akinoshiroihana
2026-06-23 20:56:03
5348文字
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名刺置き場17

ゲッター 
① 自ネタの「隼人おじちゃん」呼び事情
② あの台詞と残せなかった「形あるもの」でふわっと


⁂ 相互様オリジナルゲッター小説三次



七夕 新ゲラスト以降竜馬x東映


っそ、えれえことだぜまったく。
けーってこようとしたらよ、普段チャチい丸太橋か鉄板かなんか渡してあるやつが流されちまったのかな、橋が無くってよう、おう隼人、どこ行く
元気よく片手を上げて彼を呼び止めた男は、ずぶ濡れである旨をそう言い訳した。その辺でひとつ川を渡って戻ったのだと。
「竜馬?帰って来た?」
「おうよ」
強い、もしくは肉食獣的な面構えだった、笑っているのか牙をちら見せているのが常であるのかな口許をした。
身にまとっているジーンズのジャケットが千切れて、あろうことか両方の袖とも無くなっているのがジャングルからの引き上げ兵みたいなことになっているので、さぞかし大変な事があったのだろうとだけ隼人は理解する事にする。そうでなければこんな格好は、明治時代のこの辺を撮った白黒写真の中の半裸のやんちゃ坊主か浮浪児ではないかと。

「ミチルさんが七夕飾りをみんなで作ろうって言い出したのにさ」
「へ」
「購読の本屋が折り紙セットを一緒に持って来てくれるのを忘れたから、俺が今から麓までもらいに行くところだよ」
ミチルさんはおばさんの手伝いで夕飯の準備をしてくれてるから忙しいのさ
「あの鬼娘がぁ?ジョーダンだろ」
「は、なんだその酷い呼び方。『じゃじゃ馬』なら俺達も言った事あるがね。冗談をお言いならそっちさ」
この浅間山の入山口近くでどこにそんな川があったって言うんだいリョウさんよ
「リョウ、さん?」

ここにおいて胸に母の形見の十字架を提げた隼人は、ずくずくに濡れたケミカルウォッシュジーンズの「竜馬」の気安い腕が自分の肩にあるのにそっと触れた。暑苦しいから幽霊じゃないみたいだなとは考えながら。

自分が帰って来られたのが七夕だからだとでも思ってんのかい、ああそういえば武蔵のお里ではもう一か月後で「お盆」と「万聖節」みたいに祝うって聞いたよ。
つまり自分はもう、ほんとは死んじまってやしねえかと気が気じゃねえ戦いがあったってことかい、なんとね。
「おあいにくだが、俺達の所のリョウは今日今現在、医者も匙を投げるくらい元気なのがちゃんといて、今日は生徒会から帰って来た後は学校の宿題に大わらわさ。」
あんたは彼岸からこっちの岸辺目指して慌てて全力で渡って来たはいいが、ちょいと斜めにずれたんじゃねえか、向こうに行く時は俺達なら三人一緒だと思うよ、だってリョウの奴が毎回大汗流して「頑張れっ!」って全員で踏ん張らせるんだ

三人一緒、との言葉に男は反応したようだった、その死なばもろともを静かに笑んで語る「神隼人」にも。そして自分の腕に触れている滑らかに真っ白い手をまじまじと見返したあと

「ワッリ!そだな確かに、流れに圧されねえようチョイ上流の岸を目指しちまったみてえだ」
にかりと笑い、ぱっと離れた。
川向こうの隣りの中野区か豊島区に入っちまったようなもんかな、と頭陀袋を背負った彼は、目の前の早い除夜灯が灯る早乙女邸とその奥の研究所の玄関先でくるり背を向けた。そして薄闇が深まってくる未舗装の道を歩いて行く。砂利混じりの道を行くにしてはもっとざばざばというかがぼがぼという水音のような音と共にやがてずぶぬれだった男の姿は見えなくなった。

家族みなの趣味である登山には案外オカルトじみた不思議が付き纏うものだから慣れていた。そういえばここだってそれこそ登山口が目の前だ、「出」てもいい場所だったし、『いつか蛇になる』と言いつつ流れの中に消える身内を見送る夢を見るのは漱石だったかな、と隼人が考えていれば

おうい隼人、まだいるならもう晩ゴハンの後で行けよう、御飯が冷めちゃうわよってミチルさんが
窓を開け放ち台所の煮えたり焼けたりした温かな匂いと共に彼を呼ぶ武蔵の声に、彼は迫りくる夜闇にもよく見て取れる、その白い手を振って返した。


逢魔が時。