望野おもち
14334文字
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DRAPLS/Prologue①

エイプリルフールですね。勢いで1卍ちょい。
材料ここから▶︎ https://privatter.me/page/6940f34bc9db9
エイプリルフールですからね。




 都会から少し外れた、田舎までいかない中途半端な街中のショッピングモール1階。雨粒を払った折り畳み傘が買い物に必要な両腕を邪魔して若干のストレスを与えてくる。ローファーの中には水が染み込んでおり、靴下はしっとり濡れて不快。どんよりした空は昼過ぎから調子を崩し、ザアザアと雨が降っていた。

 委員会の仕事を済ませてすぐ家に帰りたかったのだが、冷凍ほうれん草のストックが今朝無くなってしまった為、通学路を少し逸れて寄り道をしている。夜勤が無い日は弁当を用意してくれる、厳しくて豪快で、でも尊敬できる母の言葉は、自分の中の大事な教えとして日々活かされており、本日中に冷凍ほうれん草の確保はマストだった。

 母の教えその② 忙しい時は冷凍食品に頼っていい。時間をお金で買うのよ。健康? 1回2回の冷食で死にゃしないわよ。
 母の教えその⑦わか、コツは「赤、黄色、緑、茶色」を揃える。茶色弁当も悪くないけどね、なんとなく美味しそうに見えるから4色意識してみな。緑はほうれん草とかブロッコリーがオススメ。女の子なんだし野菜ちゃんと摂りな。

「(ついでになんかお惣菜でも買って帰ろっかな……)」

「──貴方は、希望ですか?」 
 
「え、」 

 そういえばやっぱり今日の牡羊座はダメダメで、学校でも散々な目にあった。小テストの凡ミス。苦手な数学の授業で当てられた。トイレに行けばトイレットペーパーが無くて、ポーチにティッシュは入れてたけど他の人が困るからと保健室へ取りに行った。やたら消しゴムを落とす。髪ゴムが1本切れた。逆剥けから血が出た。放課後の図書委員の仕事も、パソコンの調子が悪くて処理できず、貸し出しを1冊1冊手書きでメモしなければならなかった。後日システムに打ち込む残業付きだ。さらに、館内で転んだ利用者が本棚にぶつかって本を床にぶちまけた。幸い怪我はなかったが、本はバラバラ。順番に戻せるのは自分しかいなかった。結局学校を出たのは夕方の終わりごろになってしまい、あたりは薄暗い。小さな不運の積み重ねにプラスして靴下までびしょびしょ。

 とことんツイてないしょんぼりな自分に話しかける、綺麗なスーツを着た、ちょっと怪しい人。気味が悪くて逃げるように歩みを速めた。

「だ、大丈夫です……

 希望教きぼうきょう幸運希望論者こううんきぼうろんしゃ、呼び名は様々ある彼らは、自分が生まれる前からこうした宗教めいた活動をしているらしい。子供の頃は特に怖くて、通り過ぎる際は両親にしがみついていていた、歩行者に向かって冊子を差し出し、希望について問う。強く呼びかける人もいれば、ニコニコ微笑んで立ってるだけの人も。生まれる前に起こった「絶望テレビ」とその余波、現代日本のことごとくを破壊し尽くした天災。彼らはその中に見出した「希望」を信奉するらしい、とはネットで得た知識である。
 否定はしないし、彼らは彼らなりの幸せがあるのだろうが、関わろうとも思わない。それが心の支えなら「良くないもの」と断じるのはかわいそう。だけれど、それをこちらに強要されるのも困る。なので、ここでは無関心が正解である。申し訳ないがスルーだ。

「──アナタは、希望、ですか?」

 警察や未来機関みらいきかんも、彼らが有害では無いことから取り締まりはできないと静観の構えだ。暴動や問題を起こすなら鎮圧対象だが、絶望ぜつぼう残党ざんとうの特徴である「赤い瞳」を持たないのが決定打。もし赤い瞳を持つ者が現れでもしたら、問答無用で武力による制圧が行われる。

「大丈夫です……

 にしても今日は宗教勧誘が多い。ニコニコ、ニコニコと不気味に微笑む人があちこちに立っている。後をつけられてる様子はないが、行く先々でこちらを見る目があり、気味の悪さを超える何かに突き動かされて小走りになった。

