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三崎
2026-03-08 21:35:25
56935文字
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【サンプル】この惑星とともに
ガタケット183 Raven's Market3にて頒布予定のチャティ×621♂新刊「この惑星とともに」のサンプルです。
A6 350P カバー付 2000円 全年齢向け
チャティと621♂が協力してルビコンのあれこれの解決に向けて頑張る本。
いろんなルートの要素ごちゃまぜ。広い心で読んでください。
準備号と被っている部分もありますが、既公開部分を一部加筆修正しています。
表紙イラストはひめりさん(@momo25himeri.bsky.social)、表紙デザインはうぐさん(@sijinomix0343.bsky.social)にご協力いただきました。
いつもありがとうございます!
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6
1.イグアスの選択 ①
中央氷原、アイスワームを臨む位置に建てられた監視施設。パイロット用のロッカールームに足早に駆け込んだイグアスは、怒りのままに自身のロッカーに拳を叩き込んだ。
「
――
クソッ‼」
ガンッ、と酷い音を立てて、ロッカーの扉が拳の形に凹む。止まない頭痛と耳鳴り、そして苛立ち。それは、何かにぶつけなければ頭が茹だってしまうほど強烈なものだった。
何もかもが気に入らない。周りの期待に違わぬ活躍を見せたG13、V.Ⅳ。いけ好かない態度の木っ端役人V.Ⅱ。そして
――
AIの癖に人のように振る舞う、RaDの参謀だという自動人形も。
噂だけは聞いていた。G13、独立傭兵レイヴン
――
野良犬が、RaDの自動人形を僚機として、舞い込む依頼を尽く成功させているという話は。少しばかり賢い子機のようなものだとばかり思っていたのに、そうではなかった。
アイスワーム討伐に駆り出された不幸な命知らずの中で自分が一番の活躍をして、ミシガンの鼻を明かしてやろうと思っていた。それなのに、蓋を開けてみれば
――
。
「ああ、クソッ、クソッ、クソッ‼」
何度も拳を叩き込まれたせいで、どんどんロッカーはひしゃげていく。拳からは血が出て、歪んだロッカーの扉に赤が散る。それでも、痛みなんて気にならないくらい、頭が熱く、痛い。
誰よりも先にベイルアウトする羽目になり、指を咥えながら残された連中の活躍を見つめるしか出来なかった。アーキバスの木っ端役人より先に離脱して、大した活躍も出来ないままに。
そして何より腹が立ったのは、あの自動人形の態度だった。
アイスワームの胴体に吹き飛ばされ、野良犬は少なくないダメージを負った。いい気味だ。腹の底から笑いがこみ上げ、イグアスは言った。
「おい野良犬、しんどそうだなあ
……
へっ、笑えるぜ
……
!」
そう吐き捨てたイグアスに、あの自動人形はこう言ったのだ。
「
……
俺は、笑えない。ビジター、これ以上ダメージを受けるのはまずい。引いて体勢を立て直してくれ」
ただ野良犬をフォローするだけなら、ここまで腹は立たなかったはずだ。それなのに、よりにもよってあいつはイグアスにNOを突きつけたのだ。生きてさえいない、自動人形の癖に。
そんなやつが最後の最後まで野良犬の側に立ち、アイスワームとの戦いをフォローし続けたのも気に入らなかった。木っ端役人の褒めてるんだか皮肉なんだかわからない言葉にも毅然と言い返していたことも、思い返せば小生意気なことだと思う。
「死を恐れないのは良いことです」
「
……
それに近いものは持ち合わせているつもりだ」
そう答えていた癖に、死を恐れる臆病な立ち回りという訳でもなく、後方支援の弾幕係の割には時に大胆に戦い、野良犬と共に最後まで戦場に立っていたのはあいつだけで
――
。
「ぐうっ
……
