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望月 鏡翠
2026-05-13 21:01:24
9037文字
Public
庭師は何を口遊む 霊山班
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残火
#庭師何を口遊む_霊山班
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巩心の眠っている時間は、少しずつ長くなってきている。それでも眠ってまだいる時間の方が長かった。彼のために何かしたいという気持ちを持て余し、病室にはものばかり増えていく。
自力で立ち上がることもできない入院生活を少しでも快適にできないかと考えるが、眠っている人間のためにできることも医者でもない人間にできることも、それほど多くない。
点滴で栄養を摂取するばかりで、お腹を空かせているだろう。だが、まだ医者から食事の許可は降りていない。
結局、できることといえば体を拭いてやることくらいだった。
看護師の人が気を遣ってくれているだろうが、それでも他にしてやれることがこれくらいなのだ。起きているときは痒いところがないか聞くが、今は眠っていて撫でたくらいでは目を覚さない。
薬の副作用だろう。
今日はドライシャンプーを用意していた。
長い髪の毛も洗いたいだろうが、入浴できるようになるのはまだ先だったからだ。
調べたところ、汚れを落とす効果があるのはパウダータイプらしい。粉を落とす手間があるらしいが、比叡にとっては手がかかることは大した問題ではない。
シーツが汚れないようにタオルを強いたあと、比叡は作業しやすいようにベッドの上に体を乗せる。膝の上に、そっと頭を動かして作業していく。髪に櫛を通していたところで、巩心が目を覚ました。
「んあ」
「おはよう。勝手にごめんね、面会時間中に済ませたかったから」
「明治サンが来てるってことは、今夕方くらい?」
「そう。もう少しで終わるから少しじっとしててね」
「んー」
体に力が入らないからだろうが、そのまま頭の重みを膝に預けてくる。
無防備だ。彼がここまで身を任せているという状況が、比叡の心の暗い部分をじわじわと刺激する。
普段であれば、自立心が強い彼が心を許す距離ではない。というか、そもそもこの距離は、相手が病人でなければ同僚として適切な距離ではない。それでも今比叡は身を任されていて、巩心はされるがままになっている。
それに愉悦を感じてしまっている。
早く治って欲しいし、怪我をしないまま過ごして欲しい。だが、彼がこのまま自分の腕の中でどこにも行かずに微睡んでいてくれれば、心の底から安堵できるのだろう。
それはできない。してはいけない。
彼には、彼の信じる正義がある。それを信じているからこそ、その道を塞ぐようなことをしてはいけない。
これ以上続いたらこの関係を心地いいと感じるようになってしまう。彼を自分がいる場所に引きずり込みたくなってしまう。
「早く良くなって」
それは心の底からの思いだった。
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