サブさぶれ
2026-06-07 22:03:21
11437文字
Public 原作軸
 

彩り 【SSシリーズ】

スグリにいろんな綺麗な景色を見てほしいと考えて始めたSSシリーズ。
不定期更新。ゆっくり書き進めていきます。

あの頃の私たちへ


 初めて恋をした瞬間、覚える?
 私ははっきり覚えてるよ。
 蒸し暑い異国の夏。たくさんの提灯の淡い光と満点の星空。焼きそばの濃いソースの匂い。聞き慣れないお祭りの音楽と人のざわめき。
 それを全部吹っ飛ばして、私の世界をテラスタルさせた、君のはにかんだ笑顔。やわらかい声。紅い林檎飴。
 恋なんて物語の中でしか知らなかったけど、これが恋ならステキだなって思ったんだ。
 あの時から、君はずっと私の特別な男の子。その後は色々あって散々なお別れになってしまったけど……。それでも諦めきれなくて、留学のお誘いに二つ返事をしたんだっけ。


 それから、あの朝。エリアゼロから戻ってきて、ゼロから友達になりたいって君が言った日。
 一月の冷たい群青色の空がゆっくりピンク色に染め直される中、君のまっすぐな瞳が、空に残った一番星より輝いていた。
 まっさらな朝の光を浴びながら、横を走る君の久し振りの笑顔ばかり見てた。君も時々振り返って、私に笑いかけてくれたよね。ピカピカで眩しくて、泣いてしまいそうなほど強く「好きだ」って思ったの、覚えてる。
 友達になりたいって言われて頷いたのに、あの時の私、また君に恋してた。嘘つきだけど、時効だから許してね。
 それから、好きだよって告白した後も、好きだよって告白された後も、初めてキスした時もゼロ距離になった時も、今も。毎日毎日、何万回も君に恋してる。


 そこまで言うと、隣で気恥ずかしそうに俯いていた人がようやく真っ赤な顔を上げた。

「なあ。その話、何回目?」
「何回だって聞いてよ」

 私の人生の中で一番好きで、大切なお話なんだもん。それに、せっかく思い出の場所に来たんだからいいじゃない。
 何年か振りに訪れたブルーベリー学園のエントランスロビーに続くブリッジで、私たちは朝焼けを浴びていた。子供の頃一緒に勉強した場所で、二人揃って特別講師に呼ばれるなんて、あの時は想像もつかなかった。
 まっさらな朝の光を浴びながら、今は隣で海を眺めてる。ピカピカから、ふんわりって音が似合うようになった笑顔にまた恋をする。

「スグリの話も聞かせて」

 少し高い位置にある、丸みのなくなった頬を撫でる。くすぐったい時の顔をした夫は、私の瞳をじっと見てから渋々口を開いた。

「俺が初めて恋をしたのは、」

 遠くでキャモメが鳴いている声が聞こえ始める。空はもう爽やかな透き通る薄水色に変わっていた。
 すっかり逞しくなった腕に抱かれながら、何千回目かの恋の話に聞き入った。