字
Public 初恋
 

はつこい。番外編SS


はつこい。の番外編をまとめていきます。全4篇。
本編はこちらです。 https://privatter.me/user/yune100m?category=113868




かわいい。


 近くのテーブルに小さい女の子が座っているのを見て、トガシは口を開いた。
「俺さ、可愛いってわからなくて」
 そう言うと、向かいに座るカバキが視線を上げて何かとこちらを伺ってくるので、トガシは少し笑って続けた。
「ほら、赤ちゃんとか、小さいぬいぐるみとか、みんな見た瞬間に可愛い、可愛いって言うでしょ。あぁいうの全然わからなくてさ。可愛いと思ったこともないし、なんで見ただけでそんな可愛いって言えるのかわからなくて」
「トガシさんらしいですね」
 納得されて、トガシはまた笑った。
「存在そのものが可愛いってほんとなにっていうか。だって人間であったり、人形であったり、それ以上でもそれ以下でもないじゃない? あとしぐさが可愛いとか、態度が可愛いとか」
「なるほど」
 カバキはさして興味もなさそうにテーブルに置かれた紙コップに入ったウーロン茶をストローで飲んだ。だがトガシは知っている。興味なさそうにしてても自分の会話をちゃんと聞いてることを。
「よく一瞬見ただけで『かわいー!』なんて騒げるよなって。写真や画像見ただけで『可愛い』って騒いで楽しいのか、って。周りにあわせてたまに相槌うつことはあったけど、ホントに全然わからなくてね」
「まぁ……トガシさんってそういうとこありますよね」
 話の終わりどころがわからないからだろうか、カバキは同意するだけなので、トガシもそのまま続ける。
「でもね、最近あぁ、こういうの可愛いっていうのかなって思うことがあって。それなんでだろって、考えてたんだけど、愛しいからだなって気づいて」
 ストローを咥えたカバキが視線だけ見上げてくる。
「寝顔とか、俺の言葉で笑った時とか、キス強請ってくるときとか、あぁ、こういうの可愛いって言うんだなって思って。でもそれなんでだろって思ってたんだけど、俺がカバキくんのこと好きだからかなって思って。じゃあ、こういう好きって感情が根底にあるから可愛いって思――
 突然口元に突っ込まれたのはカバキが食べかけで置いてあった半分程度になったハンバーガーだ。おかげで言葉が最後まで言えなくなってトガシは眉をしかめる。途中からカバキが目を見開いて変な顔をしてくるなとは思っていたが、今は顔を真っ赤にしてわななかせている。
「はひする……
「ここ……どこだと思ってんですか……ッ!」
 小声で叫んでくるカバキに、トガシは口に入ったハンバーガーを一口噛んで手に取ると、ゆっくりと咀嚼してから答えた。
「マック」
「その通り、マクドですよ……! しかも休日の……!」
 店内は人でたしかにひしめき合っている。トガシがちらりと周りを眺めるとたしかにちらちら見られている感じもする。
……ダメなの?」
……恥ずかしいとかそういう感情もないんですか、アンタ……
「事実言ってるだけだし……
「その思ったことそのまま言うのどうかとおもいます。TPO考えてください。もうちょっと社会性ありましたよね?」
 そう言われても、と思いながらトガシは手に持ったハンバーガーをちらりと眺めて、カバキに差し出した。
「食べる?」
 残りをカバキの口元に差し出そうとすると、奪い取られる。カバキはドリンクのカップを持って立ち上がった。
「先に出てます」
 え、と思う間に怒ったような表情でカバキはそのまま足早に外に出て行ってしまった。
 背中を見送って、トガシはどうしようかなと思いながら残った自分のドリンクを飲む。
 ふと隣に座っている女の子と目があったので、目を緩ませた。
「お兄ちゃん、いっちゃったねぇ」
「ね、行っちゃったね」
「お兄ちゃん、なんで怒ったの?」
「なんでだろうね?」
 トガシが首をかしげると、女の子も首をかしげる。
 可愛いね、と女の子に言うとニッコリ笑ってくれたのに微笑んで、トガシは残った紙屑を片付けると出口で仏頂面しているだろう恋人を追いかけた。



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私は反対側のテーブルに座るモブになってポテトをぽとりと落としたい。
マック行かないかもな?と思ったんですがオフシーズンはわりと自由に食べるという話も聞いたのでまだオフシーズンです。
これは最終回ちょっとあとくらいとおもいます(先輩の説教はまだ)。