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千草莱
2026-05-19 01:05:10
7526文字
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弟子バロ
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【大逆転裁判】出会ってすぐに、召し上がれ
転生現パロのアソバロ。亜双義の執念は岩をも通す。
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出会ってすぐに、召し上がれ
このところ、不思議な夢を見る。
現実では会ったことも見たこともない男が何度も出てくる。
背が高く、彫りの深い顔で恐らく日本人ではない。
年の頃は30代くらいだろうか。
髪はグレーに紫が混じったようで、光の加減で色味が変わる。
瞳は端的にいえば碧眼だが、水面に曇り空を映したような
澄んだ陰り、とでもいうような蒼をたたえている。
何より目を引くのは眉間に大きく残る×印の傷痕だろう。
彼が何者かは分からないが、辛い過去を思わせる。
夢はいわゆる一人称視点で、その光景を見ている自分は
視界に入らないのでどんな姿をしているのかもわからない。
音も聞こえないので何を話しているのかも不明だ。
彼の服装は儀礼用の軍服に似ていて、重厚で堅苦しい。
斜めにかけられたタスキのようなもの(サッシュというらしい)の
赤いラインが、袈裟懸けに切られた軌跡のように見えた。
最初は、彼が机や書棚が置かれた部屋の中で書類を睨んだり
手を動かして何か作ったりしている光景だった。
部屋に置かれた家具はどれもアンティークやヴィンテージストアで
見るような深い色合いとしっかりした造りで高級そうなものばかり。
壁一面に並ぶワイン樽の前で長々と考え込んでいることもあった。
次第に夢に出てくる景色に種類が増えていく。
法廷らしき場所も出てくるので、弁護士や検事なのかもしれない。
突然踵落としをきめる弁護士や検事がいるのならば。
証拠を突き付けながら冷静に話す横顔を傍でじっと見ている、
この夢の主も同じく弁護士や検事なのだろうか。
街中を並んで歩くこともあった。レンガや石造りの建物が目立ち
人を沢山乗せた馬車とすれ違う。自動車は見かけない。
彼の服装はスーツに似たスタイルで、仕事部屋にいた時と比べると
幾分カジュアルだ。それでも胸元のひらひらの主張は強い。
レストランで向かい合って食事をすることもあった。
卓上のカトラリーはピカピカで、テーブルクロスには染み一つない。
彼の皿の上には鶏料理、目の前の皿には牛肉のステーキが乗っている。
鳥よりも牛肉が好きなのは、夢の主と気が合うところだ。
見るからに絶妙な焼き加減のそれをいざ食べようとしたところで
目が覚めるのはお決まりだが、これほど悔しいこともない。
私室とおぼしき場所で、ソファに座りくつろぐ姿を見るように
なった頃には夢を見始めて半年近く経っていた。
彼は柔らかい素材のブラウスを着て、リラックスした様子でこちらを見る。
彫りの深さ故に厳つく見えるが、ほほ笑むとこんなに優しく可愛げのある表情に
変わることを知ってしまった。
夢の主は彼に惹かれているのだろう。
今や自分もそれに同調している。
彼が差し出した手に招かれるように近づくと、頬に指が触れた。
唇が薄く開き、何か囁いている。
声が聞こえないことが、無性に悔しい。
彼がもう片方の手に持つワイングラスには、自分とそっくりな男の顔が映っていた。
「まるで前世の記憶を見ているみたいだな」
話を聞き終えた友人は、暢気に言った。
笑ったり、茶化したりせずに最後まで聞いてくれるのはこいつくらいだ。
「前世、か。そんなものがあるんだろうか」
思い返すと、彼の出で立ちも過ごす場所のどれも、古い映画や記録映像で見た
ものに似ている。自動車も電化製品も出てこない。
夢の内容が前世の記憶だとしたら、彼も当然昔の人であって
……
。
「夢に出てくるその人も、現代に生まれ変わってお前の夢を見ていたりして」
間の抜けた面のわりにロマンチックなことを言う。
何一つ確かなことはないが、もしいるならば会ってみたい。
今まで見た夢の記憶をたぐり寄せ、場所が特定できる情報がないか必死に探した。
特徴的な建物や看板の文字などから、ヴィクトリア朝末期のロンドンが候補にあがる。
当時の写真を眺めていくと、不思議と確信が湧いてきた。
かつてここで、俺によく似た男が彼と過ごしていた。
ロンドン。ただ一つの手がかりであるその土地へ行かねばなるまい。
しかし大学生の身ですぐ出せる旅費ではない。覚悟を決めて親に相談する。
夢に出てきたから、とは言えないので歴史や文化に興味があるなどと
ぼんやりした理由にはなってしまったが、意外にもあっさりと了承がもらえた。
知らなかったが、父は若い頃にロンドンに留学していたらしい。
「もう20歳も過ぎたのだから、一人で海外旅行に行くのもいい経験だろう」
そう言って、滞在の心構えや注意点を教えてくれた。
初めて一人で降り立つ異国。だが不思議と初めて来た気がしない。
夢で見た記憶(と仮定する)から100年以上経っているが、当時から
残る建物も多いおかげで空気が似ているのだろうか。
どこに行けば彼と出会えるかなんてわからない。
とにかく夢に出てきた場所を巡ってみる。
オールドベイリーで裁判所の外観を見た瞬間、強烈な懐かしさがこみ上げる。
隣に彼がいないことに違和感を覚えるほど、二人でいる夢を何度も見たのだ。
内部に入り、前世に繋がるものがないかと探すも観光用の場所に重要な資料があるはずもない。
一通り見学を終えて近くのカフェで休憩することにした。
夢の中でも、時折二人でカフェで過ごしていた。
このカフェも古くから続いているそうなので、彼らが寄ったかもしれないと思いながら
サンドイッチにかぶりつく。人気店らしく、なかなかの味だ。店内も人が溢れている。
ふと目の前に影が差したので顔を上げると、テーブルを挟んで男性が一人、立っていた。
「すまないが、相席してもいいだろうか」
頭上から、穏やかな低い声が降ってくる。ずいぶん背が高いようだ。
急いで口の中のものを飲み込んでから、どうぞと返す。
礼を言いながら座った人の顔が、卓上のコーヒーカップの中に映り込む。
「
……
以前、お会いしただろうか?」
男性は、不躾に顔を見つめる青年を咎めることなく丁寧に問う。
その蒼の瞳は、澄んだ陰りをたたえている。
「お会いするのは初めてです。でも、よく似た人を知っています」
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