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榎本奏江
2026-03-28 04:34:26
8215文字
Public
小豆さに
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【小豆さに】永遠に続く悲しみの向こう側へ
『一瞬の永遠をここで誓おう(
https://privatter.me/page/69c6daf7b80bb
)』の続きです。
※審神者の元婚約者(故人)のことが書かれています。
※小豆さに連載小説の核心的ネタバレが含まれていますので、連載を読んでいる方は要注意です。
1
2
3
4
【三日前】
『わたしがいなくなっても、こどもたちはだいじょうぶかな
……
? 主よ、かれらを、これからも
……
』
最期に「ごめん、恭香」と言葉を遺し小豆長光は桜の花弁と共に人間の姿を崩していく。
苦痛に満ちたその顔に悲しさと後悔を露にさせ、最期に彼女に触れたくて小豆は必至で手を伸ばした。
『いやっ
……
、ま、待って
……
待って! 駄目
……
っ!』
審神者
――
桔梗も彼の手を取ろうと同じく手を伸ばすが、掴んだ瞬間に桔梗の指から花弁として崩れ落ち、風に舞って彼女の身体を通り過ぎ、握り返すこともできずに消えていった。
遺されたのは彼を象っていた鉄の破片。
流れるように綺麗な刀身は真ん中で分離され、無残にも桔梗の前に流れて溜まった血の海の底に沈んでいる。
『いや、
……
いやだ、あず
……
き? あずさん? あずさんっ!? あず
……
さんっ、いやああああああああああああああああああああああっっ!!!!』
一度までとは言わず、二度も大切な存在を失ってしまった。
自分の采配ミスで。
あの時、撤退していれば間違いなく彼は【生きていた】のに。
消える前の自分を見る血を流した彼と、脳裏で蘇る血だまりの中、人形のように動かなくなった【彼】の姿が重なる。
フラッシュバックした脳内に最期の小豆の顔と【彼】の姿が交互に点滅し、桔梗の脳内を追い詰める。
【どうして僕を殺したの?】
【どうしてわたしをころしたのだ?】
『ちが
……
違う、違う、違うの
……
私は、私はっ
……
!』
重なる声。
頭の中で血まみれのふたりが桔梗を問い詰める。
どうして? なんで? なぜ? 人殺し。できそこない。何も変わってない。“ひと”のこころもしらないで。
【さいていだ】
小豆の地を響かせ唸るような低い声が桔梗の脳内を突き刺す。
――
私は、あずさんを、あずさんを、あずさんを、あずさんを、あずさんを、あずさんを
……
殺してしまったんだ。私のせいで、私が私が私が私が私が私が私が私が私がっ!!
◇◆◇
「あずさ
……
ん、あずさん、あずさん
……
あずさん、あずさんっ、あずさん!!」
まだ、夜明け前の日も昇らない頃。
小豆長光は必死に誰かが掛ける声に目を覚ました。
暗闇の中、慣れない視界で焦点を合わせると、クシャクシャに泣き崩れた主であり、たった一人の愛おしい伴侶である桔梗が小豆の身体を必死に揺さぶっていた。
「ん
……
? どうしたのだ
……
? こんな、あさはやく
……
に゛っ!?」
「あず
……
さ
……
んぅ
………
う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
小豆が起き上がる前に桔梗は小豆の腹の上に目掛けて崩れるように覆い被さり、普段の彼女からは想像できない程、小さな子供のように泣き出していた。
「えっ!? なに
……
! キョウちゃんどうしたの!?」
「あるじっ! どうしたのだ? だいじょうぶ!?」
謙信を挟んで奥で寝ていた燭台切も起きだし、桔梗の泣く声に謙信も驚いた様子で飛び起きた。
謙信は寝起きにも関わらず、心配した様子で桔梗の背中を擦って優しく声をかけてきてくれる。
「小豆くん、これはどういう状況だい?」
「わ、わたしにもさっぱり
……
」
鳩尾に入ったのか、小豆は若干苦しそうに燭台切の問いかけに頭を捻らせて答え、ゆっくり体を起こした。
自分の腰元で伏せたまま泣く桔梗の背中を優しく背中を撫でる。
「うっ
……
ひっく
……
ぅうう
……
ぅわああっ
……
!」
「あるじ、おちついて。ゆっくりしんこきゅうだ
……
」
「ぅっ
……
あずさん
……
いる、よかった。いきてる
……
」
――
いきている?
