冥土うさ
2026-05-14 04:41:39
Public 光鱗の逃亡者
 
2184540

残響

FF14二次創作 / 光の戦士はミンフィリアからある依頼をうける(2.2)
(2026.6.28加筆修正)

 ・・・


 この広い森の中をやみくもに、しらみつぶしに人探しをするわけにはいかない。まずは情報を得るため、光の戦士は中央、東部、南部、北部森林の各拠点に向かい、村人や拠点入り口に立つ鬼哭隊の衛兵の話を聞いた。
「虹の人? そんな抽象的な特徴を言われてもなぁ……そういえば、そんな瞳のアウラ族の女性がグリダニアにいた気がするな。」
「虹? キラキラと七色に光る風の魔法を使うミコッテ族の女性なら古アムダプール市街のあたりで見たけど、その人かい?」
「それなら、クォーリーミルでうさぎのような長い耳の男性を見たわよ。瞳がキラキラしていて、まるで虹みたいな色をしていたの。すごく綺麗だったから覚えているわ。」
 ミンフィリアの言う虹を手掛かりに聞き込みをすると、意外と情報はあった。しかし、その虹が現れる場所も、時間帯も特定できなければ、種族も性別も聞く人によって全く違う。
 それでも、どの人物も黒衣森やグリダニアにいるのは確かなようだ。冒険者ギルドに所属でもしているのか、引き受けた依頼を淡々とこなしている様子が聞き取れた。
 ひとまず一度グリダニアに引き返そうとして、通りかかった小さな滝の前に虹が架かっているのを見つけた。珍しいその光景を、光の戦士は探検手帳に描き写した。



「おお、光の戦士殿! 貴殿に頼みたいことがあります! どうぞ、こちらへ!」
 グリダニアの双蛇党司令部に立ち寄ると、人事担当官がすぐさま声をかけてきた。できれば声を抑えてもらうか、その呼び方をやめてもらいたいが、そうも言っていられない急務があるらしい。
「光の戦士殿はリスキーモブの話を聞いたことがありますか?」
 担当官の説明によれば、東部森林に巨大なトレントが現れ、腕に覚えのある冒険者を募っているという。
 モブハント自体は知っている。手配書も受け取っていた。
 他にも冒険者が集まるのであれば、その中に探し人がいるかもしれない。すこし考えた末に頷くと、担当官は表情をパッと明るくさせた。
「ありがたい! では早速、東部森林のホウソーン家の山塞に向かってください。」
 双蛇党の敬礼をする担当官に敬礼で返し、光の戦士は東部森林へと向かうため東桟橋からの渡し舟に乗った。

 巨大なトレントの姿は、山塞へ向かうまでもなく遠くに見えていた。位置的にはフルフラワー養蜂場の近辺だ。人を襲い吸血するリスキーモブだという。あんな巨大なモンスターがいては養蜂場の人々は気が休まらないだろう。
「あんたもモブハンターか?! 助かる!」
 武器を手にしたハイランダーの男性が大声で呼びかけてきた。
 聞かずとも、モブハンターだと名乗る彼はことの次第を説明してくれた。ギルドやグランドカンパニーの依頼をこなしていた冒険者たちが巨大なトレントに襲われ、今もその枝に捕らえられているらしい。
 下手に大技を使えば、救出する前に負傷者へとどめを刺しかねない。
 愛用のバルディッシュを構え、光の戦士はまず周囲を見回した。
 養蜂場の巣箱を背に、堂々と道を遮るリスキーモブの前に、武器を構えた冒険者もしくはモブハンターと思われる男女が立っている。戦意があるのは、光の戦士を含めて八人の冒険者たちだ。
 回復役は幻術士のエレゼン族一人だけだ。武器はまだ片手幻具で装備も心許なく、腰も引けている。幻術士となって日が浅いのだろう。
 そんな幻術士を守るように立っているヴィエラ族は弓を携えていた。使い込まれた様子のコンポジットボウと装備を見るに、弓術士だろうか。しかし、その佇まいには戦い慣れた者の余裕が滲んでいる。
 歴戦の戦士のような装いの竜騎士もいた。背の高いアウラ族の男性で、露出している一部の肌や黒い鱗には古傷がある。その連れらしき軽薄そうなミコッテ族の男性は装飾の多いロングボウを手にしている。こちらは確実に吟遊詩人だろう。弓の他にも竪琴を持っている。
 残る二人はローブ姿のララフェル族の男女だ。手にするロッドにはウルダハのグランドカンパニー不滅隊の紋章があった。しかし、黒魔法は大技が多い。現状からして一番動きにくいのは彼らだろう。
 最初に動いたのは、ヴィエラ族の弓術士だった。守りながらでは不利だろうと予測していたのでその姿は意外に映ったが、なるほどその動きは囮になるべく大振りで、しかし確実に急所を狙っている。そして、三本目の矢はまっすぐにリスキーモブの眼球を貫いた。
 暗くなり始めた森にリスキーモブが発する金切り声が響き渡る。痛みにのたうち枝を振り回す拍子に、捕まっていた冒険者たちがその拘束を離れて投げ飛ばされた。
 アウラ族が大きく跳び上がり、ミコッテ族がタイミングを見計らって戦歌を歌う。ララフェル族の二人も詠唱を開始している。
 素早い動きで枝を避けるヴィエラ族にリスキーモブの敵視が向けられる中、残る者たちが一斉に攻撃を始めた。



