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vineh118
2026-06-06 21:00:00
7592文字
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続・ここだけの話。 ─他の刀剣男士から見たにほへし─
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101.人間無骨
人間無骨は筆をとる。毛先を墨にたっぷり浸し、いざ紙の上に落とす。黒々とした飛沫がこれから文字になろうとしている線を囲って滲む。
骨身を得てからというもの、幾度か手ほどきのようなものを受けてはいたが、会得と呼ぶにはまだほど遠い。
それでもどうにか筆を運び、文字を連ねていく。この報告書というものは、云わば首級を挙げたことの証明であると聞かされた。たしかに人ならざる敵は屠ればたちまち塵となり、跡も残らず消えていく。首桶を持ち帰ることは不可能である。
ならば、と筆を握る手に力がこもる。己が刃で突くがごとく、真っ直ぐに。十字の穂先をぎらつかせ風の音ごと薙ぐように。
そうしてしたためられた文字はよくよく見ずとも不揃いで、処々で余白が足りずはみ出していた。
ふム、と首をひねる。
「ま、そう難しいもんでもねえ。慣れりゃもっと要領よく書ける」
文机の向こう側から日本号がそう言った。斜に構えたもの言いはいかにも高飛車であるが、位階持ちと聞けば納得もする。とはいえ槍という刀種のよしみもあってか、はじめて隊長を務めた新参者に対する気遣いは端々から伝わった。
「うム、感謝すル。それで、此レを近侍に提出すれば良いのだな」
「あー、待て、俺も行く」
ほぼ同時に立ち上がり、鴨居をくぐって日本号は後をついてくる。
顕現して間もなく、不動行光に本丸中を案内されたので、どこに近侍部屋があるかは知っている。近侍が誰かもということも。
織田家にあった刀だロウ、と横を見上げれば、此レよりずっと身丈のある大身槍はあらぬ方を見ながら頭を掻いた。
「まあなんだ、念のためっつうか、」
歯切れの悪さに首を傾げつつ、その部屋の障子を開ける。へし切長谷部が姿勢良く文机に向かっていた。書面を受け取るより先に、背後にたたずむ日本号に気づいて口を開く。
「どうしてお前が
……
ああ、同じ部隊だったか」
「うム。先駆けも殿も、さすがに頼りになル」
そうか、と事も無げにうなずいて、長谷部は日本号に向かって言った。
「心配は無用だ。不動にも今朝、遠征前に釘を刺されたからな」
「なんも言ってねえだろ」
苦笑混じりの声がする。話が見えず茫と目を泳がせていると、長谷部が今度はこちらを見て言った。
「織田にも繋がる森家の槍に、俺が不用意に当たり散らさないか見張りにきたんだ」
可愛いだろう、とあくまでも淡々と、純然たる事実を告げる口ぶりだった。
「可愛い、」
思わず鸚鵡返しに繰り返す。
可愛いという言葉は小さきものや、いとけないものに対して使うものという認識があった。ここでいえば短刀など、小ぶりなものたちだ。
それを、六尺をゆうに超える大身槍に向かって、この刀は言っている。
「
……
そういえば、此レは昔、見かけた」
織田の家にも槍があった。まだ童の、宮中から来たという、見目麗しい槍。
あレもたしか、位階持ちではなかったか。
「そうか覚えていたか」
愛らしかっただろう? 今も昔も。そう続けた刀の眦にしわが寄る。
はぁ、と日本号が大きな溜め息を吐いた。こいつ、これ言い出したら聞かねえんだよ、と呆れたように肩をすくめる。
見張りというのが真実であれば、その必要はないと判断したのだろう。日本号が立ち去った後、長谷部はあらためて手もとに視線を落とした。
書面にじっと目を凝らしたままだ。よほど、読み進めるのが難儀とみえる。
「まだ、上手くはいかぬ」
「何度も書いて慣れるしかないんじゃないか。そのうち読めるようにもなるだろう」
口をついて出た此レの言い訳に対し、日本号と似たようなことを言った。
「ふム、鍛錬か。では、出陣の際は戦況を書きつけルことにしよう」
次は万全にすル。そう告げると、ふと思い出したように長谷部が顔を上げた。
「日本号もあれでなかなかのものを書く。今度見てみるといい」
そこでようやく気づいた。至極真面目な顔をして言う其レは、いわゆる惚気というものだロウか。
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