無窓居室
2026-04-20 03:53:18
5419文字
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ブックサンタ2024

クリスマスイブの👦その両親と😈とあの人。👦の両親の描写はほぼ捏造です。
👦の父×👦の母はCP表記した方がいいんでしょうか…?



 

12月23日 午後2時45分


 ダイニングにホットワインの甘い香りが漂っていた。続きのキッチンのコンロでは、夕食のシチューだという鍋が優しい音を立てて煮えている。さとしの母親はその前に立ったまま、テーブルに着いたブラックに礼を言った。

「ありがとう、ブラックさん。いつもさとしがお世話になってる上にこんな事までお願いしちゃって」
「お気になさらず。オレちゃんの方こそ、さとしくんにはいつもお世話になってますから」

 ブラックの手元には子ども達の間で流行しているポキモンカードゲームのパックがある。今月の初めに発売されたばかりのハイクラスパック。当然どこの販売店でも大人気で、10パックを纏めたボックスは即日売り切れ。バラ売りのパックも購入できる店舗は限られており、一人一日2パック限定・並び直し禁止のルール付きだ。

「小さい頃はこの季節になるとサンタさんに何を頼むか、訊かなくても騒いでうるさいくらいだったのに、一昨年くらいからかしらね……欲しいものを聞き出すのも一苦労なの。さりげなく訊ねてみたり、子ども部屋の前で耳を澄ませてみたり、やっとのことでこのカードのボックスが欲しいんだろうと見当をつけたと思ったら、あの購入制限でしょう」

 苦労を語るわりに明るい話しぶりを、振る舞われたホットワインに口をつけながら聞く。ワインは甘味が強く、ブラックベリーの風味も気に入った。

「カードショップのことはよく知らないしネットオークションとかは怖いし、直営店に並ぶしかなくてね。どう頑張って買いに通っても当日までに1ボックス分揃えるにはどうしても1パック足りなかったから、本当に助かりました」

 シチューの下拵えが済んだらしく、母親はアルコールを飛ばしたワインを子ども用のマグカップに注いでテーブルまでやって来た。カップをカメラちゃんの前へ置くと、そのままブラック達の向かいへ腰を下ろす。

「この役目もそろそろ潮時だと、私は思ってるんですけど……

 笑い混じりに言う母親の目がすでに何かを懐かしむ色をしているので、ブラックは穏やかに口を開いた。

「お父さんはまだ現役のサンタさんでいたいと?」
「いい歳して親の方が夢見がちで、困ったものよ」
「映画監督を目指されていたとか」
「今でもよく空想の世界で遊んでるんです。きっと頭の中で自分の映画の上映会でもしてるんだわ」

 苦笑には親しみがこもっている。ブラックもつられて(これは比較的珍しいことだ)常に上がっている口元に笑みを乗せた。

……いいえ、きっと自分が撮りたい映画の中にまで行っちゃってるわね。あの人なら」

 ブラックが持参した──ちなみに最寄りの直営店にきちんと並んで購入したものだが──1パックで1ボックス分のカードは揃った。問題はボックス売りには付属しているはずの箱が無いことだ。

「仕事で使ってるソフトで似たものは作れると思うんですけど、そういうの良くないんでしたっけ?」
「安全とは言えないですね。それに好きなものに対する子どもの目は鋭いです。見抜かれないレベルのものを作るのは個人では難しいかと」
「やだわもう。なんでいつも私がこんなこと……でもまあ、ここまで来たらやるしかないわよね」

 困り顔で張り切る母親に、ブラックは丁寧にワインの礼を言って席を立った。もうじきさとしが学校から帰る時刻だったので。サンタクロースの仕事は子どもの知らない場所で行われるものだから。