「良いパーティだった! 感謝する!」
「お疲れ。」
「おっつかれ~。」
 自称モブハンターが倒れたリスキーモブを背に腕を組んで笑った。それに答えたのはアウラ族とミコッテ族の二人だけで、ララフェル族はそそくさとその場を離れ、エレゼン族とヴィエラ族の二人は投げ飛ばされた冒険者のほうへ向かっていた。
 リスキーモブの討伐はすぐさま担当地区のモブハンターに報告され、その報酬は参加した全員に後日配られるらしい。説明する自称モブハンターとそれを聞いてうんうんと頷く二人に軽く手を振り、光の戦士はエレゼン族たちの後を追った。
「傷が深すぎます。私の未熟な幻術では癒しきれません……。」
 手のひらからあたたかな光を発する幻術士は気落ちした様子だった。
 地面に倒れている冒険者たちは浅く胸を上下させており、命を落としてはなさそうだ。しかし、衣服は真っ赤に滲んでおり、傷の深さは誰が見ても明らかだった。
「そうか。」
 慰めるでも落胆するでもない。ただ事実に対する理解を示しただけのような返事だ。
 弓を胴体に掛けるようにして担いだヴィエラ族は静かに倒れる冒険者に手を伸ばした。その様子からなにをするのかを察して、光の戦士も近くの負傷者へ歩み寄った。
「一人ずつ分担してなら運べそうです。手伝っていただけますか?」
 しかし、声をかけてきたのは幻術士のほうだった。光の戦士が頷く間にも、ヴィエラ族は一番背の高い冒険者を肩に担ぎ上げていた。

 山塞に詰めている道士の男性は、運び込まれた三人を目にすると沈痛な面持ちで奥の部屋へ案内した。普段から負傷する兵士や冒険者の治療をしているのもあり、慣れた様子で治療を開始している。
「ここまで怪我人をお連れいただきありがとうございました。あなた方もお疲れでしょう。どうぞ、ゆっくり休んでいってください。」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。」
 幻術士は言葉通りに寝台に横になると、数秒も経たないうちに寝息を立て始めた。初めての大物との戦闘によっぽど疲れていたのか、はたまたよっぽどのマイペースな人なのか。山塞の道士がすこし呆れたように笑うのに、光の戦士は苦笑いで答えた。
「あなたもどうぞ、休んでいってください。」
 だが、光の戦士にはまだ果たすべき依頼が残っていた。その旨を伝えると、道士は不思議そうに首を傾げた。
「人探し、ですか?」
 虹に関係する人物を探しているのだと説明すると、道士は必死に記憶を辿り始めた。しかし、この様子では手掛かりはなさそうだ。そう察して光の戦士が声をかけようとして、しかし背中に強烈なを感じてハッと振り返った。それは、視線だった。
……虹?」
 例のヴィエラ族が、山塞の出入り口から肩越しにこちらを見つめて呟いた。その鋭いアーモンドアイは、灰色にも、黒にも、そして七色にも見える。そう、まさしく虹のように。
 まさか、と光の戦士は目を見開いた。
「誰だ。」
 強い拒絶の声だった。ただ誰何するというだけの言葉ではないように思えて、光の戦士は沈黙した。虹色の瞳の眼光が強くなる。同時に空気もすこし重苦しい。アシエンや蛮神、アルテマウェポンのような強敵を前にした時とはまた別物のプレッシャーを感じた。
「誰が私を探している。」
……ミンフィリアだ。」
 彼女が心配していたということを伝えても、相手の険しい表情は和らがなかった。
……ミンフィリア?」
 片方の眉だけ跳ね上がり、本気で困惑しているようだった。その口ぶりは、どうも彼が思っていたものとは違う。ミンフィリアが自分を心配する意味がわからない、というよりも、ミンフィリアという誰だか知らない人に心配されているのが意味不明────これが一番しっくりくる気がした。
「どこの誰かは知らないが、そいつに伝えておいてくれ。心配無用、私に関わるな、と。」
 即答すると、その背中は今度こそ振り返らず山塞から出て行く。それを慌てて追いかけた光の戦士は声を上げた。
「名前を教えてほしい!」
 すこし必死過ぎる気がしないでもないが、名前だけでも知っていればまた見つけられると思ったのだ。相手は振り返りもしなかったが、その長い耳は確かにこちらを向いている。聞いてくれていると、それがわかって光の戦士は胸に温かなものが灯るのを感じた。

……“オルクス”、とでも呼んだらどうだ。」

 声は夜の森に消えてしまった。テレポを使ったのか、扉の向こうにその姿はすでになく、光の戦士はそれ以上その影を追うことはできなかった。
 夜の森に、獣の声が遠く響いている。戦闘に夢中になっていたか、気がついていなかっただけか、不思議なことに今の今まで森の生き物たちの気配が薄くなっていたようだった。リスキーモブを恐れて息を潜めていたのだろうか。
 月光が何かを反射させている。地面で光るそれを目に留めて、光の戦士はしゃがみ込んで手を伸ばした。手のひらに転がったのは、虹色のエーテルを蓄えた小さなクリスタルだ。
 その時────
「くっ!」
 強烈なめまいと浮遊感に、額に手を当て必死にバランスをとる。久しく見ていなかったアレ────超える力だ。
 光の戦士の意識は、あっという間に過去に引きずり込まれていった。