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カレット
2026-04-16 16:53:20
12947文字
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騎士の瞳を窓にして
ブルーベリー学園修行編if/リコちゃんのシンクロマシンネタ無自覚アメリコ/シンクロマシンの仕様はゲーム本編寄り/ポケモンがめちゃめちゃ喋るし捏造注意
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「目を覚ましたか」
意識が浮上して最初に聞いたのは、落ち着いた優しい声。顔を動かすと、地面に座るアメジオの姿が見えた。
ブルーベリー学園に修行しに来たことを数日前に伝えたら、ジガルデのセルを探す傍らこの日に立ち寄ると返信してくれていた彼。たまたまキャニオンエリアに居てくれて、カルボウを見つけてもらえて本当に幸運だった。
体を起こして辺りを見回せば、小さな洞窟の中にいるようだ。そして、地面に腰を下ろしたソウブレイズと目が合う。
『主をどこぞに残し、のこのこと』
ソウブレイズは呆れ顔だ。ポケモンの表情がいつもより読み取れることに気が付いた。
『無様に倒れていた貴様に我が主が気づかなければどうなっていたことか。有り難く思え』
『
……
痛み入る』
カルボウは肩を落とした。
(違うの。ソウブレイズ、カルボウはちゃんとわたしと一緒にいて守ってくれてたよ)
そう思いつつ、中にいることがソウブレイズに分かると話がややこしくなりそうで、口をつぐんでおく。
カルボウはわたしの心の声にすっかり励まされたようで、もっとストライクと戦えたらソウブレイズとの再戦のためのよい特訓になっただろうな、なんて考えが伝わってくる。悔しさと、向上心がめらめらと燃えていた。
(頑張り屋さんだね。ソウブレイズが、あなたの目標なんだね)
ふと、ソウブレイズとカルボウがやり取りするのをアメジオが見守っていたのに気づく。その眼差しが今まで見てきたそれよりずっと柔らかくて、体の奥がぽかぽかと温まる気がした。
「お前はリコのカルボウだろう? リコはどこに? はぐれたのか」
(カルボウのこと、わかってくれたんだ)
アメジオの前半の問いに驚きながら頷きつつ、答えに詰まるカルボウに代わって身振りとともに答えた。テラリウムコアを思い浮かべながら真上を腕で指す。
『リコは、センタースクエアに』
体はそこに居るのだから嘘はついていないのに、ソウブレイズが訝しげな目を向けてきてどぎまぎする。
「居場所は分かっているんだな
……
何か事情があるのだろう。お前のトレーナーは理由もなくパートナーを置き去りにするような人物ではない」
アメジオは、わたしがここにいると知る由もない。自分への評価を盗み聞きするような居心地の悪さを、少しだけ感じてしまう。でも同時に、本当にわたしをトレーナーとして認めてくれているんだと、誇らしくなった。
彼はポケモンに対しても折り目正しく、率直に説明してくれた。
「お前を見つけた時、崖上でストライクたちがいきり立っていた。奴らとのバトルで傷ついた上、崖から落ちたのだろう。手当てはしたが体は痛まないか?」
「すぐにお前を連れてアーマーガアで飛ぼうかとも思ったが、衰弱がひどく、回復が先だと判断してこの洞窟に連れてきた」
「気休めではあるが、ソウブレイズにも炎を分けさせたんだ」
ソウブレイズも頷いた。確かに、ダメージは残っていない。カルボウが『痛みは全くない。感謝する』と腕を振り上げて答えると、アメジオは口角を上げて頷いた。
感謝してもし足りない。その上、傷の様子で何が起きたか把握できるなんて、と感心してしまう。状況判断力、手際の良さ。やっぱりアメジオは、ジルさんとコニアさんが忠誠を誓うような凄腕のトレーナーなんだ。カルボウも憧れを抱いたようだ。わかるよ。わたしだって、実はずっと憧れている。
「俺はお前のトレーナーに会いにここへ来たんだ。共に行こう」
『喜んで』
アメジオの言葉にカルボウは強く頷き立ち上がった
……
けれどすぐに膝に力が入らずにへたり込んでしまう。こちらを観察する彼の真っ直ぐな視線になぜか緊張して、わたしの心は目を合わせられない。
「頭の炎が弱いな。空腹なのか」
カルボウが恥じ入るのを感じながらわたしは頷いた。すると、アメジオが懐から棒状の包みを取り出して包装を解き、差し出してくる。カルボウは目を瞬かせた。
「ソウブレイズ用の携帯食だが、カルボウの口にも合うだろう。食べると良い」
『ありがたい!』
カルボウの体が喜びから熱くなった。携帯食は油分の多いもので、それがとても美味しくて、身体にエネルギーが行き渡る感覚があった。ポケモンフーズをポケモンの体で食べるなんて貴重な体験だ。
ぺろりと平らげたカルボウに、ソウブレイズが釘を差すように言った。
『我が主の温情をゆめゆめ忘れるな』
『言われるまでもない』
すっくと立ち上がったカルボウがアメジオに対して胸に手を当てる。
「では、行こうか」
アメジオも立ち上がり、カルボウに微笑んだ。カルボウの誇らしい気持ちを隣に感じつつ、わたしはどうしてか心が揺れるのを自覚していた。
◇
元々背が高いアメジオだけど、1年の間にさらに伸びたんだと思う。長いコンパスで奥に見える洞窟の外へ颯爽と歩いていく。それに対してカルボウの歩幅は圧倒的に短くて、走っていてもどんどん置いていかれてしまう。
「すまない。疲れているんだな」
肩で息をするカルボウは、『情けない』とソウブレイズに見下ろされて悔しそうだ。傷が回復してお腹が満ちていても、長時間戦った体には疲れが溜まっている。
不意に、体が浮いた。アメジオの腕に抱き上げられていると気づいて混乱する。
(ぅええっ
……
!?)