頭が
……
ッ!」
考えれば考えるほどに頭痛は増して、耳鳴りが大きくなっていく。周囲の物音に気を配る、そんな余裕もなくなるくらいに。
「
……
ス、イグアス、だい、じょうぶ、か」
「
――
!」
肩を叩かれ、うずくまって頭を抱えていたイグアスは、驚いて思わず後ずさった。目の前には、赤い髪の、グレーのパイロットスーツを身に着けた男の姿。作戦中は一言も喋らず、ブリーフィングでも黙ったままだったそいつが、拙い喋り方で心配そうにイグアスを見つめている。
――
こんな、こんなやつが、あの野良犬だなんて。
「
……
うるせえ! 俺に近づくんじゃねえ
……
ッ!」
「
……
」
野良犬は困ったような顔になり、隣に立つ男の方を見た。毛先を紫に染めた金髪の男。いや、そいつを〝男〟と認めても良いのかは疑問だった。この中身が人間ではないことを、イグアスは知っている。
「ビジター、救護班を呼ぼう。酷い顔色だ。コーラルに当てられたのかもしれない」
「ああ
……
」
「うるせえ
……
誰が、てめえらの
……
世話になんか
……
!」
イグアスの文句など聞こえないかのように、そいつは淡々とロッカールームに備え付けられた通信機で救護班を呼んだ。その間も野良犬は黙ってイグアスの側にいた。
こいつを今すぐ突き飛ばして、殴りつけてやりたい。そう思うのをなんとか踏みとどまる。
ガリア多重ダムで俺とヴォルタを虚仮にして、グリッド086でも俺の仕事の邪魔をした。今だって、腹の底では何を考えているのか知れない。だからこそ
――
こいつを殺すなら、二人きり、ACに乗ってでなければならない。
だが、その前にやらなければならないことがある。野良犬の大事なお友達をめちゃくちゃに壊して、絶望させてやろう。俺がヴォルタを失ったように、お前も大切なパートナーを失えばいい。俺と同じになったなら、きっと、とびきりの殺し合いが出来るに違いない。
駆けつけた救護班に運ばれながら、イグアスは思う。こんな辺境惑星で、無様ばかりを晒し、それこそ犬死になんてしてたまるか、と。
頭痛も耳鳴りも、まだ止まない。それを怒りと憎しみで覆い隠しながら目を閉じる。
イグアスの脳裏にはただ一つ、ルビコンの淀んだ空を飛ぶ、鮮やかな赤いACだけがあった。
アイスワーム討伐から一ヶ月。ベイラムとアーキバスの休戦協定期間も終わり、ルビコンの情勢は再び緊迫感に満ち始めた。両企業が氷原の先の探索を進め、大深度地下施設〝ウォッチポイント・アルファ〟の探査を開始した。そしてその頃、621は
……
。
「やあ、ビジターにウォルター。元気にしてたかい?」
「カーラ、こんにちは」
「
……
そちらも元気そうだな、カーラ」
人型の体に入ったチャティに連れられカーラの作業場に通された二人は、勧められたソファに腰を下ろした。インスタントのフィーカを渡されて一息つくと、カーラはやれやれとため息を吐く。
「ったく
……
仕方ないとはいえ、せっかく直したレールキャノンはオシャカになっちまった。アーキバスからは雀の涙みたいな弁償金が振り込まれたけどね、参ったもんだよ」
曰く、V.Ⅳラスティの最大出力を超えた狙撃により、砲身から電気系統に至るまで、構成する殆どの部品が破損・融解・断線し、一から組み上げたほうが早いレベルで壊れてしまったのだという。修理するにも再作製するにも、支払われた弁償金ではとても足りない。
「可愛い我が子が壊れちまうのは、いつ見ても心が痛むよ」
「
……
しかし、おかげでアイスワームを撃破出来た。この後のことを考えなければ」
「わかってるさ。そのためにあんたたちを呼んだんだからね」
カーラはそう言ってニッと笑った。ならず者やはみ出し者で構成されているドーザー集団とはいえ、ルビコン随一の技術者集団の名は伊達ではない。堅牢なセキュリティに守られているおかげで、RaDの拠点にいる限り、誰かに会話を傍受される心配もない。
「あの奥には、きっと
……
コーラルがある」
「ああ。だが、探索は容易なことではない」
