【Sugar Sugar Everyday!】

シナリオネタバレなし

メルロル/アルエル/レグシュウ/シグリリ
※ケーキバース ※R-15程度の描写有



 ふわり。甘い匂いに鼻をくすぐられ、ボクは静かに目を覚ます。一人で眠るには広いベッドから降りて、一度ぐんと背伸びをした。寝間着のまま部屋から出れば、砂糖の香は更にその存在感を増す。

 階段を過ぎ、リビングに入った。扉を開けた途端に香る、甘露で優しい菓子の歌声。キッチンで調理をする彼がボクに気が付き、柔らかく微笑んだ。


「おはよう、ロルくん」

「おはよう、メル殿」


 ちょうど焼き終えた頃だったらしい、彼はまだ熱いフライパンからパンケーキを皿に移し替えている。滑らかな湯気を漂わせるそれは、全身で自分は美味だと主張していた。

 微笑みを返しながら歩み寄れば、彼はボクの額に口付けを一つ落とす。近付いた首筋が煌めいて、口内に唾液が溢れた。仕方がないと一つ息を吐いて、彼の寝間着を小さく引く。期待を隠さないまま、彼は屈んでボクと視線を合わせた。


 彼の顔を両手で包み込み、ゆっくり唇を重ねる。細かな啄みから始まり、やがて捕食するように彼の口内を貪った。互いに隙を見つけては何とか呼吸しつつ、ボクは彼を深く味わう。とろとろに溶けたチョコレートが舌を這うような、潰れたカスタードプリンがキャラメルと混じって喉を侵すような感覚。おかしくなった味覚が、彼を極上の食材だと告げている。


「ぷは、ぁ」


 絡んだ舌を解いて離せば、ボクたちの間で銀糸が垂れて千切れた。頬へ赤色を散らした彼は、まだ足りないと言わんばかりにボクの首に腕を回す。彼の方が身長は高いので器用に膝を折り、ボクに縋るような形でまた口を寄せてきた。
 それを人差し指で制止し、少し呆れた声を漏らす。


「メル殿、今日は仕事があるだろう」

……むぅ」

「そんな可愛い顔をしても、ダメなものはダメだ」

「オレに可愛いなんて言うの、ロルくんだけだぞ」

「そうかい? それは光栄だ」


 まだ不満だと表情で伝える彼に、思わずクスクスと笑ってしまった。ボクのそんな反応を見て、彼はまた頬を膨らませる。その動作がまた愛らしくて、つい頭を撫でてしまった。

 彼の額へと、唇を押し付ける。軽く吸ってリップ音を鳴らしてやれば、彼はくすぐったそうに口角を歪ませた。そこに安堵の色が滲んでいるのを見て、ボクも漸く安心する。


 彼はケーキの性質を持つ人間だ。フォークにのみ最上の菓子として機能するその性質は、一人の例外もなく先天的なもの。対するボクは、フォークの性質を持つ人間だ。それは全てが後天的、自分も突然に失せた味覚に困惑したことがある。

 フォークになったのは、彼と結ばれて数日後。彼と共に作った料理、それに対する感覚が尽く失せていた。彼との卓にも食欲が唆られず、口に入れても無味無臭。そして何より異質なのは、料理よりも彼を見ているボクだ。

 違和感を覚えた彼が、対面から手を伸ばした。無意識に手を握り、その指先を咥えた。驚く彼を無視して、ボクは甘露を舌で転がした。整えられた爪を舌で撫でて、少し乾燥した皮膚を軽く噛んだ。唐突な異常行為だが、彼もボクもそれだけで全てを理解した。

 彼はケーキで、ボクはフォークになったのだ。

『いいよ、ロルくん』
『ちゃんとのこさず、食べてくれるなら』

 そう告げた彼は、自分を前から抱きしめた。強くなった砂糖の香りで頭が茹だり、くらりと大きく揺れたのをよく覚えている。だけど、ここで彼を食べ尽くすわけにはいかない。彼が喜ぶとしても、それをボクは望まない。

 だからボクらは約束したのだ。
 いつか必ず、キミの全てを平らげると。


「焦らなくても、ボクはキミを残したり遺したりしないよ」


 そっと抱きしめて、彼の存在を浴びた。本能が食欲を突き落とそうと背を押して、理性がそれを太い縄で固く縛っている。こんな綱渡りの極限状態だと言うのに、ボクも彼も心は穏やかだった。




【おのこし厳禁】