小豆は桔梗の一言が気になり、一瞬考え「わるいゆめでもみたのかな?」と、問いかけた。
すると桔梗は顔を上げることなく涙に濡れた声で言葉を手繰り寄せるようにたどたどしく話し始める。
「あずさん
……
が、折れる
……
ゆめ
……
助けられなかった
……
。私、わた、し
……
っ、雄一も居なくなって、あずさんも
……
いなくなったら
……
わたし、やだ、やだよぉ
……
あずさん
……
私
……
やだぁぁぁぁ
……
!」
桔梗は再び泣き出し、必死に泣いているせいか過呼吸にも近い浅い呼吸を繰り返している。
――
まずい。
小豆は自身の膝の上で泣く桔梗を抱き上げ、膝の上に乗せた。
そして、彼女の右耳に自身の左胸を当てる。
「あるじ、おちついて。だいじょうぶ。わたしはここにいる。ほら、きいてごらん、わたしのしんぞうのおとを。きこえるだろう?」
「うん
……
うん
……
っ」
小豆は桔梗を片腕でしっかりと抱き、空いている手で桔梗の右手を包み込むようにぎゅっと握った。
桔梗に事実確認をさせる。
【折れてない】ことを実感させ、不安要素を取り除かせた。
小豆の身体から伝わるゆっくりとした心臓の音、服から伝わる肌のぬくもり、香る砂糖と溶かしバターを混ぜたような甘い香り。太くてしっかりとした逞しい腕に包まれ、夢の中で通り抜けた掌は確かにしっかりと桔梗の手を握ってくれていた。
桔梗もその事実に少しずつ落ち着きを取り戻してきたので、小豆の寝巻用の浴衣をぎゅっと握っていた手の力はほどけ、浅い呼吸から一度、深く深呼吸をした。
「小豆くん
……
」
その一連の流れを燭台切と謙信は黙っていたが、落ち着いてきたところで小豆に声を掛けた。
小豆は
二振
ふたり
を見ると「ああ、わかっている」と答えた。
「すこし、せきをはずすのだぞ。あるじをへやにもどしてくる」
「でも、珍しいね
……
。キョウちゃんが小豆くんの前だけならともかく、僕たちがいる前でもこんなに情緒不安定になるなんて。
……
あのとき以来だよ」
燭台切は数年前にあった本丸の任務を思い出してきた。
その時、桔梗の運命は二部に分かれていた。
今、この世界は本来なら誤った未来の延長線上だ。
本当なら桔梗の未来は審神者にならず、婚約者である雄一も存命しており、二人は結婚しているはずだった。
それが、時間遡行軍の存在で歪められ、運命が変わってしまった。
本来なら正しい選択として桔梗の過去を戻すはずだったが、歪んだまま数年が経ってしまった未来ではそちらが正史に近いものとなっており、桔梗はあえて【雄一との未来】を諦め雄一が居ない世界である【現在】を選んだ経緯がある。
しかし、それは桔梗が覚悟していたものとは反し、頭では分かっていても彼の二度の死に受け入れられなかった桔梗は現実を受け入れられず、他の男士が居る前で酷く取り乱してしまった。
歴史修正主義者の術にもかかっていたせいもあって数週間眠ったままの状態になっており、燭台切はちょうどその任務の様子や桔梗の状態を目の前で見ていた。
もちろん、小豆もその過去へ出陣し、当時の桔梗が彼を殺すところを目の当たりにしている。
「じきがまずかったな
……
。よっかご、雄一くんのめいにちだ。ただでさえ、このじきのあるじはとてもふあんていになるのに、だれかを
――
わたしをうしなうゆめをみてしまったら、それだけでせいしんてきくつうはおおきいはすだ。とりあえず、あるじをへやまでおくっていってあるじがおちつくまでわたしがそばにいるのだぞ。このじょうたいではしごとのまともにできないはずだから、かれのめいにちまでしばらくやすませるつもりだ」
「うん、そうした方がいいね。仮に早い段階でキョウちゃんが落ち着きを取り戻したとしても僕は心配だよ」
「ぼくたちのことはきにしなくていいから、あつきはあるじのことたのんだのだぞ!」
「ありがとう、光忠、謙信。しばらくのあいだ、あるじのそばにいるのだぞ。ほかのことはたのんだよ」
「あぁ、任せてよ!」
「うんっ! あるじのことよろしくね?」
「ほかのみんながきてしまうまえに、わたしはあるじのへやにいってくる」
小豆は桔梗を抱きかかえたまま立ち上がり、桔梗の部屋に向かった。
向かっている途中、案の定、桔梗の泣き叫ぶ声に心配して駆けつけた男士に何振か遭遇したが、小豆は深くは話さず、理由を謙信と燭台切に聞くように伝えた。
部屋に入ると小豆は効力の弱い結界を張り、桔梗を布団の上に座らせ、小豆だけが知っている桔梗の本当の名前を呼んだ。
「恭香、だいじょうぶか?」
「あずさん、ごめんな
……
さい。私、あずさんの
……
」
「いや、いいのだ。こわかったね、つらかっただろう? だいじょうぶだから、あんしんして」
小豆は桔梗の左頬を包み、右頬にそっと口付けた。
「それに私、謙信君やみっちゃんにも
……
。もう、落ち着いたから大丈夫だよ? ふたりに謝りに行かなきゃ」
「そのしんぱいはいらないぞ、恭香。ふたりはちゃあんとわかっているから、きにするひつようはない。それに、いまはおちついていても、いつさいはつするかわからない。きょういちにちはゆっくりしよう。わたしがずっとそばにいるから、あんしんしてくれ」
「
……
うん」
桔梗は一瞬悩んだが、素直に従うことにした。
言葉で言っていても、やはり桔梗の中でも不安要素は取り除ききれてない部分があるのは確かだった。
頑張ろうと思えは全てを隠して仕事も任務もできる。
でも、本心では何もしたくなかった。
何もできなかった。
今までの自分ならそれを全て隠して抑え込んで任務も仕事もしていただろう。
しかし、今は「そうしなくてもよい」と言ってくれるヒトがいる。
自分の甘えを許してくれる存在が居る、場所がある。
桔梗は再び目尻に涙を浮かばせ、小豆の手の温もりを静かに受け入れた。
数十分経ち、落ち着いてきた桔梗は泣き疲れたのか、深い眠りに入った。
顔色は悪いが、寝ている表情は穏やかで小豆は安堵の息を漏らす。
小豆は桔梗の前髪をそっと払い、口付けた。額だけではなく、こめかみや頬、最後には唇。
どうか、わたしがそばにいるあいだはわるいゆめをみないように
――
、と。
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