三、海月
海月という生物を、天照にはいって初めて見た。どこだっただろう。あれは、巨大な水槽の中だっただろうか。波にゆれながら
――波の動きにからだを預けるようにして、揺蕩っている。白く細い糸のようなもの、あれは触手らしい。言いなれない単語に、暗がりの説明文を眺めた。毒がある、や、死に至らしめるほどの、といった説明をどこかとおいところで見ていた。私が私の背中を見つめているような、乖離した意識を自覚した。あれはたしか、今から十年前。はじめて水族館にいった時のこと。
海月が水族館にいるのなら、海の中にもいる。私は海月を見たことがなかった。夜の暗い海では、半透明な生物を見つけることは難しい
――あるいは、単に興味がなかったのか。
海の中にいる彼らは美しいだろう。この箱のなかより更に。つねに潮に揺らされているから、元いた場所、生まれた場所には還れない。海月には望郷という感情はあるのだろうか。あってもなくても、私は彼らの存在を美しいと思った。なにより、純真無垢な生物だ。透明で澄んだものは美しいから。きっと。
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