akinoshiroihana
2026-06-23 20:56:03
5348文字
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名刺置き場17

ゲッター 
① 自ネタの「隼人おじちゃん」呼び事情
② あの台詞と残せなかった「形あるもの」でふわっと


⁂ 相互様オリジナルゲッター小説三次

自ネタの「隼人おじちゃん」呼び事情

過去にチラチラっと触れてますがこういうことなの書いてナカタヨ
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22205906
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21210598

「ええとどういえばいいのかな、ソナーかエコーか。」

私が全然役に立たない勘の良さ―――超能力……ああ笑わないで、笑ってない?―――を持ってるのは言ったことがあるだろう?敷地内で外付けの電気製品を使うとスイッチが入った時だけ必ず視界が一瞬赤くなるとか、妹が近くにいると心がほぼつながった状態になるとか。あれでね、妹に名前を呼ばれた時に、あんたの気持ちが少ししょんぼりするというか陰るというかして、妹はそれが何を意味するのか解らないままに「いつもと違う」あんたを感じ取っていたのが後で私の方にも伝わって来て、それが淡い悲しみだと私が理解する。
「あの子の『隼人ちゃん』呼びにあんなにしみじみ悲しい思いをさせているんだね、すまなかった神さん」

「お子様は遠慮がないというか怖いもの知らずというか、構ってくれる相手は『自分が遊んであげてる』になっちまう。」
「いいや?おれが橘博士のお話を伺いに時々白衣で入りもするから、もう身内にも見えるのだろうよ」

うーん、神さんは私よりずっと若く見えるからな、とドクター終了後さして年数を経過してない信一は、しかし既に人より広い額に手を遣った後で目を上げる。相手はまだ自分用の湯飲みもカップも研究室に持ち込んでいないから、デュランのガラスビーカーで休憩時間のコーヒーに付き合っていた。

「ああいや違うなそれだけじゃない、あの子ずっと髪を伸ばしたがっているのに私も父も構いきれないから短くさせていてね、あんたの髪が絶対羨ましいんだ」
そうだそれだ、と、信一がはたと膝を打つ
「伸ばしっぱなしは女性職員に『よく肩凝りしませんね』って言われるんだぜ」
「えっ、するのかい?」
「さあ、おれは別に」
嘗て慌ただしい戦況の中、惰性で伸びて行ったところもあるものがいまや鬣のようになり、切るという選択肢が忘れ去られたかのような。科学者自衛隊どちらにおいても異端の記号のような艶のある長い髪を彼はひとゆすりしたが、そこに自らの手を遣って構うことも滅多にしない。それは彼のひときわ長すぎる前髪が、その凄絶だった青春の記憶と共に切り捨てられないのを覆い隠すためのものではなかろうか、一見これ見よがしな美点に見える外見に対して至って淡泊にふるまう青年だった。

「そういいうわけだから『隼人ちゃん』はやめなさいって言っておくよ」
「翔の好きにしてくれればいいさ」

「ただね、昔いとこが幼い頃そう呼んでいたのを思い出しはした。百鬼帝国―――鬼の軍団が暴れていた頃死んだ奴だよ。まだ学生だった、悔いもあっただろう、俺の目の前で死んだのに墓に収められるものも残らなかった

 「そいつがおれを『はやとちゃん』って「あ、ああ」

気にしないと言った端から自分の傍らで、極めて自制的な筈の青年の、いかにも一部の隙もなく掃き清められていそうなプライベートが一気に披歴されだしたのに信一は慌てた。ほんの少し好奇心が揺らぐがそれ以上覗き込むまいとしつつ、ああこういう所があるから幼い子供も彼についていくのだなとも思う。
一緒に遊ぶと猫の出産や捕食される蝶や道の上の蛇、そういった美しくて怖いものによく出くわす、爆弾じみたところのあるタイプの友達は時折いたが、そういう子供たちの汚らしいなりときらきらとした目の代わりにこの青年は一見とても清潔できれいで、信頼を預けられる人物だから。共に行ける所まで付いて行ってもいい、ついていくのがいいと感じる、彼と一緒だとまた新たに道の上に大きな蛇と行き会わせそうな予感もうっすら覚えるというのに。

「今晩にでも話してみよう、それであの子から『悲しそうな』あんたの余韻が響いて来なくなればしてやったりさ」
面倒な話、私が「この呼び方をすると神さんはほんのり悲しんでいる」と翻訳、理解した情報は翔の方にも返っていってしまうからね

ブラックコーヒーのアテだった羊羹の皿を持ち上げ、助手に任せるでなく自分で洗面台に洗いに行く信一の背に向けて小さく笑う気配があった

「ふふ、『同志』なんていう言葉には鳥肌が立つ世代だが
君たちの『なかよしどうし』はとてもいいね」

「任せなさい、この禄に役に立たない超能力のおかげで、私が好きなものは妹も好きになるし翔の好きなものは私も大好きだ。
 神さん、あんたの心の平穏は保証された!」

など言って大手を振り振り信一が実験の進捗を見にを出て行ったのが先日

まだ封を切らない200ピースのジグソーパズルの箱を抱えて入園さえ前の幼い翔が事務室に現れたのは翌日の午後

本当はたまに参加する博士課程の連中より若いけどもっと難しい事も出来てもっと忙しくて
「お兄ちゃん」でもわからない分野の事もいっぱい知ってる
言ったら肩車でも何でもしてくれるけどすごい人なんだからね、あと飛行機だって運転できるんだぞと懇々と聞かされて認識を改めることにした幼子は

「いらっしゃい隼人おじちゃん」

ヒエラルキーのより上位に青年を据え直したと澄んだ目をして宣言した

その時、微かに笑んだだけと見えた神隼人から翔の瞳は何とも言えない強烈な揺らぎ撓みを拾い上げ、その波はやがて兄の岸辺に届き打ちつけられ共有、理解されて、彼に頭を抱えさせることになる

「ああ神さんが凄くストレートに私を罵った
『なんだってこんな呼び方に進化させたんだ信一のバカ』って」


そんな嘆きは当事者たちが思っていたほど長く続くことなく―――あまりに劇的な事態により突然すべて終わってしまったあとも日々歳々時は過ぎ、
「よう翔、もう入って来いよ、屋上は風が凄えだろ、髪がボウボウになっちまわ」
ほんとお前といい神さんといい
「邪魔っけじゃねえの?」

「別に、だからあの人も多分そうだ。」
白木の鞘を手にした戦乙女は、亜麻色の長い髪をビル風に嬲らせたままにそうとだけ答えた。


***