Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
もち粉
2026-02-07 16:34:48
20563文字
Public
Clear cache
誤解同盟、バレンタインに散る
カブミス ライシル
バレンタイン話
※途中、第三者視点の勘違いがあります
本文に入らなかったけど、ミスさんは普通に夜間通用門で受付してから城内で転移術を使いました
1
2
3
4
3.
――
嘘でしょ!? ライオスとミスルンさんが、そんな関係だったなんて
……
!
夕暮れの赤い光が差し込む城の廊下でマルシルは立ちすくんだ。
ライオスが、ミスルンさんから去年チョコを貰ってる?
……
しかも、今年は二人で一緒にケーキを作るですって?
マルシルの優秀な頭脳にビジョンが走る。
「これくらいでどうだろうか?」
午後の穏やかな光が差し込むキッチンで、ミスルンが生クリームをひと匙すくってライオスに差し出す。
「どれどれ」
匙を受け取ることなく、そのままパクリと口に入れたライオスは、唇の端についたクリームを舐めた。
「うん、甘さはちょうどいいよ。もう少し硬めの方がいいかもしれない。貸してごらん」
ミスルンからボウルと泡だて器を受け取ったライオスはガシャガシャと手早くクリームをかき混ぜだす。
そんなライオスを見つめたミスルンは、ふと微苦笑を漏らした。
「ライオス」
「うん?」
「まだ唇にクリームがついているぞ」
ミスルンはそのほっそりとした指をライオスへと伸ばし
……
「ダメ〜〜〜〜っ!」
マルシルは妄想を散らすように頭のうえで手を振った。
い、いや別に!? ライオスが誰と付き合おうと私が口を出すことではないけど?
いや、ダメでしょ王様なんだから! ほら、いずれ結婚
……
とかなったらお世継ぎが必要になるし! ああでも東方にお嫁に行っちゃったファリンが先月二人目を無事に産んだもの。子どもたちが大きくなって本人が望んだら、どちらかをメリニに養子にくれてもいいって言っているし!?
それなら子供ができないミスルンさん相手でもオッケーか、そうか。
……
なら私でもよくない!?
「って、ちっがーう!!」
両手を握りこぶしにして思わず叫ぶ。
違う、違うわよマルシル。ファリンにバレンタインの友チョコクッキーを送ってあげようと思って! ついでにライオスの分も焼いてあげようと思ったから! あくまでついでだけれども、希望があるなら聞いてあげよっかなって、どんなのがいいか聞きに来ただけだから! ヤアドくんとかカブルーにもあげようと思ってたし!!
だって、だってライオスは
……
私の
……
私の
……
?
レシピ本がよれる程抱きしめて廊下で百面相をしているマルシルの横のドアが音を立てた。
ガチャリとドアが開き、影が伸びる。
「あっ
……
」
失意の表情で顔を上げたマルシルは、まるで幽鬼のような顔をしたカブルーと目があった。
「
…………
」
若草のようなマルシルの緑の瞳と、青い海のようなカブルーの瞳が交差する。二人は、互いの目の奥に渦巻く傷と諦められない心を正しく共有した。
「マルシル
……
、これから飲みに行きません?」
「
……
いいわよ」
✤✤✤
4.
政務室から出てきた直後、魂が抜けたように廊下に立ち尽くすマルシルの姿がカブルーの目に入った。
いや、正確には
――
(完全に「察した」顔してる
……
!)
目の下には濃い影が落ち、抱きしめすぎたレシピ本は歪んでいる。
いつも明るいマルシルのこんな表情、少なくとも俺は見たことがなかった。
「
…………
」
沈黙の中、互いに同じ種類の落胆を抱えていることが伝わってくる。
(ミスルンさんと
……
ライオスがなんて。 そんな馬鹿な
……
そんな
……
!)
笑い飛ばそうと思っていたのに。きっと何かの誤解だから、一旦気を落ち着けようと部屋から出てきたのに。
マルシルの表情を見たら、急激に実感が湧いてきてしまった。
――
俺は失恋したということだ。
決めの一言をいう切っ掛けがないだけだと思っていた。特にこの一年くらいはもう両想いも同然なんじゃないかと自惚れていたところを、よりによってあの朴念仁のライオスに横から掻っ攫われていたなんて。
星空の下で微笑んだミスルンの顔がカブルーのまぶたの裏にありありと浮かぶ。最近の彼は随分と表情も豊かになった。
俺との交流が、いい影響を与えているのかもしれないなんて考えていた。けれど、彼を変えたのはライオスの存在だったんだろうか。
全身から血の気が引いたみたいに視界が薄暗い。足元が雲を踏んでいるようにふわふわする。
だが、目の前のマルシルの動揺はその比ではなかった。
夕光の中、まるで蛍光石みたいに緑色の瞳がゆらゆら震えて、訴えかけてくる。
――
あなたも?
