【Sugar Sugar Everyday!】

シナリオネタバレなし

メルロル/アルエル/レグシュウ/シグリリ
※ケーキバース ※R-15程度の描写有



 じとり。そんな雨の温度が髪を湿らせる朝。ベッドから降り、一つ大きな背伸びをした。うねる毛先を指で正しながら部屋を出て、階段をゆっくり下る。リビング前に辿り着けば、憂鬱な空気を裂いて甘い香りが届いた。そっと覗き込んだ先の台所で、愛しい彼の背中が見える。


「おはよう、シグ」

「ん、おはようリリア」


 挨拶を投げれば、彼はゆるく振り返り頷いた。まだ火を使っているためだろう、すぐにシグルスはまた私に背中を向ける。その手元から、ジュワジュワと油の沸く音がした。同時に漂うパンケーキの気配に、私の気持ちはふわふわと上昇する。

 邪魔するのも申し訳ないと思い、椅子に腰掛けた。ただ待つのも退屈なので、テレビを付けて適当な番組を眺める。今日は雨だと語る女性キャスターが微笑み、最近のニュースへ切り替わる。大きな事件や事故はないらしく、毒にも薬にもならないような内容を男性は読み上げていた。


《次のニュースです。
 フォーク抑制剤ついて、××研究所開発チームから次の発表がありました》


 ぎくりと一瞬、自分の身体が強張ったのを知覚する。彼に気取られぬよう平静を保ちつつ、ニュースを傍観ではなく視聴する体制へ移った。開発者である黒髪の男性が、テレビの画面で何やら難しいことを語っている。ざっくり要約すると、抑制剤の一般販売を考えているとの事だ。

 フォーク抑制剤。それは、近頃の世を騒がせる発明品である。未だ流通はしていないものの、試験運用では確かな安全性と効果を記録しているらしかった。飢餓に狂いがちなフォークの捕食欲を制御し、衝動に突き動かされる事案を減らすための薬。


「リリア、今日はベーコンも焼いてみたんだ」

「わ、なんだか贅沢な朝ごはんね」


 皿を置く音と彼の声で、沈んでいた思考が急速に覚める。悟られぬよう笑顔で頷けば、大袈裟にしすぎたのな不思議そうな顔をされた。

 ノーマルの自分には、殆ど関係ない抑制剤の話題。けれど彼は、シグルスは違う。彼は幼い頃からフォークの体質であり、味覚をケーキの人間以外から得られないのだ。

 ケーキを前にして狂う可能性、或いは狂わされる可能性を秘めている彼。フォークだと判明してすぐ両親から迫害された幼馴染を、私はこのまま放置などできない。抑制剤があれば破滅の可能性は確実に下がる筈、ならば高額でも自分は手に入れたかった。


「大丈夫か? なんだか上の空みたいだが」

「ん? ああ、ごめんなさい。まだ少し眠くて」


 上手く誤魔化せば、納得はしていない様子でシグルスは引き下がる。朝食を整え正面の席に座った彼は、静かに手を合わせた。それに倣って手を合わせながら、私はぼんやりとこう思う。


 ────私も、彼の食卓に並びたかったケーキがよかったな。




【銀の皿、黒を偽る】