ウォッチポイント・アルファには、惑星封鎖機構の防衛兵器が数多く残されているという。そんな場所に、後ろ盾もなく単身で潜り込むのは危険だ。
「
……
ベイラムが先んじて突入したと聞いたが」
「ああ。しかし焦りすぎだ。上手くいくとは思えん」
「だろうね。中の構造もまだ把握しきれてないはずだ」
調査用ドローンでの事前探査もそこそこに、かなりの戦力を投入したと聞いている。物量で制圧するベイラムらしいと言えばベイラムらしい作戦だが、当然、それなりの犠牲を伴うことになる。
「
……
アーキバスは」
「まだ目立った動きはない。ベイラムを泳がせつつ、情報を集めるつもりだろう」
「こすっからい連中だよ、全く
……
」
惑星封鎖機構の拠点から多数の兵器を鹵獲したアーキバスが有利なのは間違いない。だからといって軽率に動こうとしないことには、何らかの意図がある。だが、向こうが動くのをただ待っている訳にもいかない。
「で、あんたたちはどうするつもりだい?」
「そのこすっからい連中を利用させてもらう。アーキバスから先行調査の打診があった」
「後方支援と報酬をもらいつつ、最前線の情報もいただくって訳か」
「連中、相変わらず独立傭兵を露払いに使うつもりらしいからな。願ったりだ」
「
……
」
621は二人の話を黙って聞いていた。また、コーラルを巡る争いが始まる。何かが壊れ、誰かが傷つき、たくさんの血が流れる、そんな争いが。
「
……
ビジター、大丈夫か」
「あ、ああ
……
」
チャティが心配そうに声をかけてくれ、621は小さく頷いた。仕事だから、仕方がない。ただ、人が死ぬのは、どうしても気分が重くなる。ルビコンに来てから数え切れない程の命が消えていくのを見てきた。自分のせいで奪ったものもあれば、自分ではどうにも出来ないままに失われたものもある。はじめはなんとも思わなかった。ウォルターに言われるままに狙い、引鉄を引いた。だが、死に際の断末魔を聞くにつれ、微かな忌避感が大きくなり、狙いを外し、無力化するように立ち回るようになった。もちろん、そんな余裕もなく殺さざるを得なかった時もある。そういう時は、いつだって嫌な気持ちになった。殺すことで、いつか一人ぼっちになってしまうような気がして
――
。
「
――
1、621、聞いているか」
「あ
……
す、み、ません」
「
……
三日後、ウォッチポイント・アルファの探査に向かってもらう。いいな」
「は、はい
……
わかり、ました」
はっとして謝る621に、ウォルターは特に咎めることもなく、先程まで話していた内容を繰り返した。複雑な話になると思考が追いついて来なくなるのは621にはよくあることだ。ウォルターも特に不審には思わなかったようで、621の返事に頷くと、隣のチャティを見た。621の僚機として頻繁に出撃してくれる彼は、今にも自分も同行しようと言い出しそうな顔をしている。
「チャティ。悪いが、今回の探査依頼には僚機は付けるなとのお達しだ。621単機で行ってもらうことになる」
「
……
承知した。危険なミッションになるだろうが
……
ビジター、気を付けてな」
「ああ
……
」
チャティは不満げだが、それ以上に心配そうな表情をしている。アイスワームのおかげで妙な均衡状態が続いていたルビコンだったが、その反動からか、企業同士の争いは表面上でも、水面下でも激化している。各企業、中央平原突破の代償は大きかったはずだが、それを押してでも、コーラルの探査を進めようと躍起になっていた。
アイスワーム撃破の功労者と呼ばれようと、621もまだ本調子とは言い難い。621自身は問題無かったが、乗っていたACは脚パーツが中破、未だに修理中という状況だった。企業所属なら自社パーツはいくらでも工面出来るが、独立傭兵はそうはいかない。チャティが設計したRaDの特別製の四脚は、修理にもそれなりの技術と物資がいる。だが、RaDはRaDで物資不足が続き、思うように修理は進んでいない。三日後の作戦にはとても間に合いそうになかった。以前使っていたベイラムの四脚を使うしかない。
