芹沢亀吉
2026-04-27 07:40:05
7669文字
Public 風刺
 

どうした湊川護

暴虐な軍国主義者の楠木武一等陸佐が恥をかく物語の通算125話目。今作の主役は湊川護二等陸曹の筈なのに楠木武が悪目立ちし過ぎて埋没しているような気が。あと食事中の閲覧は厳禁で!

 信太山駐屯地所属の湊川みながわまもる二等陸曹が最近熱心に読んでいる『法の書』は実在した魔術師アレイスター・クロウリー(1875~1947年)が著したもの。敬虔なキリスト教福音派の家庭に生まれるも反キリスト教に転じたクロウリーに湊川は強く共感し、毎晩独身寮の一室にて『法の書』に記された魔術の再現に勤しんでいる。

「ト・メガ・セリオン!ト・メガ・セリオン!」

 ここで言う「大いなる獣ト・メガ・セリオン」は『ヨハネの黙示録』に記される黙示録の獣を指す。聖書に詳しい方なら黙示録の獣が神を冒涜する魔物なのはお分かりかと。反キリスト教に転じたクロウリーは自身を黙示録の獣と見做すようになり、魔術を使う際「大いなる獣」と叫んだとか。

「駄目だ!何も降りて来ない!」

 魔術により自らの体内に神霊を呼び入れる、要するに自らを神霊と一体化させるのがクロウリーの定義する「召喚」。しかしながら湊川は『法の書』に記されている召喚術を何度試みても思うような結果が得られずただ苛立ちを募らせるばかり。

 結局徹夜してしまった湊川は慌てて眠気覚ましを飲み信太山駐屯地へと急ぐ。

「よぉ、湊川。最近お前目の下のクマ凄ぇな。夜更かししてネトゲでもしてんの?それとも一晩中女にモテる方法考えてた系?だったら同期のよしみで言っておくけど、無駄なことは止めとけ。お前みたいな間抜け面を好む変な女なんてまずいねぇから。」

 何かと軽薄な振る舞いが目立つ乃木のぎまさる一等陸曹が同期の湊川に嫌味を言うのは毎度のこと。

「乃木、貴様ぁ!ミナミ(※大阪市中央区の難波、心斎橋、道頓堀、千日前の繁華街、歓楽街の総称)のキャバクラ全店から出禁になった癖に偉そうなこと言ってるんじゃねぇ!」

「非モテの分際で俺のプライベートに口出しするな!そんなんだからその歳になっても童貞なんだよ!この間抜け面め!」

 湊川と乃木の醜い罵り合いはそのまま激しい殴り合いに。ちなみに乃木がミナミのキャバクラ全店から出入り禁止にされているのは紛れもない事実。ネット上ではミナミのキャバクラ全店から出入り禁止にされた女癖の悪い自衛官がいるとの噂が広まっていて、同期の乃木の女癖の悪さを前々から知っていた湊川はその出入り禁止にされた自衛官が彼であることにすぐに気付いた。いつもならわざと湊川を怒らせてヘラヘラ笑う乃木が彼にキャバクラ出入り禁止の件を気付かれ逆上というのも軽薄というか、人間の器が小さ過ぎるというか。

「貴様ら、何をしている!内ゲバなど連合赤軍のやることだぞ!」

 色の浅黒い中年男が駆け寄って来るや否や「軍人精神注入棒」と書かれた木製の棒を振り上げ、湊川と乃木を折檻した。この中年男、楠木くすのきたけし一等陸佐の口髭を生やし部下を折檻する姿は完全に旧日本軍の上官のそれ。

「楠木一佐、乃木の奴が先に俺を侮辱したんですよ」

「湊川、てめぇは黙ってろ!楠木一佐、俺はただ目の下のクマ凄ぇから心配しただけなのに湊川が勝手に怒ったんですよ、勝手に!」

 部下2人に言い寄られると眉間に皺を寄せ、乃木、湊川それぞれに精神注入棒の追加の一撃をお見舞いと楠木の性質は粗暴そのもの。

「どうだ!軍人精神注入をおまけしてやったぞ!この部下思いの楠木に感謝するが良い!グハハハハ!」

 図に乗った時の楠木の下品な笑い声は実にやかましく耳障り。こんな上官の資質皆無な暴力主義者が一等陸佐にまで昇格し威張り散らしている自衛隊は組織構成自体に深刻な問題を抱えているのでは?