冬暁
2026-04-06 22:30:00
3507文字
Public 悠アキ
 

悠アキSSまとめ

四作のSSをまとめたものです。特殊な設定の話も含みます。


ただどうしようもなく愛おしくて


 淡い色の花びらがはらりと落ちる。穏やかな風はジャケットを優しく撫でるばかりで、花びらは陽だまりに受け止められた。
「春だね」
 傷のない白い手が花びらを摘む。青空に透かすように持ち上げて、眩しそうに目を細める横顔は柔らかい。きっと数えきれないほどの痛みと悲しみを受け止めた手は、それを感じさせないほどの慈しみに満ちている。
 あの手が黒い毛並みを優しく撫でて、丸い体を抱きしめているのを見るのが好きだった。ビデオの背を撫でて、楽しそうにかける指が好きだった。
 疲れきった妹を眠りに導くその手の、眼差しの温もりが。
 僕は愛おしくてたまらない。
 短く息を吐き出す。春の陽だまりに溶けたそれは、どうしようもない幸福に満ちている。
「悠真?」
 色素の薄い髪が桜に色づく。僕は目を細めて手を伸ばした。指先があたたかい。驚きに見開かれた新緑色に頬が緩む。
「あはは、ここにも春がいたね〜」
 摘んだ花びらと一緒に紅潮した頬を撫でた。心があたたかく満たされて、怖いくらいに幸せだった。
 指先を絡めるように繋いで一歩近づけば、周囲を確認するように視線が動く。その目を射止めて唇を重ねた。
 花のほのかな甘い香りと、爽やかな春の風が僕たちを包む。
 ああ、なんでだろう。
 涙が出そうなくらいに、あんたが好きなんだって気持ちで溢れてる。
 好き。好きだよ。どうしようもなく好きなんだ。
 諦めた未来をこの手と掴みたくなるくらいに。
 この手を繋いでどこまでも歩いて行きたいくらい。
 ああもう、どうやったらこの愛おしさが伝わるんだろう。
 何度考えたって陳腐な言葉にしかならない。
「アキラくん、僕と——————

Posted by 冬暁/薄明