「(早く帰ろ……)」

 愛用の蛍光マーカーのインクが掠れてきたのでついでに買いたかったがもうやめよう。なんだか嫌な予感がする。そういえば今日の星占いは──


「──アナタは」


「──キミは」


「──貴様は」



「──お前は」



『── オ マ エ は』



 ──今日最も悪い運勢なのは牡羊座のあなた。


 早く早く早く。食料品売り場に行って、いや、もういい。帰ろう。今日は本当に、何かが良くないんだ。ほうれん草なんて1日無くても死にはしない。

「(………………か、こまれてる)」

 目が笑ってない、口だけがニコニコといびつに歪んでいる。嫌悪感すら抱かせる顔、顔、顔。前も後ろも逃げ道のない恐怖に、背中がゾワゾワして気持ち悪い。雨に濡れて風邪をひいたのかもしれないが、多分そういうのではない、もっと本能的なもの。ショッピングモールの真ん中で、顔も名前も知らない誰か達に取り囲まれて、1歩、また1歩と距離を詰められる。折り畳み傘を握る手に力が入って骨組みがガチガチと音を立てた。

 ──買い物運が低下。出先でトラブルに巻き込まれそう。

  ──赤いものに気をつけて!

「(目が)」

 鈍い光をぬらぬらと孕む、赤。
 彼らは人間のフリをして、人間を騙す犯罪者。
 あの「絶望テレビ」のシンパ。

 絶望の残党。

『オマエ は キボウ ですか ?』


「ひッ………!?」

 ラッキーアイテムの蛍光マーカーが掠れたから? 買うの諦めたから? そもそも、今日の牡羊座は最低最悪だった? 

 ガクガクと足が竦む。膝に力が入らなくなってきた。知らない人に取り囲まれるだけでも普通に考えて超恐怖体験なのに、その全員の目が真っ赤。現代における犯罪者の代名詞──絶望の残党。右も左も、前も後ろも、全部赤。

 走って突っ切れるか? 大声を出して助けを求める? どちらも無理だ、さっきから脚が固まったように動かないし、怖さのあまり喉がキュッと締まって呼吸すら苦しい。人は身の危険を感じた時、身体が硬直するらしい。筋肉が全く言うことを聞かない。

 絶望の残党。

 彼らにとって天敵である、超高校級の希望と呼ばれる存在。
 かつて「絶望テレビ」では、全国から抽選で選ばれた超高校級の幸運が「希望」となって、絶望を討ち果たしたそうだ。何の変哲もないただの男子高校生は自身を「ちょっと前向きなのが取り柄」と言った。それ以外は普通で平均な、どこにでもいるような男の子らしい。誰にでもできそうで、けれどもそうあり続けることは実はかなり難しい「前向きさ」が希望となって、あの混沌の天災に光を照らし、国の殆どを復興させるに至った。彼ら無くして、今の日本は無い。だがこうして残党たちは人間のフリをして、人間を騙し、欺き、絶望を振りまく存在として人々を脅かす。

『オ マ エ は ?』


 絶望テレビで輝いた超高校級の高校生たちは、絶望の残党と戦う光──希望となった。今や「超高校級」とは即ち「希望」の象徴であり、次世代を担う期待を込められた、光り輝く称号なのである。
 そんな希望を排出する名門校は「絶望テレビ」以降OBを中心に復興され、今なお健在。少し変わったことと言えば、最前線での活躍の機会を増やし現場での経験を増やすこと、そしてより幅広く色とりどりの才能に光を当てることを目的とした制度が追加されたことだろう。

 「通信制つうしんせい」──要は、今いる高校に通いながら。あるいは、その環境で活躍しながら。名門校が認定する「超高校級」の冠を頂くこと。希望に満ちた才能の研究機関でもある名門校は生徒の自主性を重んじ、入学転校を任意としたのだ。年に数回、その活躍を称えさらなる成長に期待と願いを込めて、対面面談などにお呼ばれする程度。昨今コンプライアンス的にいろんなものが厳しくなっている。

「(殺される!)」

 希望を求め崇拝する彼らにとっては「象徴」であり、
 絶望を求め破壊する彼らにとっては「憎むべき敵」。

 できるものなら辞退したかったし、身の丈に合わない着心地の悪さが一生付きまとう「それ」は、今のこの状況をさらに危険にする要因にもなっていた。

 自分は──私は──超高校級の図書委員・綴目和歌子は絶望の残党に取り囲まれ──