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三崎
2026-03-08 21:35:25
56935文字
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【サンプル】この惑星とともに
ガタケット183 Raven's Market3にて頒布予定のチャティ×621♂新刊「この惑星とともに」のサンプルです。
A6 350P カバー付 2000円 全年齢向け
チャティと621♂が協力してルビコンのあれこれの解決に向けて頑張る本。
いろんなルートの要素ごちゃまぜ。広い心で読んでください。
準備号と被っている部分もありますが、既公開部分を一部加筆修正しています。
表紙イラストはひめりさん(@momo25himeri.bsky.social)、表紙デザインはうぐさん(@sijinomix0343.bsky.social)にご協力いただきました。
いつもありがとうございます!
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3.イグアスの選択 ②
「
……
」
自室への謹慎を命じられたイグアスは、一人膝を抱えたまま、誰もいない向かい側のベッドを虚ろな目で見つめ続けていた。
ずきずきと頬が痛む。自分は負けた。レッドに連れ戻され、作戦室で待っていたミシガンはイグアスの頬を思い切り殴りつけると、しばらく頭を冷やせとだけ言った。自室にはレッドが同行してくれ、外から鍵がかけられた。食事は誰かしらが運んでくれるという。
こんな情けない男でも、レッドは先輩と呼んでくれる。G5の称号は剥奪されて、レッドが先輩になるかも知れない。それでもいい。その方が良いかも知れない。そうなったなら、もうここにはいられない。その時は
――
。
ちか、ちか。イグアスに支給された通信端末に通知が届き、ディスプレイに明かりが灯った。表示された名前はコールドコール。イグアスは通信端末を手に取ると、通信リクエストの許可ボタンをタップした。
「
……
やったのか、あいつを」
その声は少しだけ震えていた。落胆、喜び、ほんの少しの後悔。それが混じりあった複雑な心境でイグアスは依頼の成否を尋ねた。いや、本当は尋ねる必要なんてない。コールドコールには野良犬を殺せと依頼した。コールドコールからの連絡があったということは、それが叶ったということ。野良犬が負けるとは思わなかったが、それならそれでいい。
しかし、電話口のコールドコールは、イグアスが想像もしなかった言葉を口にした。
「
……
イグアス坊や。すまないな、しくじってしまったよ」
「
……
は?」
しくじったのなら、どうして俺に連絡出来る? AC同士の戦いで、負けた側は高い確率で死ぬ。ましてやコールドコールは単騎でウォッチポイント・アルファに入ったのだ。負けたとしても誰かの助けを得られる可能性はない。なのに、どうして。
混乱したままのイグアスにコールドコールは続けた。まるで、孫に語りかける老爺のように。
「
……
坊や、悪いことは言わない。あれはとんだ大物か、もしくは大馬鹿者だ。儂も坊やも、とても敵う相手じゃない。手を引くか
……
いっそ、友達にでもなった方がいい」
「なっ
……
! おい、てめえ、何を
――
」
「あれは純粋すぎる。悪意もなにもない。ただ、目の前の誰かを助けようとしているだけだ。殺しに来たのが儂でなくて、坊やであっても変わらなかったろう」
「
……
」
コールドコールの言うことを、イグアスの頭ではうまく処理しきれなかった。
野良犬が大馬鹿者なのはまあ理解出来る。しかし、友達になれだと? ふざけるな。悪意は
……
ない、のかも知れない。だが、そんなことはどうだっていい。悪意があろうがなかろうが、あいつを見てると腹が立って仕方がないのだ。だって、あいつは
――
。
「坊や、素直になった方がいい。坊やが思う以上に、坊やはたくさんの人に思われている」
レッド、ミシガン、そしてヴォルタ。積極的に話しかけてはこなくても、五花海もナイルも、それぞれがイグアスを気にかけてくれているのはわかっている。あの野良犬だって、協働した時はイグアスのことを気遣ってくれていた。頭ではそう認識できている。それでも。
「んだよ、それ
……
だったら、なんだってんだよ
……
ッ!」
「全ては坊や次第ということさ。さ、儂はそろそろ休ませてもらう。機体は大破してしまったし、しばらく殺しも休業だ。じゃあな」
「
……
」
イグアスが何かを言い返す暇もなく、コールドコールは言いたいだけ言って通話を切った。ディスプレイに映った通話終了の文字が消えてしまっても、イグアスは真っ暗な画面を見つめ続けた。
自分次第。その通りだ。俺がそうしたくてそうしてきた。気まぐれに土着のドーザーどもの依頼を請けたのだってそうだ。野良犬の泣き顔が見たかったのだって、いけ好かない自動人形を壊そうとしたのだって。けれど、どれもうまくいかなかった。何もかも、自分の思い通りになんてならない。どうしてだ。悔しい。ムカつく。けれど、それでも
――
。落ちぶれたって、しくじったって、これは自分が選んだことだ。自分ではどうにもならないところで何かを失うよりは、ずっと良かった。
「ヴォルタ
……
俺は
……
」
あの時、命令違反をしてでも壁越えについていったら、ヴォルタを助けられていただろうか。半端に誰かに従うよりも、自分の意思で選んでいたら。
自分はお世辞にも頭の出来は良くない。それは手術がどうのという問題ではなく、元々そうだった。素直になれ、コールドコールのその言葉に従うのならば、今、自分がしたいことは。
「!」
その時、通信端末のディスプレイの光がイグアスの顔を照らした。差出人不明のメッセージ。暗号化されているのか、通知には件名も本文も表示されていない。
「
……
」
イグアスはしばらくその通知を睨みつけ、そして。
「
……
あいつと友達になんて、なれるかよ」
その小さな呟きを聞いた者は誰もいない。
数日後、修理を終えたACヘッドブリンガーと共に、イグアスはレッドガンの宿舎から姿を消した。
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