冥土うさ
2026-05-14 04:41:39
Public 光鱗の逃亡者
 
2184540

残響

FF14二次創作 / 光の戦士はミンフィリアからある依頼をうける(2.2)
(2026.6.28加筆修正)

 ・・・


 夜の森は暗く、深く、どこまでも続く闇に恐怖すら覚えた。虫の声も、森に住まう生き物の声も聞こえない静かな森の中で、その子どもはべそをかいてやみくもに歩いていた。
 静かなのに、何かの気配がする。肉食の獣が、モンスターが、妖異が、子どもの命を狙っているのかもしれない。その恐怖と強烈な孤独感に、子どもはついに大きな瞳に溜め込んでいた涙をポロリとこぼした。それは後から後からあふれて止まらず、獣道に小さなシミを作る。
「お、おかあさん……、おとうさん……
 か細い声は闇の中では響きもしない。暗がりに吸い込まれる己の声に、体はますます縮こまる。このまま闇の中に吸い込まれて消えてしまうのではないか────子どもの恐怖は光の戦士にも十分伝わっていた。
 そして、ついに立ち止まってしまった子どもの足から頭のてっぺんまで、全身に響く地響きがあった。心臓にまで届きそうなその重低音は、徐々に大きくなり、近づいてくる。恐怖のあまり、子どもは声まで失くしてしまった。唇は小さくわななき、歯はカチカチと小さく鳴るのに、声は出せない。村の誰が言っただろうか、本当の”恐怖”が押し寄せるとき、人は声すら出ないのだと。
「っ、!」
 暗闇の中で、樹木をかき分ける音が響く。枝が折れ、大きな幹が倒れる音────それだけ大きな何かが近づいてきているのだ。光の戦士はその危機的な場面をただ見ているしかなかった。この子供は、いったい誰なのだろう。
 子どものはるか頭上、首をほぼ真上にしても全貌は見えない。そんな高さに、金色に光る双眸があった。裂けたような細長い瞳孔は爬虫類のそれ。樹々をなぎ倒したために差し込んだ淡い月光に反射して光るのは、油膜が揺れるような不思議な色合いの鱗。細長い鼻先から、白い息が吐息と共に吐き出された。
 それは、おそらく大人から見てもはるかに巨大な竜だった。光の戦士だって、一人で立ち向かうには手を焼くだろう。
 浮かび上がる金色の瞳が、そっと細められた。
 その瞬間、子どもは張り詰めていた息を吐き出し、堰を切ったように悲鳴を上げた。金属音かと聞き違うほどの金切り声は闇を切り裂き、洞に潜んでいたコウモリや木立で休んでいた鳥たちを飛び立たせ、様子を伺っていた肉食獣たちの尻を叩いた。
 四方八方から近づいてくるガサガサという葉をかき分ける音に、子どもは何も考えることができなくなりパニックに陥った。頭を抱えてただ、ひたすらに意味のない声を上げ続ける。
 子どもの背後から飛び出してきたクモのようなモンスターの八本の足が届く直前、一般的なサイズよりずいぶんと大きなクマが腕を振って飛び出してきたその瞬間、巨大な尾がそれらを薙ぎ払った。月光を受けて虹色に輝くその尾は、先ほどの竜のものだ。
 子どもに覆いかぶさるようにして尾で樹木ごと獣を薙ぎ払い、咆哮で威嚇するその姿は、まるで子どもを守る親のようではないか。
 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしていた子どもは、そんな竜の姿に目をまんまるに見開いて悲鳴を飲み込んだ。
 辺りを更地にする勢いで暴れた竜は、脅威が去ったと知ると子どもから離れ、その金色の瞳に子どもを映した。映り込んだ子どもの瞳が、一瞬だけ虹色に輝いたように見えた。それに気づいた竜が再び目を細めて子どもを見つめる。
 そこへ、遠くから人の声が聞こえた────「おーい! どこだー!」「返事をしてー!」
 子どもを呼ぶ、村の大人たちの声だ。子どもはハッとなって声のする方へ顔を向ける。その瞳はもう普通の色に戻っていたし、竜の視線も子どもから遠くの声へと移された。
 ふいっと頭を声とは逆方向の暗がりへ向けると、巨大な竜は現れた時と同じように地響きを立てて去っていった。
 子どもは思わずその背に手を伸ばした。追いかけようとして、はたと足を止める。なぜそのような行動をとったのか、自分でもわからなかった。
 ランタンや松明を手にした大人数人が現れると、固まる子どもはぎゅうっと強く抱きしめられた。その視線は、理由もわからずいつまでも暗闇を追いかけていた。
 大人たちに手を引かれて村に帰るよう促されたその時、子どもは足元で光る何かを見つけ、それを拾い上げた。
 それは、子どもの手のひらほどのサイズはある、虹色に光る大きな鱗だった。