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榎本奏江
2026-03-28 04:34:26
8215文字
Public
小豆さに
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【小豆さに】永遠に続く悲しみの向こう側へ
『一瞬の永遠をここで誓おう(
https://privatter.me/page/69c6daf7b80bb
)』の続きです。
※審神者の元婚約者(故人)のことが書かれています。
※小豆さに連載小説の核心的ネタバレが含まれていますので、連載を読んでいる方は要注意です。
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3
4
【当日】
その日は雲一つない晴天だった。
一気に秋めいた空には赤とんぼが飛んでおり、吹く風は涼しく、薄着では肌寒いくらいだ。
桔梗はこの日、二日ほど本丸を空けることを昔からしていた。
今以上に精神的に不安定になるのが分かっており、本丸の男士に見られたくない、迷惑かけたくないと言う理由で、現世で過ごすことを決めている。
ただし、去年から違っているのはそこに小豆が同行していること。
そして、昔住んでいたマンションを明け渡し、今は現世で生活するための新たに契約した規模の小さいアパートでその二日間を小豆と一緒に過ごすようになったこと。
その間は数日前のように不安定な桔梗を小豆がつきっきりで支えてくれる。
午前中は別行動で桔梗は親友や雄一の両親たちと共に墓参りをする。
これは毎年恒例のことで小豆は去年から正式に付き合うようになったとしても、元からある恒例行事に邪魔する気はなかったし、場違いと言うのは理解していた為、小豆は近くの喫茶店で待っていた。
午後になり、解散した後、改めて小豆とふたりで雄一の墓参りに向かう。
花を添え、線香を焚き、墓石の下で眠る彼に手を合わせる。
「ごめ
……
ん、なさい
……
雄一、ごめんね
……
」
堰
せき
を切ったように桔梗は泣きながら謝った。
親友たちと言った時は決してできなかった行為を今、小豆と眠る彼だけの前で行う。
真実は狙撃手である桔梗の誤射による射殺だが、現実は「別室にいた強盗犯の仲間が雄一を射殺した」ことになっており、桔梗はあくまで表向きは「婚約者を殺された被害者」として存在している。
その事実を一生、
公
おおやけ
にできない罪悪感。
決して許されることのない事実に、例えどんなに雄一本人が許してくれても、その罪はけして消えることも無かったことにすることはできない。
桔梗の中で一生、死ぬまで縛り付け、赦されぬ罰として抱えていくしかない。
それが、例えどんな理由であっても。
泣いている桔梗の隣で小豆は黙って墓石を見ていた。
最初の内は何もしない。ただ、隣で立っているだけだ。
この間だけはどんなにそばに寄り添っても小豆は「部外者」でしかない。
決して踏み入れることのない領域に小豆は傍観者として、桔梗の気が済むまで見守ることしかできないのだ。
数十分、長い時間泣いた後、桔梗は呼吸を整え「私ね
――
、」と話し始めた。
「今、とても幸せだよ。あなたが言った通り、本心から笑って生きているよ。だから、安心して」
「
……
恭香」
隣に居た小豆は驚いた様子で目を見開き、桔梗を見た。
桔梗はそのまま話し続ける。
「彼が
――
あずさんが、いるから。彼が世界の誰よりも私を愛してくれているから、大丈夫。心配しないで、雄一」
静かに目を閉じ、一呼吸置いた。
ゆっくりと開かれた瞳には今までのような輝きを取り戻してあり、もう迷いはない。
「私は警察官であって、審神者。彼は刀剣男士。まだ、戦いは続いていて、終わることはない。いつか本当に来る別れだってあるのは分かっている。それでも私は、彼が私のことを誰よりも愛してくれているから、怖くない。怖いことがあっても、苦しいことがあっても、大丈夫。あずさんが側に居てくれるから。彼がくれた私への愛はかけがえのないもので、何よりも私を強くしてくれる。それだけで、私は前を向いて歩き出せる。だからもう、大丈夫だよ、雄一。今まで心配かけてばかりでごめんね」
その横顔から見える桔梗の瞳は誰よりも知っている強くて美しい眼差しだった。
揺るぎない、真っ直ぐで輝きのある綺麗な瞳。
桔梗は小豆の方へ向いた。
「そうでしょう? あずさん」
フワッと柔らかい笑顔を見せる桔梗に小豆はいつも魅かれてしまうのだ。
どこまでも強く、どこまでも美しく、歪みない真っ直ぐなその君の心と瞳に。
「恭香
……
。きみは
――
、ほんとうに。
……
雄一くん、恭香のことはわたしにまかせてほしい。かならず、かのじょをしあわせにする、ずっとかのじょのそばでまもりつづけることをちかうのだぞ」
「あずさん
――
」
「恭香
……
」
小豆は桔梗の正面に向き直し、真っ直ぐに彼女を見下ろした。
その瞳はいつも以上に力強く、揺るがない意志を感じられる。
「私が折れることは絶対にない。例え、どんなことがあろうと必ず私は君の隣に居続け、君を護り、支え続ける。君の命が続く限り、私は君だけを愛し続ける。だから、この先、何があろうと心配する必要などないのだぞ」
小豆は桔梗の左手を取り、その薬指に嵌められた指輪を口付けた。
これは想いでもなく【誓い】だ。
彼に誓おう、この先何があろうと、どんな別れが来ようとふたりでその未来を歩み続けることを。
「あずさんっ
……
! うん
……
うんっ
……
! ありが
……
とうっ」
桔梗は先程とは違う涙が頬を伝って流れた。
まさか、彼を失った日に嬉し涙を流すとは思っていなかった。
桔梗にとって彼を失って七年目、初めてのこと。
桔梗は小豆の胸に飛び込み、飛び込んできた彼女を小豆はしっかりと抱きしめ、お互いに強く強く抱きしめ合う。
小豆も目に涙をうっすらと溜めて、泣いている桔梗の肩を抱いて寄り添い合い、再び雄一が眠る墓前を静かに見つめる。
その瞳は何か吹っ切れた様子に清々しく、決意を感じる真っ直ぐに輝いていた。
【やっと、本当の君が戻ってきてくれたね。僕が世界で一番大好きな君。愛おしい君。僕は嬉しいよ。これならもう、大丈夫】
色んな不安要素はまだまだたくさんあるかもしれない。
全てを拭い去ることはできないかもしれない。
それでも、怖くはない。
あなたが、きみがいるから。
どんな未来でも、ふたりならどこまでも生きていける。
あなたが、きみがいるから。
強く生きていこう、共に生きていこう。
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