万全でない状況で企業同士がしのぎを削る最前線に単身で乗り込むのはあまりに危険だ。チャティが621の身を案じるのも当然のこと
――
なのだが。
「チャティ、きみも
……
気を、付けて」
何を思ったのか、621は待機予定のチャティにそう言った。心配性なだけか、それとも何か考えがあるのか。いずれにせよ、自分自身のことを優先して欲しかった。チャティは621を安心させようと、穏やかに返事をした。
「
……
ここは安全だ。心配するな。RaDは企業間の争いにはほとんど関与していない」
もちろん表向きは、の話だ。偵察に来た星外企業のネズミを何匹か
――
いや、何十匹も始末している。だが、これを621に話す必要もない。幸い、621はそんな含みにも気付かず、瞼を伏せた。
「でも
……
みんな、怖い
……
感じが、する。何が、起きる、か
……
わからない」
言葉は拙くとも、言いたいことはチャティにもわかった。誰も彼もが気を張って殺気立っている。ACを降りれば無垢な少年のようなところのある621には、それが〝怖い〟と感じられたのだろう。
「
……
そう、かも知れないな。わかった。警戒しておく」
「ん
……
」
グリッド086にもそれなりの防衛設備はある。実力はともかく、警備にあたるAC乗りも何人かいるから、余程のことがなければ問題はないはずだ。チャティの返事に、621も少しほっとした様子で頷いた。
その後、ウォルターはカーラと二人きりで話がしたいらしく、621とチャティはカーラの作業場を出た。いつもと変わらないグリッド086の風景。しかし、外では不穏な方向に状況が動き始めている。
「
……
チャティ」
「どうした」
「
……
次の、任務から、戻ったら
……
話したい、ことが、ある」
「今は話せないのか」
「ん
……
ちょっと、準備が、いるから
……
」
621の珍しい言い様に少し不思議に思いながら、チャティは頷いた。準備をしてまで話したいというなら、余程のことに違いない。そう思って。
コーラルを巡る争いが佳境に差し掛かっている今、621にはどうしても話さなければ
――
いや、紹介しなければならないひとがいた。
コーラルを手に入れた先、ウォルターが何をどうしたいのか、それはわからない。でも、金だけが目的でないことは621もなんとなく気付いていた。だとしたら、コーラルそのものである彼女とともに、これからのことを考えていかなければ。
――
誰も死なずに、出来れば傷つかずに済むために。
そのためにも、まずはチャティに、それからウォルターに、彼女のことを伝えたい。
しかし、621の感じた〝怖さ〟は、思いも寄らない形でRaDを襲おうとしていた。
ハンドラー・ウォルターと621がRaDを訪れていた頃、G5イグアスは古い連絡先へと通信リクエストを送信した。その相手は
――
。
「久しぶりじゃないか、イグアス坊や。連絡してくれて嬉しいよ。して、用件は?」
きっかり三コールで応答した男は、挨拶もそこそこにイグアスに尋ねた。自分に対する用件なんて、尋ねるまでもなく決まっている。それをわかっていて、男はイグアスに問うたのだ。
「
……
殺して欲しい奴がいる」
イグアスは今にも噛みつきそうな野良犬の唸りのような声で答えた。それを聞いた男
――
コールドコールは、口元をニタリと歪め、実に楽しげに顎髭を撫でながら口を開く。
「なるほど、なるほど
……
わざわざ私に依頼するということは、坊やでは敵わない相手ということだな」
「
……
うるせえ。報酬はいつもの倍だ。詳細は後で送っておく」
「クックック
……
いいとも、いいとも。他ならぬ坊やの頼みだ。このコールドコールがひと肌脱いでやるとしよう」
「
……
」
イグアスは男の軽口には答えなかった。無言で通話を終了したイグアスは、通信端末を乱暴に机の上に置くと、フッと吐き捨てるように笑った。
