冥土うさ
2026-05-14 04:41:39
Public 光鱗の逃亡者
 
2184540

残響

FF14二次創作 / 光の戦士はミンフィリアからある依頼をうける(2.2)
(2026.6.28加筆修正)



 キャンプ・レヴナンツトールには珍しく霧が立ち込めていた。
 開拓が進み、土がむき出しだった地面は舗装され、簡素なテントしかなかった周囲には石造りの建物も次々と建設されている。冒険者たちが集うキャンプとして確かに機能し始めているのがここ、モードゥナのレヴナンツトールだ。
 多くの冒険者たちが行き交う中でも、その冒険者はひときわ目立っていた。なにせ、帝国からエオルゼアを救った英雄であり、光の戦士だ。一目置かれるのも無理はない。
 その煩わしい視線や囁きから逃れ、周辺を散策していた彼は、ふと目の前に広がる銀泪湖に視線を投げた。
 霧の中、薄らと浮かび上がるのは、ガレマール帝国軍の飛空戦艦の残骸だ。塔のようにも見えるそれは“黙約の塔”と呼ばれるそうだ。翼を広げた形でその戦艦に巻き付いているのは造り物の飾りではなく、本物のドラゴンの亡骸だ。
 譲り受けた探検手帳に簡単なスケッチと文字を並べていく。あのドラゴンの名前はミドガルズオルム────古来より銀泪湖の守り神として信仰されてきたという。
 その時、視界の端にわずかな虹色の光を感じた気がして、光の戦士は手帳から顔を上げた。見回しても、空を見上げても、虹など見えるはずがない。霧に覆われた世界では夕焼けすら見えない。
「っ、……
 首を傾げる間もなく矢継ぎ早に違和感を覚えた彼には、亡骸だと語られたドラゴンの影がわずかに揺れたように見えた。しかし、それを見た人間も、証明できる人間も、彼以外にはいない。なにせ、いまこの近辺を歩いているのは彼ひとりなのだから。
 もう一度目を凝らして見ようとしたところで、荷物から大きな通信音が鳴り響き、彼は大きく肩を揺らした。予測していなかったところからの大きな音に心臓が早鐘を打つ。
 リンクパールだ。何となく、この通信機をとった後に聞こえる声には想像がついた。
『もしもし? わたしよ、ミンフィリア。いま大丈夫かしら?』
 うんともすんとも言わない内に、用件を話されてしまう。いつも通りだ。嫌ではないが、口元には困った様な笑みが浮かんでいた。
『一度、石の家に戻ってきてくれる?』
 急な呼び出しに首を傾げていると、ミンフィリアはリンクパールの向こうで少し言い淀んだ。
『大したことでは……いえ、個人的なお願いがあるの。話を聞いてくれるかしら?』
 彼の返事に、リンクパールの向こうでほっと息をつく気配がした。囁くようにこぼされた「ありがとう」────彼女の言葉を、彼はこれまでに何度聞いただろう。


 エーテライト広場からすぐ近く、酒場“セブンスヘブン”の奥にある扉の向こうに、暁の血盟の本部“石の家”がある。中では暁の血盟に所属する冒険者たちが思い思いの場所でくつろいだり、武器の整備をしたり、今後のことを話し合ったりしていた。
「あ、おかえりなさい。ミンフィリアさんなら奥の部屋で待っていますよ。」
 冒険者の一人が彼に声をかけるだけで、他の冒険者たちの視線もこちらを向く。注目を浴びるのには慣れてしまったが、得意ではなかった。足早に室内を通り抜け、光の戦士はミンフィリアの待つ盟主の部屋へ急いだ。

 デスクの向こうで、ミンフィリアはリンクパールを耳に当てて表情を険しくさせていた。耳に当てているだけで話し声が聞こえてくることもなく、彼女が声を上げることもない。
 光の戦士が部屋の扉をそっと閉じると、その音でミンフィリアの視線はこちらを向いた。
「ああ、もう来てくれたのね。ありがとう。」
 何かトラブルでもあったのかという問いにミンフィリアは少しだけ視線を落とした。
「えっと、そういうわけではないのだけど────探してほしい人がいるの。」
 今度は誰だろうか。そう考えた矢先、リンクパールを片づけながらミンフィリアは小さく首を振った。
……放っておけない人、と言う方が近いかしら。普段からマメに連絡を取り合う人でもないし、杞憂ならそれまでなのだけど。少し前からずっと姿を見てないし、応答もしてくれないの。」
 すわ命の危険かと、光の戦士の眉間に皺が寄る。しかし、ミンフィリアはその柳眉を下げただけだった。
「最後にあの人のエーテルを観測したのは黒衣森よ。……そうね、を探して。」
 あまりに抽象的な言葉に、光の戦士は首を傾げた。
「ええ。きっとあなたなら見つけられる気がするわ。」
 人探しをするには情報が少なすぎる依頼だった。それでも、ほかならぬミンフィリアの頼みだ。自ら探しに行けない彼女に代わり、その依頼を引き受けることに迷いはなかった。
 彼の決意を察したのか、ミンフィリアは表情を和らげた。
「無理に連れて来てほしいわけではないの。無事が確認できれば、それだけで────どうか、見つけてあげて。」