叫び声を上げそうになって、慌てて踏みとどまった。心の中では盛大に叫んだせいで、カルボウの不思議そうな気持ちが伝わってくる。だって、抱っこなんて、小さい頃にしてもらって以来で。
片腕に抱えられたカルボウがアメジオを見上げて、視線が合う。こんなに近くで、アメジオの顔を見たことなど無い。長い睫毛に縁取られた、暗がりでもわかる真摯で鮮烈な紫色に、目を焼かれるかと思った。人間だったらどきどきして顔が熱くなるところなのに、カルボウはそれほど動揺していなくて体と心がちぐはぐだった。
「不本意だろうが、こうさせてくれ」
カルボウは黙って頷く。ブリムオンに抱っこされるのはプライドに障るみたいだったのに、アメジオのことは受け入れているようだ。やっぱり進化形のソウブレイズのトレーナーだから、一目置いていたりするのかな。そう考えると、肯定するようにカルボウの心が熱を帯びた。
アメジオは急いでいるのかな。わたしに会うために? いやいや何を思い上がって。ポケモン想いの彼のこと、カルボウのために決まっているのに。
カルボウの体の中から絶えず溢れる熱を、アメジオの腕がなだめてくれる。火照るわたしの心まで、彼の落ち着いた体温が冷ましていくようで、それがひどく心地よかった。
「お前を見ていると、思い出す。かつてカルボウだった頃のソウブレイズをよく膝に乗せたこと。ハンベルの課す鍛錬に共に立ち向かうときの後姿
……
」
ぽつぽつと落ちた独白が、情景を映し出していく。アメジオの家の写真で見た姿から少し成長した、トレーナーになりたてのアメジオとカルボウ。兄弟のような距離。強敵に諦めずに立ち向かう姿。
「だから、手を貸したくなるんだ」
その頃が垣間見えるような、どこかあどけなさすら感じる目は、カルボウに信頼を、わたしにときめきをもたらした。
『心遣いに感謝する』
『せいぜい我が主を失望させるな』
後ろを歩くソウブレイズの口調は相変わらず厳しいけれど、声からは角が取れていた。アメジオとともに、昔を懐かしんでいたのか、トレーナーが心を寄せている相手だからなのか。
カルボウを抱く腕は疲れに緩むこともなく、安心感を与えてくれる。アメジオの服から落ち着く香りが立ちのぼる。すっかり懐いたカルボウが頬を擦り寄せる胸から、穏やかな脈が伝わってくる。きっとソウブレイズもアーマーガアも、たぶんジガルデも、この腕と香り、この人の音を知っていて、きっと精神を支えられている。だからポケモンは、そのお返しにトレーナーを守るのかもしれない。
ポケモンになっているからか、カルボウの心とシンクロしているせいか、彼を守りたいという感情が強く沸き上がる。アメジオに今まで助けてもらった分以上に、わたしもアメジオを助けたい。ポケモンだったなら、アメジオにこうして寄り添えるのかな。
そう考えて、でも決してわたしはポケモンになりたいわけじゃないのだと気づく。わたしはトレーナーとして、アメジオとソウブレイズに並んで立ちたい。
――
そうさリコ。おれだって。
カルボウの心の声が、わたしの心に明るく火を灯した。そうだねカルボウ、わたしたちも。カルボウがいつか進化して、ソウブレイズと並び立つ、アメジオと一緒に戦う、そんな日が来るのを夢見た。
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