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kumazaregoto
2026-04-30 23:23:55
15441文字
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智慧灯明 因習村だよ 3日目
橿本お借りしています
3ページ目は動物がかわいそうな目に遭っています。注意。
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陽が差し込み、視界の端では宙を舞う埃が煌めく。
部屋に山積みにされた書物は、橿本によって読み終わられると、別の山を作って次々と高さを増していった。用意された寝床には広がったままの巻物がいくつか並べられ、時折そちらへ視線を遣りながら、橿本は手元の巻物を読み進めていた。
「ふむ、これも同じか」
長い息を吐いて、橿本は格子窓を見上げる。木々に阻まれ、届く陽光はやはり僅かなものではあるが、夜通し書に目を通し、行灯の火に慣れた目には充分明るい。
眩しさに目を擦り、巻物にまた目を通す。
記されていたのは、何十年にも渡る奉納の詳細だ。田畑の所有者は誰で、何がどれだけ奉納されたか。非常に細かい記録が事細かに載っていた。
橿本の読んだもののほとんどがそれら帳簿であり、こうしてこの倉庫に押し込められていたのだろう。埃を被っていない書物は、比較的最近のものであった。
また違う書物を開いて、橿本は目を通す。文字の羅列を追い一通り読み終えると、どれも同じか、と呟いた。
(筆跡が変わっているのは神主が代わったからであろう。代替わりが十年、長くて二十年だとしても凡そ不自然な点は無い。帳簿も、収穫祭のものがほとんどだ。だが、そもそもこの帳簿は何の為にある。そしてこれほど細かいというのに、不自然なほど収穫祭以外の祭の記載が無い)
この村に着いたばかりの時を思い出す。外では穂をつけたばかりの、青々とした稲が風に揺られていた。収穫の時期にはどれほど早くてもあと三月はかかるだろう。
そして東雲の言葉。
『あっ、えっと
……
にぎやかなお祭、じゃないんですが、村の近くにある神社に、今年も無事で過ごせました、来年も守ってください、と神様になった、その旅人にお祈りするんです』
(祭の起源は伝説ともなったその旅人が訪問した時期、と考えると話が繋がるか。これだけ奉納品があるのならば、食糧を旅人に渡すことも困難ではなかろう。だが肝心の祭の詳細はどこにも見当たらない。ここまで几帳面に記録を残しているのであれば、二日後の祭に何ら記述が無いのもおかしな話だ)
傍に置いていた、日の入り前に読んだ書物にもう一度目を通す。
(祭には巫女舞を舞う、とあの神主も言っていたが
……
ふむ。こちらにもやはり記載は無いか)
ならばと橿本が思案する側、戸の先で廊下のぎしぎしと木の擦れる音が響く。誰かが近づいているのだろう。
年季の入った床の悲鳴は二つ分。その音に橿本が顔を上げると同時に、戸を叩く音が聞こえた。
「お医者様、起きていらっしゃいますかな?」
嗄れた翁の声、村長のものだ。
「ああ、起きている。入って構わんぞ」
失礼します、とゆっくりと戸が開かれる。昨日と変わらず、村長はにこやかな笑みを浮かべていた。
その隣には対照的に、不満そうな様子を隠そうともしない、あの醜男が控えている。ぎろりと橿本を睨む姿からは、少しも心を開いた様子は無く橿本は肩を竦めた。
「おはようございます。昨晩はよくお休みになりましたかな?」
「ああ、お陰でな。こうして夜も飽きずに済んだ」
開き放しの書物へと村長の細い目が見遣る。読み途中のものであったが、ともすれば乱雑とも云える有様にも見える様子に玄太の眉間の皺が深まる。玄太の様子など村長は気にした様子も無く橿本ににこり、と微笑んだ。
「左様でございましたか。それは良うございました」
「神主たちは随分真面目に記録を残しているのだな。仔細これほどまで書かれたものもそうあるまい」
「はは、筆まめなのがうちの歴代神主の取り柄でございまして。お気に召したものはございましたか?」
「ああ、巫女舞の儀は興味深かったぞ。口伝のみならず舞にここまで記述が残っているとはな」
「おお
……
そこまで読まれておりましたか。昨日もお伝えした通り、巫女舞は重要なものでして、記録を残して次代の巫女にも伝わる様にしております。巫女の中には早くに亡くなった者も多かったのです」
私の家内もそうでして、と村長が眉を下げて笑う。
「ああ、いけません。お食事を用意したというのにこちらからお話ばかりですみません。朝餉を置きますので、どうぞお召し上がり下さい」
「忝い。それで村長よ。自分はこの後村を見て回りたいのだが、構わんな?」
「何がどういう訳だ」
橿本の要望に、それまで黙っていた玄太が水を差す様に割って入る。
「お前みたいな余所者が村の中でうろつくな。ただでさえ祭の準備があるというのに、迷惑だ」
あくまで客人と迎え入れる村長と異なり、男はどこまでも余所者として橿本を排除したいらしい。橿本を持て成す村長の隣で、不快さを露わにする醜男に橿本は首を傾げた。
「その祭まであと二日もあるだろう?ならそれまで村を見聞せねば、祭の概要もわからぬ故に申し出ているだけだ」
「お前が知る必要はない」
「何故だ?知る必要がないのであれば、村長もここに招かず、自分とあの者を街へ返したであろう?」
なあ、と村長に視線を送れば、はいとにこやかに村長は微笑んだ。
「お医者様の仰る通りです。玄太よ、村の案内役を頼めるか?」
「
……
わかりました」
どうやらこの場において、橿本が上手であったのを玄太は理解した様だ。もしこの場にあの傭兵がいたのなら、口の達者さでこの男と勝負するとは、と呆れているに違いないだろう。
渋々村長の言葉に頷くと、恨めしそうに橿本を睨め付ける。橿本は玄太の視線など気にすること無く、村長へ話し続けた。
「朝餉が終われば娘を診に行こう。村の見聞はそれからで構わん」
「ありがとぉございます。では、私はここで失礼します。外で玄太が控えておりますので、召し上がられましたらお声がけください」
深々と村長が叩頭すると、戸をぱしゃりと玄太が閉める。戸を閉める音だけが乱暴であり、橿本への悪態を改める気配は全く無い様だ。むしろ悪化さえしているのではないだろうか。
戸の向こうでは、小さく声を顰めているが、村長が青年を咎めている。それらが聞こえなくなった時には、木のギシギシと鳴る音が再び二人分響いていた。
「
……
さて、まずは朝餉からか」
用意された食事は決して豪華なものではないが、東雲の家で出されたものに比べればよほど大層な品ばかりだ。米に大根や山菜の漬物、それと味噌汁。盛られた米の量だけでも、村長や玄太らは農民の中でも豊かな暮らしをしているのだろう。
しかし、箸を取らずに器だけを手に取り、橿本は背後の何も無い空間へと米を差し出す。何も無いはずの空間が割れ、吸い込まれる様にして米は消えていく。それらを幾度か繰り返し、盆に乗せられた朝餉は綺麗に片付けられた。
「では患者を診に行くとするか」
開かれたままの巻物を片付け、巫女舞の書物を手に取る。朝餉と同じ様に異空間へと放り込むと、すくりと立ち上がって部屋を後にした。
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