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三崎
2026-03-08 21:35:25
56935文字
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【サンプル】この惑星とともに
ガタケット183 Raven's Market3にて頒布予定のチャティ×621♂新刊「この惑星とともに」のサンプルです。
A6 350P カバー付 2000円 全年齢向け
チャティと621♂が協力してルビコンのあれこれの解決に向けて頑張る本。
いろんなルートの要素ごちゃまぜ。広い心で読んでください。
準備号と被っている部分もありますが、既公開部分を一部加筆修正しています。
表紙イラストはひめりさん(@momo25himeri.bsky.social)、表紙デザインはうぐさん(@sijinomix0343.bsky.social)にご協力いただきました。
いつもありがとうございます!
1
2
3
4
5
6
5.ふたりの選択
「621、お前が選べ」
「
……
!」
二つの依頼について、いつものように淡々と説明をした主は、最後に621に選択を委ねた。つまりウォルターは、どちらの依頼を選んでも構わないと判断したということだ。
情勢は明らかにアーキバスが有利だ。わざわざ手を下さずとも、ベイラムは遠くないうちに破滅する。ミシガンを討ち、ベイラムを早期にルビコンから撤退させてしまっても、ヴェスパー二名を排除し、アーキバスの勢いを削ぐのでも、どちらも利がある話となる。
「こんな
……
こんな、依頼
……
」
621からすれば、いずれも縁がある者たちだ。G13と呼ばれている間、ミシガンは上官でもあったし、話し方は厳しくても、その奥には優しさが満ちていることを、621は知っている。V.Ⅷペイターは、依頼の窓口としてよく声を聞いていた青年だ。真面目な仕事ぶりと、どこか茶目っ気のある性格を思い出すと、こちらも気が進まない。
ミシガンを
――
レッドガンを掃討せよというアーキバスの依頼。きっとこちらの方が厳しい戦いになるだろう。しかも自分が請けなければ、ラスティがそれを果たすことになる。彼らの生死は問わないままに。逆に、ペイターとホーキンスを討てという解放戦線の依頼を請けなければ
……
解放戦線の重鎮が相手取るとはいえ、一人で二人を倒しきれるとは思えない。もし、フラットウェルがアーキバスに捕らえられるようなことがあれば
――
ただでは済まない。
いずれにせよ、相手を生かしたまま成し遂げるには厳しい戦いが待っている。しかも、選ばなかった方の相手か、依頼主の命は
……
。
「
……
少し、考えたい、です」
「わかった。あまり時間はない。今日中には決めろ」
「
……
はい」
辛い選択を強いていることは、ウォルターにもよくわかっている。猟犬はとぼとぼと部屋を出ていき、自室の椅子の上で、ぐったりと項垂れてしまった。
「駄目だ
……
選べ、ない」
621は渡された作戦内容を何度も確認しては頭を抱え、もう二時間ばかり悩み続けていた。
この惑星で過ごすうち、621には知り合いが増えた。彼らの考え方に触れ、感じたことだってたくさんある。
ミシガンの部下たちへの愛情も、フラットウェルの惑星へ抱く責任感も、621にとっては無視出来ない、失わせたくないものだ。まだ知らないだけで、ペイターにもホーキンスにも、大事にしている思いがあるに違いない。
自分が選べば、助けられるかも知れない。でも、自分が選ばなかった方は
――
間違いなく、誰かが死ぬ。それは嫌だ。
「
……
レイヴン、どちらも選ぶ、というのは」
「どちらも
……
。だけど、遂行、日時は
……
」
深度は違えど、場所は同じウォッチポイント・アルファ。作戦日時はほぼ同時刻。体が一つしかないのだから、片方しか選べない。だからこそ迷っているのだけれど