――
あなたも、アレ聞いちゃったの?
そう言われた気がして、喉が勝手に動いた。
「マルシル
……
、これから飲みに行きません?」
✤✤✤
5.
隠れ家のような小さく可愛らしい店内には、とけたチーズの香りと、くつくつ煮える鍋の音が漂っていた。ジュワッと肉を焼き始める音と、空腹を誘うような脂の匂い。
ざわめきと笑顔に満ちる店内の片隅で、マルシルはカブルーとカウンターに横並び、力なく乾杯した。エールを喉に流し込む。
普段は酒はあまり飲まないし、エールは苦いので避けていたけれど、今はその苦味が心地良かった。
「ぷはぁ」と息をつくと胸の中のもやもやがほんの少し流れていった気がした。
隣のカブルーは青い顔をしながらも、女の子の好きそうなおつまみをテキパキと注文している。
最後にこちらにメニューを向けて「他に食べたいのありますか?」と聞いてくる。
さすが城内一のモテ男ね、手慣れてるわ。
こんな時でさえ、息を吸うようにエスコートする。
(
……
ライオスなら)
王様になる前の、ただの冒険者仲間のライオスだったら、こんな時は私とファリンが延々とメニューを眺めて迷っているのをいつまでも穏やかに待っていた。
だから、ファリン救出のため、魔物を食べながら迷宮の深層を目指したあの日々、突如噴出したライオスの魔物へ好奇心(味を含めた)に驚いたものだ。
しかしライオスの対極をいくようなカブルーの本命がミスルンさんだったなんて。
二人、仲いいなぁとは思っていたけど。ミスルンさんが「欲を失っている」という事情もあって、まさか恋愛感情だとは思っていなかったわ。
私の恋バナセンサーをかいくぐるなんて、さすがねカブルー。
いつもの私だったら、このシチュエーションを何が何でも洗いざらい聞き出してみせると興奮しているところだけど
……
。
(スマートな色男くんが、年上の異種族に密かに片思い。しかも恋敵は主君。すっごくロマンチックな悲恋じゃない!)
なんだろう、今夜はちっともそんな気になれない。
✤✤✤
6.
エールを飲み干したマルシルが、空になったジョッキを両手で握りしめながらぽつりぽつりと話し出す。
「ライオスがミスルンさんに好意的なのは分かってたつもりだけど
……
、魔物の話ができるのが楽しいからだと思ってた。
でも、好きな事を分かち合える人のこと好きになったって、なんにもおかしくないよね。
あんな嬉しそうに『ミスルンさんのチョコが一番だった』なんて言われたら
……
」
マルシルの声が震えた。
その瞬間、カブルーは確信した。
(この人、本当にライオスが好きなんだ)
友愛でも仲間愛でもない。
マルシルの瞳を揺らしているのは、間違いなく恋だ。普段恋バナで騒いでいるときとは完全に質が違う。
ああ、昨日までならこんな確信を得たら「やったな、ライオス。あとはさっさとお前が告白するだけだぞ」と内心テンションを上げて美味い酒が飲めたはずなのに。
カブルーは二杯目のウイスキーをちびりと舐めた。喉を焼くような強い刺激が、あの時感じた心の痛みを再現するかのようだった。
マルシルが一生懸命笑顔を作りながらすがるように顔を上げる。
「
……
ねぇ、カブルー。私たち、きっと、なにか誤解してるだけよね?」
誤解。そう、自分もそう思う。
でも想定外にダメージが大きくて、押し寄せる嫉妬や焦りの黒い感情に呑まれてしまっていた。
自分以外の言葉でそう言われて、カブルーの胸は少しだけ軽くなる。
そうだよな、何かの勘違いかもしれない。あのライオスが、恋愛沙汰で器用なわけがない。
ライオスはマルシルの事が好きなんだとずっと思っていたのに、いつのまにミスルンさんに鞍替えし、さっさとゴールを決めていたなんて。
……
そうだよ、そんなことあるもんか。
「
……
そう願いたいですね」
思わず本音がこぼれた。
マルシルが「きっ」と顔を上げて話し出す。
「そうよ、大体おかしいわ。ミスルンさんがお城に来るのって、二ヶ月に一回程度じゃない。カブルーにだけ書類預けて帰ることだって多いし、そんなにしょっちゅうライオスと会ってるとは思えないわ」
しかしその言葉にカブルーは、はっと目を瞬くと気まずげに口元を押さえた。
「
……
マルシル、あの
……
」
「なあに」
「多分ミスルンさん、城に自由に出入り出来ますよ。
……
転移術で」
「え、いやそんなことないわよ。黄金城は魔術の守りを張り巡らせてるわ。もしも無理やり入ってきたら、私が分からないはずないもの」
「いやそれが
……
現に何度か夜中に入ってきてるんですよね、あの人」
「ええ!?」
「多分どこかに
……
『穴』があるんじゃないかと」
「それか、私の術を一時的に上書きして目眩ましされたかだわ」
マルシルは渾身の守りを無力化されていたことに、ショックを受けたようだった。「やられたとしたらあそこ
……
? ううんでもあそこをいじったら、あっちも影響出るし
……
」と頭を抱えてブツブツ言っている。
「っていうか、カブルー! それ大問題なんだけど?
