tonami
2026-02-06 00:59:13
8741文字
Public 50音
 

50音/さ行

50音短文詰め③



そ/原作軸



「そっくりそのまま返してやるよ、ハートの船長さんよ」
 銀河の光を溶かし込んだような隻眼がゆるりと瞬く。首を傾げた拍子に左耳に下がる三本の金色が打ち合って流星のように響いた。どこにでもある白熱灯の光を跳ね返す輝きに目を奪われる。
「お前がおれのことを好きなんだろう。おれが愛だの恋だのに興味がねェと思って高括ってたみてェだが、あいにくそうそう鈍くねェもんでな」
……おれは、別に」
「この後に及んでシラ切ろうってか。それともまじで自覚してねェのか?まァどっちにしろ、死の外科医が聞いて呆れるぜ」
 ゾロは鼻で嗤うと、ローのシャツの胸ぐらを片手で掴み上げる。
「いいか、トラファルガー。おれが欲しいんなら誤魔化しなんざせずに全力で来い。全身全霊で欲しがれ。てめェのぜんぶを寄越さねェような奴にくれてやるほど、おれは安くねェ」
 太陽かと見紛うほど苛烈にひとつきりの瞳が燃え上がる。怒りだった。ゾロは怒りのボルテージが上がるほど冷静になっていくから、ここまでの激情をぶつけられたのはいままで一度たりともない。触れたそばから燃やし尽くして、骨を灰にするほどの鮮やかな怒り。瞳の中で火花みたいに弾ける銀河に、自然と息が洩れる。
「きれいだ」
「は?」
 ぽかんと少し下にある隻眼が丸くなる。眉間に寄せられた皺が解かれ、いつもよりも幼く、それこそ年相応に見えた。かわいいな、と思って、他の誰にも取られたくないとも思った。この男の可愛らしいところも星のように輝くところも、ぜんぶが欲しい。ずっと心の真ん中にあったのに見てみぬふりをしていた欲望に、手を伸ばす。
「おれのぜんぶを渡せば、お前のぜんぶをくれるのか」
「いまやれるぶんはな。もうルフィとかに渡しちまってるのは無理だが」
「ちっ、麦わら屋か……まァ、おれもうちの奴らやコラさんにやったぶんは渡せねェからあいこだ」
 忌々しげに元同盟相手の名前を口にしたかと思えば、ローは胸ぐらを握ったままのゾロの指を解かせて、その手を自身の両手で包み込んだ。不思議そうに瞬く隻眼に、表情を緩める。
「いままで誤魔化してて悪かった。おかげでようやく認められた」
 刀を握るため、深爪気味の指先に唇を落とす。ぴくりとわずかに跳ねた指を撫で、刺青が入ったそれと絡める。
「好きだ、ゾロ屋。おれのぜんぶをお前に渡すから、お前のぜんぶをおれにくれ」
「おう、おれも好きだぜ。ちゃんとぜんぶ寄越せよ」
「もちろん」
 触れた唇の柔らかさと甘さに目眩を覚えながら、至近距離で輝く銀灰色に惹きつけられる。ああ、と無意識に吐息が溢れた。
 この星のような男から生まれるちいさな銀河も、鍛え上げられた暖かな肢体も、少し早めの鼓動を刻む心臓も、芽吹いた生命そのもののような緑の髪も、ざらついた低く耳触りの好いよく通る声も、一振りの刀のようなまっすぐな性根も。
 ――すべて、おれのものだ。



一切合切のすべて