……
。
「でも、貴方は一人じゃない
……
。そうですよね?」
「
……
!」
エアの言おうとしていることはわかった。自分と共に戦ってきたパートナーが、信頼出来る相棒がいる。先日のイグアスの襲撃で荒れた区画も、少しずつ復旧しつつあると聞く。RaDの守りが手薄になるのは心配だが、それでも、これがきっと、自分が出来る最善の策だ。
621はチャティに連絡を入れた。頼みたいことがある、それだけの簡潔すぎるテキストメッセージ。応答はすぐにきた。
「ビジター、何があった」
「
……
チャティ、ありがとう。頼みが、ある。きみにしか
……
頼めない、ことだ」
621の話を、チャティは黙って聞いていた。舞い込んだ二つの依頼のこと。どちらも選べないなら、どちらも選べばいいとエアが言ってくれたこと。それを叶えるためには、どうしてもチャティの力が必要なこと。
「
……
エア、お前は
……
随分な無茶を言ってくれたな」
話を聞いたチャティは、助言をしたエアにチクリと文句を言った。言葉だけなら文句だが、その声色には恨みがましさは感じられない。自分を頼ってくれたことの喜びと、今までにないほどの大一番への昂りだけがある。それを感じ取り、エアと621に自然と笑みが浮かんだ。
「でも
……
チャティなら、出来るはずです。そうですよね? レイヴン」
「うん
……
わたしも、そう思う」
「全く
……
」
声は聞こえなくとも、621がエアとどんなやり取りをしているかは、チャティにも想像がついた。随分と信頼されたものだ。ならば、それに応えなければならない。
「うまくいくかはわからないが
……
全力を尽くそう」
「
……
ありがとう、チャティ。わたしの、わがままに
……
付き合って、くれて」
わがままにしては、優しすぎるわがままだ。誰も死なせないために、彼はいつだって無茶をする。そして、それを叶え続けている。そんな彼だから、わがままを言われたってかまわない、そう思えるのだ。
チャティとの通話を終えた621は、力強い足取りでウォルターの元へと向かった。
二つの依頼をどちらも請ける、そう答えた猟犬の真っ直ぐな瞳を見て、ウォルターははっと目を見開いた。
選んで、選んで、選び続けて、やっとのことで使命を果たす一歩手前まで来た。その中で、選べなかったものが数え切れないほどあった。それも仕方のないことだと諦めて、それでも、歩みを止めることだけはしなかった。けれど、無理を押してでも、何もかもを選び取っていたならば
――
違う運命が目の前にあったのかも知れない
……
。しかし、それも過ぎたこと。目の前のチャンスに手を伸ばし、零れ落ちないように掴み取るだけだ。
猟犬の突拍子のない選択を、ウォルターは否定しなかった。協力者と合意を取り、その実力が確かなことは、ウォルターも良く知っている。だとしたら、断る理由は何も無い。
ウォルターはその日のうちに、アーキバスと解放戦線それぞれに、希望通りの日時で依頼を請ける旨の返事を出した。
RaDでは621が乗る機体と全く同じ構成の機体が技術者たちの手によって夜通しかけて組み上げられ、そして
――
独立傭兵レイヴンがいずれにも色よい返事を出したと知った者が、ただ一人。V.Ⅳラスティだけが、その矛盾した状況に気付いていた。
独立傭兵レイヴンならば、フラットウェルに手を貸してくれるだろうと、そう思っていた。その間に自分がレッドガンを相手取り、隙を作り出す
――
そのつもりでいたのだが。
彼は、どちらかを裏切るつもりなのか。しかし、彼がそこまで狡猾な人間とはラスティには思えなかった。ラスティから見た彼の印象は、素直で純粋な、おとなしい青年だったから。
念のため、ラスティはフラットウェルに伝えた作戦地点の側に待機しておくことにした。何かあればすぐに動けるようにしておきたい。今の解放戦線において、フラットウェルを失う訳には、どうしてもいかないからだ。
