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榎本奏江
2026-03-28 04:31:03
2618文字
Public
小豆さに
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【小豆さに】一瞬の永遠をここで誓おう
Twitterで公開した話を加筆修正しています。
連載小説2部に取り入れる予定の話のため、pixivではなくぷらいべったーでの掲載になります。
※小豆さに連載小説のネタバレになりますので閲覧注意です※
あのとき、きみの意識の中では【彼】から奪い去る形になってしまったが、今はきみの隣にわたしがいる。
許されることなら、きみとの永遠をここで誓いたい。
例え、それが泡沫のように一瞬であろうと。
「あずさん、ありがとう! 今日は素敵な所に連れてきてくれて!」
木々が幾重にも生い茂る中から、少し秋に近づいた陽の光が葉の隙間へ差し込み、明るさを演出していた。
目の前には日本とは思えない中世ヨーロッパを彷彿させる石造りの洋館が建っている。
中の施設を一通り見たのか、ふたりは最後の展示場である礼拝堂へと向かっていた。
ここはとあるステンドグラスを中心とした美術館であり、審神者
――
桔梗と、その恋仲である小豆長光は桔梗の誕生日と言うこともあって特別にふたりで出かけていた。
小豆が近辺のオルゴール美術館やテディベアミュージアムなど桔梗が好きな所を案内し、最後の場所としてこのステンドグラス美術館を選んだ。
休日でありながら不思議と人は全くおらず、入った礼拝堂も目を引くほどの美しい光景でありながなら、小豆と桔梗しかいなかった。
中は一面が白い壁に覆われており、真正面の主祭壇の後ろには聖書を象ったステンドグラスがはめ込まれていた。
外の光を受け、神秘的に淡く輝いており、主祭壇の左端には重厚感のある厳かな雰囲気を感じるパイプオルガンが静かに置かれている。
「綺麗
……
」
桔梗は思わず息を呑んだ。
一歩、また一歩と白い絨毯が敷かれた身廊を、辺りを見渡しながら歩く。
「凄い場所だね、あずさん。初めて見たよ」
桔梗が振り返り、礼拝堂の入口で立っている小豆に声を掛けた。
「ああ、ほんとうにきれいだね。ここは、けっこんしきをあげることもできるそうなのだぞ」
「そう
……
なんだ」
桔梗は一瞬、複雑な声色を滲ませ、再び
身廊
しんろう
であるバージンロードから最深部
――
主祭壇
主祭壇
しゅさいだん
の前まで歩いた。
「恭香」
「ん?」
桔梗が主祭壇の前まで辿り着くと、入口に立っていた小豆は、小豆だけが知っている桔梗の本当の名前を呼んだ。
桔梗が振り返ると、小豆は同じようにバージンロードをゆっくりとした足取りで歩き、桔梗の右側に立つと、互いに向かい合った。
「きみは、こういうのがあまりすきではないのはわかっているが
――
、」
小豆は桔梗の前に片膝をつき、ポケットの中からリングケースを両手で持って桔梗の前に差し出した。
リングケースを開けると、そこには小ぶりのダイヤモンドが一つ飾られたシルバーリングが置かれている。
「あ
……
ず、さん
……
?」
桔梗は一瞬、瞳を輝かせたが、すぐに困惑を滲ませた複雑な表情で指輪と小豆を交互に見た。
脳裏にはある記憶が掠り浮かぶ。
「わたしときみはかたなとひとであり、あってほんとうのかたちでけっこんすることはできない。しかし、わたしのきもちはこれからさき、なんねんたってもかわらない。これからも、きみとともにみらいをあゆむことをちかおう。
……
愛してる」
「どう
……
して? そう言うのはいいって
……
言ったのに
……
」
「どうしても、ことばとかたちにしてきみにつたえたかったのだ」
桔梗の目に一筋の涙が零れた。
今から七年前の今日、審神者になる前にも同じようなことを死別した婚約者にされていた。
だから、小豆は言葉の初めに「きみはこういうのがあまりすきではないが、」と付けていた。
違う〝彼〟からの二度目のプロポーズを今、桔梗はされたのだ。
人間でもない、付喪神と言う存在に。
異国溢れる場所の中で。
「今じゃ
……
なくても
……
いい、じゃん
……
」
「ああ、そうかもしれないね。でも、わたしはいましかないとおもった」
「ズルいよぉ
……
そういうの。いつから用意してたの?」
その涙は二筋、三筋、と溢れ出し、桔梗の頬を濡らした。
小豆は桔梗の流れる涙を受け止めようとはしない。
返事を待っているから。
「ずっとまえからよういしていたのだ。きみのために、このばしょも」
「本当にもう
……
どうして
……
なんでぇ
……
っ」
桔梗は何度も
頭
かぶり
を振った。
しかし、これは否定と言う意味ではなく、桔梗の中で思い浮かんでしまう苦しい記憶を払拭するためだった。
プロポーズされて、その一ヶ月後に不慮の事件に巻き込まれ、永遠の愛を誓ったけれど、生涯を共にすることができなかった【彼】との記憶。
もし、こんな風にプロポーズされても生涯を共にする確証なんてどこにもないのに、安易な気持ちで永遠の愛を誓わないでほしい、と言う思いは最初のうちは心のどこかであった。
「わたしのなかでちゃんとけじめをつけたかった。ひと とかたなではせいしきなこんいんはむすべない。だが、わたしたちのかんけいをいまだけでもゆるぎないものにしたかったのだ。じぶんかってだね、ごめん」
「謝らないでよ
……
謝ったらだめじゃない
……
」
しかし、今は違う。
例え自分が人であり、相手が刀剣男士で付喪神であろうと、審神者でいる間でしかその一瞬で永遠の愛を共にできないと分かっていても、その気持ちには応えたい、と桔梗はいつしか思えるようになっていた。
あなたがそう望むのであれば、私もそうでありたい。
例えこの先何年、限られた時間の中でも、その『愛』と言うものをふたりだけのものにしておきたい、と。
「このゆびわをつけてくれろうだろうか?」
「は
……
い」
「よかった。ありがとう、恭香」
小豆は涙を滲ませ立ち上がり、桔梗の左手の薬指に指輪を嵌めてあげた。
一度ハンカチで涙を拭いてあげてから全てを包み込むように優しく抱きしめる。
小豆は愛おしそうに桔梗の髪や背中を撫でながら何度も「ありがとう」と伝え、「愛している」と言いながら焦がれ色の髪に唇を落とした。
「いま、ここでちかわせてほしい。いいだろうか?」
「うん
……
」
桔梗は目を閉じ、踵を上げた。
閉じられた瞳を囲う睫毛には涙が浮いて光っており、どのステンドグラスよりも美しく輝いていると小豆は近づきながらそう感じさせた。
小豆は身体を屈ませ、目を瞑り受け入れてくれる桔梗の唇にそっと誓いのキスを繋がせる。
正面のステンドグラスに光が差し込み、ふたりを眩い光で優しく包み込んだ。
それはまるで、ふたりだけの新たな関係性の出発を祝福しているようであった。
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