相変わらず気味の悪い男だ。依頼しておいてなんだが、いくらコールドコールであっても、あの野良犬には敵わないだろう。だが、それでいい。自分の代わりに、誰かがあの地中奥深くにいるのが重要なのだ。野良犬とそのお友達が離れ離れでいるうちに、自分が自由でなければならない。
「野良犬
……
お前が傷つくところを見るのが、今から楽しみで仕方ねえぜ
……
!」
ウォッチポイント・アルファの探査が始まってから、イグアスの不調は日に日に増している。止まぬ頭痛と耳鳴り、それを怒りで誤魔化す日々。
しかし、それも近く終わるはずだ。あの、いけ好かないAI
――
チャティ・スティックとか言ったか
――
を壊してやれば、少しは溜飲が下がるだろう。そうしたら、久しぶりにゆっくりと眠れるかも知れない
――
。
コールドコールに作戦データを送信し、イグアスは自室の古ぼけたベッドに体を横たえた。同室だった同僚はもういない。主を失ったベッドが、寂しげにそこにあるだけだ。
(おい、イグアス。お前、本当にそれで良いのかよ)
「うるせえ
……
もう、どうだっていい。てめえこそ、死んでまで俺の心配なんか
……
」
してんじゃねえ。その言葉はどうにも口に出なかった。これもヤブ医者の杜撰な手術のせいで見る幻覚や幻聴なのか。どちらでも構わない。ただ自分を心配する同僚の姿と声が、あまりにも懐かしくて、苦しかった。
忘れもしない、あのガリア多重ダムでの遠足の後のことだ。二人揃って野良犬にしてやられ、担ぎ込まれた医務室。大した怪我は無かったが、見舞いに来たミシガンからは重いゲンコツの一撃を落とされ、ついでにイグアスには壁越えの作戦から外すことを通告された。
「てめえは口が軽すぎンだよ、馬鹿」
「うるせえ!
……
でもよォ、お前一人で大丈夫かよ」
「さあな。まあ、俺たち、悪運だけは強いだろ。なんとかなるさ」
「
……
」
確かに、イグアスとヴォルタは一緒に何度も死線をくぐり抜けてきた。しかし、それは二人でいたからで
――
。言い知れない不安を飲み込んだまま、イグアスは壁越えの作戦に出撃するヴォルタを見送るしか無かった。そして
――
。
明らかに失敗だとわかる作戦。イグアスはヴォルタの最期の言葉を聞きながら、馬鹿野郎、と絞り出すように言うのが精一杯だった。
それからどう過ごしていたのかは記憶にない。普段通りに訓練をこなしていた気もするし、部屋でぼうっと天井を見上げていただけのような気もした。
変化があったのは、ベイラムではなくアーキバスが壁を落として数日後、あの野良犬が回収した情報ログとドッグタグが、巡り巡ってイグアスの元に戻ってきてからだ。
ハンドラー・ウォルター経由でミシガンが入手したのだという遺品を渡されたイグアスは、血まみれのドッグタグを握りしめ、もう一度、馬鹿野郎、と呟いた。自室に戻ってログを再生して、やっとのことで視界が歪んだ。ぼたりと涙が落ちてからようやく、相棒を失ったことがすとんと腹の奥に落ちてきて、ヴォルタの言葉がじわりと頭の中に染みてくる。
長い付き合いだから、その言葉がどれほど相棒を気遣ってのものか、痛いほど理解できた。
――
ミシガンの言うことは聞いとけ。ヴォルタの遺品を渡してくれた時、ミシガンがどんな顔をしていたか、イグアスはよく思い出せなかった。だが、悪友かつ相棒として過ごしてきた自分にこれを渡してくれたということは、ヴォルタの言う通り、ミシガンは自分を切り捨てない、信頼に足る男だということだろう。
そう、頭ではわかっていた。わかっていたはずなのに。
「
……
クソッ、頭が、痛え
……
ッ!」
止まぬ頭痛と耳鳴りは、果たして誰の、何のせいなのか。誤魔化すように薬を煽り、毛布を被って目を閉じる。アイスワームを撃破してから、睡眠薬と鎮痛剤の量は増える一方だった。薬はすぐに効いてきた。横になっているのに頭がぐわんと揺れ、意識が遠のいていく。
机の上の通信端末に一つの暗号メッセージが届いていることに気付くのは、翌朝、イグアスが目覚めてからのことだった。
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