もち粉
2026-02-07 16:34:48
20563文字
Public
 

誤解同盟、バレンタインに散る


カブミス ライシル
バレンタイン話
※途中、第三者視点の勘違いがあります


本文に入らなかったけど、ミスさんは普通に夜間通用門で受付してから城内で転移術を使いました



15.


魔物菓子を入れた木箱がいっぱいになり、二箱目を用意しようかと思い始めたころ、ノックと共に恋人が現れた。

「ミスルンさん」
「カブルー、もう上がれるか?」
「ええ、あとは片付けるだけですから、ちょっとだけ待ってて下さい」

頷いてカブルーの指し示した窓際のソファに向かうミスルンの背中には、長く編み込まれた銀髪の先に藍色のリボンが揺れている。

カブルーはその後ろ姿を見て微笑んだ。
今日はメリニで一番いい食事処を予約したと伝えたから、おめかししてきてくれたみたいだ。
そして手には小さな紙袋を持っている。
あれはきっと、俺が欲しい好きな人からのたった一つ。

カブルーは書類を重ねて揃えながらミスルンに話しかけた。

「今年もライオスにあげたんですか? ……例のアレ?」

名前は口に出したくないので濁したが、毎年のことなので正しく伝わった。

「ガロビスの卵嚢なら、王妃に預けてきた。王が忙しそうだったんでな」

あの日、結局マルシルはあのケーキを完食し、最後には笑顔を見せた。
あれもひとつの愛の形だ。

以来、記念日であるバレンタインには、思い出の味として、ミスルンがガロビスの卵嚢を毎年献上している。
喜んでいるのはライオスばかりだが、マルシルもなんだかんだ言いながら口にしてはいるようだ。

――もっとも、そんな国王夫妻の「愛のエピソード」が、昨今の魔物菓子ブームに拍車をかけているのは否めない。

今日は俺たちにとっても「お付き合い記念日」ではあるが、今年はもう一つ記念日を重ねたいと思う。
カブルーは引き出しからベルベットの小箱を取り出し、コートのポケットに滑り込ませてから、ミスルンに向き直った。

「お待たせしました。行きましょうか、ミスルンさん」
「うん」


✤✤✤

16.


「まだ時間ありますから、温室を見てから行きませんか?」
「構わない」

南庭に出ると、しんと冷えた空気に白い息が溶けた。
暗い庭の奥、大温室は植物たちに昼夜を誤認させるため夜でも明かりが灯されて、ぼうっと白く光っている。
三年前の今日、あの場所でミスルンから告白された。それから彼と過ごしたどの瞬間を切り取っても、この先も一緒に過ごしたいとしか思えない大切なものだった。

カブルーは息を吸ってポケットの中の小箱を握りしめた。決意は固めてあるが、そのタイミングについては実はまだ決めかねていた。

――どうしよう、今かな? あとで、食事処でデザートの時のほうがいいだろうか?

その時、カブルーの目の前に、ぽっと小さな金色の光が現れた。

「え?」

ぽぽぽぽぽっ

見る間に光は数を増やし、庭のあちこちに現れる。あっという間に南庭は金色の光に彩られた、ロマンチックな空間へと化していった。

……この魔力は、マルシルだな」
ミスルンが笑みを含んだ声でつぶやく。

思わず王妃の部屋の窓を振り仰ぐ。
カブルーの親愛なる同盟者殿が、慌ててカーテンの陰に隠れるのが見えた。


――これはもう、今でしょ。


カブルーは、ポケットから小箱を出すと、ミスルンに向けて箱を開けて差し出した。
金色の光に照らされて輝きを放つ指輪を目にしたミスルンは、一瞬驚いたあと、あの日のマルシルみたいに笑み崩れた。

そうして、とんでもなく幸せそうに微笑みながら、ふわりと左手を差し出した。


指先が触れた瞬間、世界が静かにひとつ頷いた。