shirajira
2026-06-28 07:06:30
23558文字
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BEYOND THE BYGON SKY(仮)

ビマヨダ日本一周本の冒頭部分(プロローグ、東京、埼玉)。校正がまだなので最終稿は中身変わるかもです


<幕間・ホテル(駅から徒歩五分、一人用シングル)にて>
「あ~~~~」
 シングルのベッドに倒れ込む。ビジネスホテルの寝台は正直なところまあまあであったが、今は嬉しかった。
「あの乱暴者と離れられる貴重な時間だ……
 枕を抱き締める。どっと肩の辺りに疲れを感じる。
 単独行動は許されず、一定距離離れるとペナルティがかかるルールだが、寝る時ばかりはそのルールは適用されないようだった。必ずしも大部屋が取れるとは限らないし、組み合わせによっては男女が入り乱れているからだろう。
 たまたま昨日、一人用の部屋しか空いてなかったお陰で気づけてよかった。なおそういうことならと一人で街に出ようとしたら、ペナルティがかかった。あくまでただ休息を取る分には単独行動が許されるだけの話らしい。
「しかし、あと四十五もあるのか……
 たった二日でもうこんなに疲れているのに。思いながらドゥリーヨダナは、寝台に寝そべったまま手を伸ばし、荷物の中から冊子を取り出した。パラパラとめくる。
 いつの間にか荷物に入っていた「旅のしおり」と書かれた冊子――表紙には可愛くデフォルメされたBBのイラストが描いてある――には、この旅の決まりや、それから地図や四十七都道府県の簡単な紹介が記載されていた。
「昨日は東京、今日は埼玉、で、明日が群馬か……
 冊子の中で四十七都道府県は、それぞれ関東・甲信、北海道・東北、東海・北陸、関西、中国・四国、九州・沖縄の六つの地方に分類されていた。
 よって、それぞれの地方を順に潰していこうと、そういう方針になった。ドゥリーヨダナもビーマも、日本という国に詳しいわけではない。その方がわかりやすいだろう。
 旅のスタート地である羽田空港は東京にあった。よってまずは関東・甲信地方を攻めることにしたわけであるが。
「東京と埼玉はもう行ったが……この地だけでもあと……七つもあるではないか!」
 千葉、神奈川、栃木、群馬、茨城、長野、山梨。英霊となったおかげで文字は読めるが、それ以上の情報が読み取れるわけでもない。文字の羅列を眺める。
「それに……どうも足がな……
 端末――これもいつの間にか荷物に増えていた、いわゆるスマホ――を引っ張り出す。明日の朝に乗る予定の電車を確認する。
 初日の東京は首都なだけあって交通網も発達していた。だが、どうやら首都から離れれば離れるほど、公共交通機関というものは減っていくものらしい。
 最悪徒歩で移動しようということになるかもしれない。ビーマが「終電、なくなっちまったのか。じゃあ走るか!」と元気に走り出すところが目に浮かぶようだった。無限体力馬鹿に付き合わせるな。一人で走ってろ。
「戦車で移動していいならそうするが。いいわけないわな……ん~、かといってわし様にもあの大食い馬鹿にも、騎乗スキルはないしな」
 乗れないことはないだろうとは思う。バイクでも車でも。少しの訓練は必要だろうが。なんせかつては戦士としてあらゆる武器、戦いの教育を受けていたのだ。ライダー適性だってまったくないわけではないだろうと、ドゥリーヨダナはそう考えている。
 しかし訓練なんてする時間はない。一つの地域に留まるのにも制限時間がある。制約が多くて面倒な旅だ。
「専属運転手でも雇うかあ? うーん」
 スマホをタップする。キャンピングカーの商品ページを、見るともなしに眺めた。簡易的なものだが、ベッドもキッチンもついている。いちいち宿を探さなくてもよいのは良さそうだった。それにキッチンがついていれば、ビーマも喜ぶだろう。
……いや、何でわし様があいつを喜ばせてやらにゃならんのだ。なしなし。絶対なし。そうだなあ、やはりわし様に似合うのは高級車だ。外車というやつだな」
 真剣に、けれど楽しそうに野菜を見つめていた横顔を思い出す。ドゥリーヨダナの知らないビーマ。
 一年。ビーマは五王子も戦士でもない、ただの料理人として過ごしたのだという。
 そんなビーマは、ドゥリーヨダナの前には現れなかった。ドゥリーヨダナの前にいたのはいつだって、五王子で戦士、ドゥリーヨダナとは決して相容れず、けれど眩いばかりの英雄性を放つビーマだ。
 でも、ここでのビーマは混ざっている。五王子で、戦士で、料理人。
 五王子で戦士のビーマとは、決して相容れなかったが。料理人としてのビーマとは、どうだろう。料理人であってもビーマであることに変わりはない。だからやっぱり、何も変わらないのかもしれなかった。
 英霊に睡眠は必要ないが、瞼が重くなってきた。端末を脇に放り投げて、目を瞑る。緊張から解き放たれた仮初めの肉体が、束の間の安息を楽しむ。
 余計なことを考えるのをやめる。短くはないとは言え期限付きだと自分に言い聞かせ、ドゥリーヨダナは気持ちを切り替えることにした。