ふみ
2026-02-23 16:15:27
6256文字
Public プロット
 

✈️👨‍✈️✕🎸👨‍🎤 別の話(思いついたのでメモ)

・前世の記憶なし(夢には出るかもしれないけど、あくまで現代AU)
・ノン20代後半くらい設定(25~27,8)
・殿下30代半ば前後くらい設定(33~36)

今はどちらも具体的な描写はないんですが、もし何かしら発生することになった時点で仔細記載します。

あと文まとめてないので粗いです



偶然は、言うことをきかない。

会いたいと思うほど、会えないものだ。そして、人間の脳は賢いふりをして、忘れる方向へ舵を切る。
「あれは偶然が続いただけだった」
保険をかける。
「運命が重なるならまたどこかで会えるだろう」
逃げ道を残す。運命なんて信じたこともないのに。
しかし実のところ、運命はロマンチックじゃない。
単に世界が狭いだけだ。

ある朝、フライトの合間に登場ゲートを歩いていると、人だかりがある。
こんな早朝に?
大物でも来ているのかと、ファイノンは一瞬で仕事モードに入る。
周囲の視線、溜まった人だかりで塞がれた動線、転倒の危険、適切な出口を確認しながら、合間から覗く。
彼だった。
はっと思い出す。
——連絡先。
だがまずは群衆を自然に捌く。こういう時、制服は盾となる。
「どこに行くの?」
小声でそっと聞く。
「3番」
「了解」
低い声が後ろから落ちる。
「助かった」
ファイノンは振り向かない。男のわずかに前を歩きながら、微笑む。
「困ってそうだったから」
「囲まれることには困らないんだが。」言い淀む。「やめ時がわからなかった」
そっちか。
ふっ、と思わず吹き出してしまう。
最高だ。こんなに強そうな男の弱点が「引き際」だなんて。
なんだ」
「いや、正直だなと思って。君って意外と優しいんだね」
「違う」
否定は早いが、声色は柔らかい。
「苦手なだけだ」

ファイノンは ほんの少しだけ理解する。
彼は優しいんじゃない。境界線の作り方が下手なのだと。
自分から欲しがらない男は、断るのも下手だ。

距離が詰まる。
さっきまでファイノンは先導していたはずなのに、いつのまにか男が並んでいる。

3番ゲート前に着いた。
ファイノンは一拍、置く。
これまで数え切れないほど言ってきた言葉だ。それを口にするだけなのに、どうしてこんなに勇気が要るんだろう。
何度も頭の中で台詞を逡巡させる。男は待っている。
「そろそろ行く——
言葉にする。
「君とまた話したい」
喉が少し渇く。
「どうすれば会える?」
男は考える。本当に考えている。
「俺はよくあのバーへ行くから
「そうじゃなくて」
拒む。これからも偶然の巡りあわせを願いたいわけじゃない。
そして一歩踏み込む。
教えてほしいんだ。連絡先」
これが本当の一歩だ。
——初めて、欲しがった。
仕事も、趣味も、おそらく生活も、何一つ共通点なんてないけれど、なぜかもっと知りたいと思う。引力に引き寄せられる。

男はしばらく黙る。この場をやり過ごす理由を探しているのではなく、ただ、測っていた。
そして。
打て」
低い声で、男が番号を告げる。告げることを選んだ。
ファイノンは確認する。ダブルチェック。問題ない。顔を上げる。
「ありがとう」
男は初めてファイノンの笑顔に触れる。
これまでに見てきた人当たりのいいそれではない。小さな勇気を出して、自分で選んだ者の笑顔。
男は一瞬、言葉を失う。
この男、こんな顔もするのか。

「それで
呆気にとられて何も言えないでいる男に、ファイノンが尋ねる。
「君の名前は?」


+  +  +  +  +  +  +  +  +  +  +  +  


その夜、ファイノンは久しぶりに自分からメッセージを送った。
メデイモスへ。

 Phainon:今日はありがとう。助かったのは僕のほうかも

既読はすぐにつく。

 Mydei :気にするな

素っ気ない。
でも返ってくる。


+  +  +  +  +  +  +  +  +  +  +  +  


ファイノンは偶然を装わなくなった。
メデイモスが立ち寄れるとき。ファイノンが地上にいるとき。ふたりが噛み合うときに会う。

「そういえばさ」
付け合せのナッツをかじりながらファイノンが言う。
「前に君のライブに行くよって言っただろ?」
「言ったな」
「あとで気づいたんだ。君の名前もバンドも知らなかったことにね。おかしな話だろ?」
「それはおかしいな」
それからずっと言えずにいた。本当はまだ君の勇姿を見ていないんだって」
沈黙。
「知っている」
「やっぱり?」
「名前を聞かれたのは久々だからな」
スマートフォンを取り出すメデイモス。何かを打ち込み、テーブルにスマホを置くと同時にファイノンに通知がくる。

 Mydei :今週金曜 19:00 【リンク】

その場でメッセージに添付されたURLを確認する。
画面をスクロール。
固まる。
「え?」
時間があったら来い。俺の音の売り方を教えてやる」
ファイノンは顔を上げて、目の前の男とスマホの画面を見比べる。
……ああ」
小さく笑う。
「そういうことか」
メデイモスは肩をすくめる。
「俺も言っていなかった」
「聞かなかったから」
互いに、少し笑う。

モーディスが、耳に胼胝ができるほど街中で聴いた曲の作者だと知ったのはその時のことだった。
ファイノンはグラスを回す。溶けかけの氷がぶつかって、小さな音を立てる。

偶然に頼らなくなった。
自分で番号を打ち込んだ。
自分でメッセージを送った。

選び始めた。

人は、選択を始めた瞬間から、もう戻れない。
安定した軌道を持つ二つの人生が、今、ゆっくりと引力圏に入っている。