あの人一応外国人よ!? 無許可で夜に入り込んでたら、まずいでしょ!」
「はい、すみません
……
」
(だって俺にこっそり会いに来てくれたんだと思ってたから!)
最初は俺の誕生日の夜。誰より先に祝いを言いたかったと日付が変わると同時に現れた。
流星群が降る日、あの人と一緒に見たいと夜空を眺めていたら星の瞬きと共にやってきた。
その度に「勝手に入ってきちゃダメですよ」と口先では注意したものの、彼は「勝手じゃないぞ」と肩をすくめてみせるだけだった。
「
……
王自ら招き入れていたとあれば、罪には問われるわけもない」
「だって、じゃあ、ふたりは夜にこっそり会ってたってこと
……
?」
「
……
」
マルシルと二人、黙りこくる。
チョコのやりとりなんかより、ずっと深刻な事態が浮かび上がってきてしまった。
俺がどうしようもなく寂しくなった夜などに、彼は呼ばれたように現れてくれた。その全てが、ライオスに会う「ついで」だったとしたら?
秘密の逢瀬だと浮かれていた自分が馬鹿みたいだ。まさか、本当の逢瀬の相手が別にいたなんて。
――
いやでも、そんなはずないでしょう?
流星群の下、潤んだような瞳で俺を見つめてくれた。食事に誘ったら、はにかんだように頷いてくれた。
その心の中に、俺の居場所が確かにあると思っていたのに。
全部、俺の勘違いだったなんて
――
信じたくない。
じわりと瞳の奥が熱くなったのを感じて慌てて目を閉じた俺に、マルシルの優しい声がした。
「ミスルンさんのこと
……
好きなのね」
「
……
はい。どうしようもなく」
机に置かれていたカブルーの褐色の手の甲を、マルシルの真っ白な両手が包むように握りしめた。
「
……
絶対誤解よ! 一緒に真相を確かめましょう。お互いのために!」
✤✤✤
7.
魔法式の検算をしたお陰でちょっと頭が冷えた。私が顔を上げた瞬間、入れ替わるようにカブルーが目を伏せた。
一瞬、涙が見えた気がしてどきりとした。
横にいるのは、王城一の美形で、誰にでも余裕で優しくできて、モテすぎて逆にうさんくさい感じのする男。
そんな彼が今は痛々しいほど弱っている姿を見て、マルシルは悟った。
ああ、これは本物だ。
恋バナ好きの私が、一番よく分かる。
変な話だけど、ピンチの時に先に相手にパニクられると自分は冷静になるみたいなことあるじゃない? なんとなくそんな感じで急に強気になった私は、彼の手を取って勢いよく言った。
「絶対誤解よ! 一緒に真相を確かめましょう。お互いのために!」
「
……
そうですよね、ちゃんと確かめないと」
そうよ、ライオスとミスルンさんが付き合っているなんて誤解に決まってるんだから。
「
……
でも、真相を探るってどうしたらいいのかしら?」
マルシルは、店員からおかわりのジョッキを受け取りながら作戦会議を開始した。
「ふたりがもし去年のバレンタインから付き合っていたとしたら、この一年完璧に隠し通してきたってことよ。聞いて素直に答えるかしら?」
テーブルに両肘をついて顎を乗せたマルシルに、カブルーが身を乗り出した。
「ええ、ですがライオスは、今日ついに口を滑らせた。きっと一周年が近くて浮かれているんですよ」
「もしかしたら、一周年を期に周囲に恋人だってオープンにする気なのかも」
「恋人
……
」
「一周年
……
」
私たちは、自分の口にした言葉に自分でショックを受けて撃沈した。
……
いけない、気をしっかりもたなくては。
「と、とにかく。しばらくは二人の言動に注意して、しっぽをつかんでやりましょう。
何かわかったら、お互い情報共有するって事で」
「誤解同盟ってことね!」
グラスを合わせる。
「誤解だったらいいなぁ同盟?」
「ながーい!」
二人で吹き出して、ちょっとだけ心が軽くなった。
カブルーがいてくれてよかった。
一人だったら、きっと泣いていたわ。
勝手に誤解して、勝手に諦めたりしたら、ばかみたいだものね。
――
すべては真実を確かめてから、よ。
1
2
3
4
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内