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サブさぶれ
2026-06-07 22:03:21
11437文字
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原作軸
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彩り 【SSシリーズ】
スグリにいろんな綺麗な景色を見てほしいと考えて始めたSSシリーズ。
不定期更新。ゆっくり書き進めていきます。
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コーストエリア
図書室から借りてきた植物図鑑の分厚いページをめくる。『アローラ地方の植物』と書かれた項目は、目にも鮮やかな花々で埋め尽くされていた。目の前に広げられた花たちと写真を見比べながら、どんな花なら彼女に贈るにふさわしいか、スグリはそればかり考えていた。
「ごめん、ちょっと顔あげて」
「うん」
スグリの髪に複雑な編み込みを施しながら、彼女は言う。恋人のアオイは、なぜかスグリの髪の毛をいじるのがお気に入りだ。
今日の自分はどんな髪型をしているのだろう。時々、あの姉が「そんな可愛い髪型、スグにやってどうすんのよ! あたしにやりなさいよ、あたしに!」と理不尽な怒りをぶつけるほど力作ができる時もある。
その通りだと思った。男の自分なんかの髪を結って何が楽しいのか。スグリにはさっぱり分からなかった。
けれど、アオイはスグリの髪の毛を触っている時、もの凄く楽しそうに、幸せそうに、鼻唄なんかも口ずさみながら笑うのだ。そうなればスグリには何もできない。
愛しい人の喜び以上の幸福なんて、スグリには考えられなかった。
あぐらをかいた左の膝の目の前から、アオイが大振りの花を手に取った。
「これはハイビスカス。ママが言ってたけど、お茶もあるんだって! 赤とか黄色とか可愛いよね」
言いながら、スグリの髪の隙間に刺していく。索引の『は』のページから、彼女が言った花を必死に探す。赤のハイビスカスは『勇敢』、黄色のハイビスカスは『輝き』という意味があるらしい。なるほど、これはアオイっぽい花だ。スグリは心のメモに刻み込んだ。
「こっちはプルメリア。いい匂いだよねー。白と黄色で、スグリみたい」
「えー? 俺、そったらめんこくねぇべ」
ぷっくりした白い花弁から芳しい匂いがした。図鑑をめくる手は止めない。プルメリア、花言葉は『気品』『陽だまり』。これもアオイをよく表した花だ。
「こっちはブーゲンビリア! よく拾ってこれたね。ピンクの中に白くてちっちゃい花があってかわいいー」
ページが近い名前ばかりで助かる、と右手が安堵した。アオイが言った独特な見た目の花は、開いていたページのすぐ隣に紹介されていた。花言葉は
……
。まさに自分が彼女に想っていることそのものな、最高の言葉だった。
だけど、これを花束にして贈ることなんてできるのだろうか。花に疎いスグリには皆目見当もつかなかった。
今回も大人しく、花屋のおばさんに「どんな花を贈れば気持ちが伝わるか」と泣きついた方が早いかもしれない。スグリは自分の不学を恥じた。
この他、アオイも名前を知らなかった花も含め、全てがスグリの髪に飾られた。自分が今、どんな頭をしているのか分からなかったが、姉が何年か前に見ていたファッション雑誌の裏表紙に、頭じゅう花いっぱいに飾ったモデルさんがいたのを、何となく思い出した。
「なんか、スグリ
……
」
背後のアオイが言い淀む。どうしたんだろうと振り向くと、静やかな木陰の中、彼女が顔をぽっと赤く染めていた。
「なんか
……
。あ、そうだ! キュワワー! キュワワーみたい!」
アオイはあからさまに焦った様子で、すぐ近くでピンクのオドリドリと戯れる小さなポケモンを指差した。
すぐに、嘘だ、本音は別にあるだろうと気付いたが、今のスグリには真相を問いただす勇気などなかった。聞こえなかったと、嘘を吐く胆力も。
その代わりに、
「き、きゅわわー
……
?」
アオイの首元に抱きついて、おどけてみせた。
本物のキュワワーが絶対にしないであろう硬い苦笑いを浮かべながら、彼女の様子を窺う。アオイは目をプリン級に丸くしてから、すぐに顔を綻ばせた。
「アハハッ! 最大サイズのキュワワー捕まえちゃった!」
笑顔の花を弾けさせ、アオイがスグリにもたれるように抱き返してくれた。
胸がギュッと締め付けられる。この気持ちが喜びなのか、切なさなのか、あるいは全く違う気持ちなのか、スグリには分からなかった。
だが、はっきりと「好きだ」と思った。この人を愛していると、瞼の奥が熱くなるほど思った。
首元から背中へ腕を移す。細くてやわらかい身体は、自分と同じくらいドキドキと速く脈打っていた。
ほんのりとしたピンク色の耳に囁く。
「やっぱ、バラがいいかな」
「何だって嬉しいよ。スグリが考えてくれたものなら」
プレゼントに思い悩んだ果てに「何が嬉しい?」と突撃した彼氏にこの対応である。心底敵わないな、とスグリは愛おしさを深めた。
バレンタインまであと少し。さて、愛しい人に何を贈ろうか。
♢
黒と紫の、夜を思わせる髪にカラフルな花たちが咲き誇る。赤、黄色、白、ピンク、髪の色とは違う淡い紫。拾ってきた南国の花々はとにかくキレイにスグリを飾り立てた。
「なんか、スグリ
……
」
花嫁みたい。そう言いかけてやめた。
お嫁さんになるのは私だもん! スグリは花婿さんなんだから!
なんて、どうでもいい嫉妬に燃える私を気遣って、スグリは慣れないおふざけをしてくれた。
胸を満たすこの気持ちを「愛してる」と言わないのなら、他の愛の言葉なんてみんな嘘だと思った。
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