決行は明後日。それぞれの思惑が重なり合う中、イグアスの行方だけは、依然として知れぬままだった。
多重ダムでの初めてのレッドガンとのミッションのことを、621は時々思い出す。
乱暴な物言いのミシガンに、やれやれと言った調子で応じ、しかしその腕前は確かな二人。G4ヴォルタと、G5イグアス。彼らの呼吸はぴったりあっていて、二人同時に相手取るような展開になってしまえば、分が悪いのは明らかにこちらの方だった。幸い、彼らは自分のことを舐めている。無名の、駆け出しの独立傭兵。金を積まれて簡単に寝返るような軽い相手だと。
解放戦線の重要拠点、そこを叩けば、大勢が苦しい思いをする。死者も出るかも知れない。直接的に手を下さなくとも、自分の成した仕事で失われた命が、今までいくつあっただろう? いや、そうやって振り返るのはおかしい。だってその時の自分は、まだルビコンでの仕事を始めたばかり。そう大きな仕事をした記憶なんてないはずなのに。
621には、たまにこうして妙な記憶や感情が頭の中に浮かび上がることがあった。それはルビコンで過ごす時間が長くなるにつれて増えている気がする。何かを思い出すようなことはなく、どこかで見聞きした風景や言葉がふっと過ぎるだけだったが、気にはなる。これも第四世代型強化人間特有の症状の一つなのか、もっと違う何かのせいか、621にはわからない。
ともかく、621は多重ダムでのミッションで、レッドガンを裏切る選択をした。金に目が眩んだからというより、より多くの命を生かしたいと思ったからだ。
幸いにして主は怒ったりしなかったし、ミシガンともうまく話をつけて、実戦演習のような形にして場を収めてしまった。
ラッキーパンチが当たっただけだ。ダムの一件のあと、イグアスはメッセージを送ってきて、ことあるごとに文句を言ってきた。確かに、好かれるようなことはしてこなかった自覚はある。嫌われていることもわかっていた。
けれど、イグアスに出会った時から621が抱いていたのは
――
。同じ第四世代型強化人間なのに、自分とはまるで違う在り方をしているイグアスへの、強い憧れだった。
感情や情動に乏しかった621に、ウォルターは様々な刺激を与えようとしてくれた。その気持ちはありがたいと思っても、どうにも心が動かないことばかり。何かを感じているつもりでも、それの大きさ強さもわからないまま、621はただ部屋の白い壁を眺めるだけの日々を送っていた。
自分と同じ第四世代の強化人間と協働すると聞かされて、彼も自分のような寂しい人間なのかと621は思っていた。同じ悩みを抱いているなら、わかりあえるかも知れない。そう思っていたのに、目の前に現れたのは、自分とは全く違う
――
621の感覚からしたら〝普通〟の人間と変わらないように生きている男だった。
わたしはこんなにも、何もないのに。イグアスはわたしと同じはずなのに、何もかも違う。彼こそ、そう
――
生きている。
羨ましかった。悔しかった。刺激を与えるという意味で言えば、イグアスと621を引き合わせたウォルターの試みは成功だったのだろう。
どうして、きみばかり〝普通〟に生きているんだ? わたしは、わたしには、何も無くなってしまったのに。
誰かを生かしたいという気持ちにも嘘は無かった。けれど、イグアスを背後から撃った理由のうちの、ほんの何割かは、イグアスに対する嫉妬が含まれていたことは否定出来ない。
イグアスに嫌われても仕方ないと思うのも、彼の仕出かしたことに純粋に怒れないのも、先に彼を撃ったのは自分だったという負い目があったからかも知れない。
だからこそ、彼の仲間たちを、これ以上失わせる訳にはいかない。特にG1ミシガンは
――
イグアスのことを息子のように気にかけている彼だけは、絶対に。
ミシガンもまた、ウォルターが自分を思ってくれるように、イグアスのことを思っている。イグアスにとってのミシガンはきっと、自分にとってのウォルターと同じだ。
