カレット
2026-04-16 16:53:20
12947文字
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騎士の瞳を窓にして

ブルーベリー学園修行編if/リコちゃんのシンクロマシンネタ無自覚アメリコ/シンクロマシンの仕様はゲーム本編寄り/ポケモンがめちゃめちゃ喋るし捏造注意




『カルボウ! リコ!』
 洞窟を抜けるとブリムオンの声が降ってきて、カルボウもソウブレイズも、アメジオも顔を上げた。崖の上からこちらを覗き込む姿は、ストライクの群れをなんとか切り抜けた様子で、ダメージはありつつも元気そうだ。
 手を振り返すカルボウに、ソウブレイズが『リコ……?』と怪訝な目を向けてきてぎくりとする。
「仲間か。テブリムが進化したんだな」
 ポケモンに目を向けるアメジオからはどことなく少年らしさを感じる。歳ははっきり知らないけれど、実際は第一印象ほど年上ではないのだろう。カルボウの姿であるのをいいことに、まじまじと見つめてしまう。彼のことをもっと知りたいと思うから。
「アーマーガアで行こう。ソウブレイズは戻ってくれ」
 頷くソウブレイズをボールに戻し、アメジオはアーマーガアを呼び出した。カルボウを先に上に乗せてくれて、その後ろに跨って飛び立つよう指示をする。
『しっかり掴まっていろ』
 アーマーガアに声をかけられ、肩の突起にしがみつく。鋼タイプだけど、背中の羽毛は想像より柔らかくて驚く。野生じゃない、人に育てられたライドポケモンだからかもしれない。アメジオが手入れしている姿が目に浮かぶような気がした。
 鋼の翼が強く羽ばたくと、ぐん、と浮き上がり、あっという間に地面が遠くなり、ブリムオンの表情がだんだんわかるようになっていく。アーマーガアは崖上に降り立ち、先に降りたアメジオがカルボウを抱えて地面に降ろしてくれた。飛びつくカルボウを、ブリムオンは抱きしめ返した。
『無事でよかった……!』
 心底ほっとした様子のブリムオンが、長い毛でぎゅうぎゅうに包みこんでくる。外からカルボウの体は見えなくなっていそうだ。
『ブリムオンも、切り抜けたんだな。流石だ』
『なんとかね。アメジオに助けてもらえたのね。良かった……
『本当にな』
 ふたりのやりとりを前に、心配をかけてしまった申し訳なさを感じていると、気にしないでリコ、とささやいたブリムオンが触手で頭を撫でてくれた。
 抱擁がほどかれて地面に降りると、アメジオの微笑ましげな目が垣間見えた。それはすぐに、真面目な表情の影に隠れてしまったけれど。
「ブリムオンはカルボウを探していたのか。ひとりで? マスカーニャやリコとは一緒ではないのか」
 ブリムオンがセンタースクエアを指すと、アメジオはふむ、と頷いた。
「カルボウがひとりで飛び出してブリムオンが探しに出ていたということか……? 何にせよ、お前たちをトレーナーの元に帰さなければな」
 アーマーガアを労い、ボールに戻したアメジオはこちらに両手を差し出した。再びカルボウを腕に抱いてくれたけれど、わたしはブリムオンの手前、恥ずかしくていたたまれない。ブリムオンは含みのある笑みを浮かべてアメジオの隣に並び、歩き出した。
 アメジオの腕に揺られつつ、考える。
(センタースクエアのわたしの体まで戻れれば、シンクロは解けるのかな。マシンを操作しなきゃいけないなら、方法がわからない……アメジオになんとかしてもらうしかないのかな。でも……
「修行していたと言うだけある。ブリムオンも、お前も良く成長している」
 アメジオがふたりに、目を見て、そう言葉をかけてくれるから。早く元に戻りたいと思うのに、カルボウの姿のままで、この腕から離れがたくも思う。
 同じ考えのカルボウとシンクロしているというだけではない。きっと今はポケモンの体だからこそ、彼と触れ合えて、気持ちを聞かせてもらえて、アメジオのことを知れるのが、嬉しいから。
「お前のトレーナーは強い。だからお前も、必ず強くなる。励め」
 こんなにも嬉しい言葉を、くれるから。
(この時間を、もうすぐ終わらせないといけないんだ)
 ――名残惜しいな。
 カルボウの頭の炎が、同調するように尾を引いて燃えていた。

  ◇

 自然豊かなドームの中に、ごく人工的な真っ白のブロック。それが敷き詰められたセンタースクエアに、アメジオに連れられてようやく戻ってこれた。
『リコ! カルボウ!』
 噴水のある休憩所に向かうと、マスカーニャが出迎えてくれた。すぐ後ろに心の抜けたわたしの体が立っているのを見つけたアメジオが、息を呑む音が大きく聞こえた。カルボウを抱き上げた腕が強張る。
 様子がおかしいことにすぐ気づいて、アメジオが駆け寄るも、マスカーニャが間に割って入った。
「何があった?」
 アメジオの声にはいつもの冷静さが欠けていた。わたしの身を案じているのを感じ取ったのか、マスカーニャは彼への警戒を解いてくれた。わたしの手の中のマシンのボタンをあれこれ押してみせ、全く反応が無いと肩をすくめる。マスカーニャも、ここで待っている間なんとかしようとしてくれていたことを知る。
『どうやっても、うんともすんとも言わないの』
「この装置が問題なのか?」
 アメジオはマシンをわたしの手から取り上げようとしたけれど、びくとも動かなくて目を瞠る。次に、マスカーニャがしたように操作を試みた。しかし効果がないようで、戸惑いが目に浮かぶ。困らせてしまって心苦しく思いつつ、その様子を目に焼き付けるように見つめた。
 ――リコ、これはおれが押さないと効かないんじゃないか?
 カルボウの考えにはっとした。わたしとカルボウを繋ぐマシンなら、それも当然か……
 さっき押したボタンは覚えている。これをカルボウの手で押せば、きっとシンクロは解けるんだという確信に包まれた。
 手をマシンに伸ばして訴えかけると、お前も押してみてくれ、とアメジオが体を寄せてくれた。
(元の体に戻れないと、カルボウ、あなたと触れ合えないもんね)
 ――ああ。おれを信じろ。
 感情を重ねて、アメジオの腕の中から身を乗り出し、ボタンを、押した。
 ぐらり。
 強く頭が揺れた感覚のあと、目を開けば、そこには両手に持ったマシンと、ボタンを押したカルボウがこちらを覗き込む顔。同じ高さにあるマスカーニャの顔がぱあっと明るくなる。ブリムオンが触手を伸ばし肩を優しく撫でてくる。
(元に、戻れたんだ)
 五本の指を動かして、実感する。そして、腕同士が触れ合う感触。
「リコ」
 顔を上げると、鮮やかな紫の瞳にわたしの顔が映りこんでいた。眉が下がり、目が細められるのが、ひどくゆっくりと、きらめいて見えた。
「良かった。目を覚ましたのか」
 それはさながらこうかばつぐんの、至近距離からのテラバースト。
「ひぇ、」
 一息に体が灼かれる心地。実はまだカルボウの体にいるのかと錯覚するほどの熱感に、腰が抜けてぐらりと後ろに倒れるのを、マスカーニャもブリムオンも、アメジオも支えてくれた。
……何があったか、詳しく聞こう」
……はい……
 一転して有無を言わせない圧を放つアメジオに、わたしは一も二もなく頷いた。