ウォッチポイント・アルファの入口に、二機のACが降り立った。全く同じ構成の赤いAC。当然パイロットは違うが、ライセンスは偽造してあるし、同じ機体構成なら、外からは見分けがつかないはずだ。
「
……
ビジター、気を付けてな。おそらく、俺よりお前のほうがきつい戦いになる」
「ああ。そっちも
……
気を、つけて」
アーキバスが拠点としているのは、ウォッチポイント・アルファ深度2。621が先に深度1に陣取っているレッドガン部隊と会敵し、混乱に乗じてチャティが深度2へと向かう作戦だ。フラットウェルは先に深度2に潜入していると聞いている。どうやら、内部に手引する人間がいるらしい。
「ハンドラー、二人分のオペレートは苦労するだろうが
……
頼む」
「気にするな。頼んだぞ、チャティ」
場所は近いから、オペレート自体に問題はない。それぞれの実力に不足はなく、ウォルターがすべきことは、二人の作戦に横槍が入らないようにすること、そして、この場に二人の独立傭兵レイヴンがいると悟られないように妨害することくらいだ。
「お前が先に作戦を始めるとはいえ、俺の方が早く決着がつくはずだ。終わったらすぐに援護に向かう」
「ああ。
……
もし、わたしが
――
」
「ビジター、その先を言う必要はない。始めよう」
「
……
ああ」
もし負けることがあれば、後のことは頼みたい。その言葉を言わせぬまま、チャティは安全装置を外し、深度1の入口へと降下していった。
621は深呼吸をした。そうだ。そんなことを言う必要なんてない。自分も、チャティも、負けたりしない。戦う前から負けることを考えるAC乗りなんていないのだから。
621もチャティに続いて降下を開始した。いずれの作戦も、長引けば長引いただけ不利になる。ウォルターのナビゲートに従って、二人は作戦開始地点に到着した。
「
……
二人とも、やり遂げて戻れ。それ以上に俺から言うべきことはない」
選ぶことは、どちらかを諦めることでもある。そうしてきた自分とは違い、彼らはどちらも掴み取ろうとしている。その眩しさを前に、ウォルターが言えることは何もない。
「ミッション開始だ」
ウォルターの号令と共に、まずは621が崩壊したネペンテスの足元へ向けて飛び出した。出来る限り、派手な立ち回りをしなければならない。
「敵性反応、降下部隊、来ます!」
「!」
「突入しろ! 役立たずども!」
上空からの襲撃に、アラートがけたたましく鳴り響く。それを躱しながら、621は地上に降り立ったMTへと銃口を向けた。相手にするのはミシガンというよりレッドガンそのもの。弾切れを起こしては圧倒的に不利になる。撹乱のためのグレネードと、威力よりも弾数を重視してライフルを装備してきた。
「AC単機だと
……
? アーキバスめ、レッドガンを舐めやがって」
「舐めているのは貴様だ、ケネベック! そいつは壁越えにワーム殺し
……
。何よりG13を付けてまだ生き延びている強運野郎だ。ライガーテイルの準備が整うまでは単独でかかるな!脱出レバーはいつでも引ける状態にしておけ!」
自分を倒すためではなく、彼らが死なないための指示。こういう人なのだ。だから、わたしだって死なせない。621が放ったライフルの弾丸は、MTの腕や脚を貫き、無力化していく。
「第二波、来ます!」
地上のMTは粗方片付けた。上空から降下してくる無数の無人機、MT、621はそのうちの無人機の一機に向けてグレネードを放った。命中した榴弾が炸裂し、周囲に熱と爆風を撒き散らす。今だ。
「
……
ビジター、エア、ウォルター
……
。頼んだぞ
……
!」
戦闘の混乱に乗じて、チャティが深度2へと滑り込んで行く。ここからが本番だ。長丁場になることはわかっている。それでも、目の前の相手を一つ一つ倒していくしかない。
621は爆風に巻き込まれずに済んだ何機かに向け、ブースターをふかした。
つづく
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