tonami
2026-02-06 00:59:13
8741文字
Public 50音
 

50音/さ行

50音短文詰め③



し/原作軸。🌷→⚔️有り



「しけたツラしてんなァ、相変わらず」
 背後からかけられた揶揄の声に、ローは盛大に顔をしかめた。振り返らなくても正体はわかる。正直、面倒なので率先して会いたくはない相手だが向こうから来てしまっては仕方ない。
……なんの用だ、ユースタス屋」
「別にこれと言って用はねェ」
 そう言いながら髪も羽織ったコートも服の装飾まで赤い男は、わざわざローの席から一つ空けた場所に腰を下ろした。
「用がねェならとっとと失せろ。なんでてめェの顔見ながら呑まなきゃならねェんだ」
「おれがどこで呑もうがおれの勝手だろうが。嫌ならてめェが出てけや」
「先にここにいたのはおれだ。後から来たてめェが場所移動すんのが筋だろうが」
「は、おれの知ったこっちゃねェなァ」
 敵船の船長の言い分を鼻で嗤いながらキッドは店員に酒の名前を告げる。南の海サウスの銘酒だ。ローも口にしたことがある。辛口だが飲みやすく、舌触りが滑らかな銘柄だった。上質な味にしては値段が手頃で大抵の酒場にはあるから、浴びるように酒を呑む男がたいそう気に入っていた。
 五分もかからずにジョッキがカウンターに置かれる。それを一口嚥下したキッドは、トラファルガーよ、とやけに真剣な目をローに向けた。
「なんだ急に。気持ち悪ィな」
「とうとうロロノアに愛想尽かされたって、マジか?」
「ごふっ」
「汚ねェな」
 ちょうどグラスに口をつけたところだったせいで酒を噴き出した上に変なところに入ってしまった。咽せるローにキッドは酒場の主人から借りた布巾を投げつけてやる。それを反射的に受け取り、ばちんと怒り任せにカウンターに叩きつけた。
「ンなわけねェだろ!!」
「チッ、やっぱガセか」
「だいたいなんだそのろくでもねェ噂は。おれがゾロ屋に愛想尽かされるわけねェだろうが」
「そうか? てめェみたいな執着心の塊はともかく、ロロノアみてェなタイプは一回見限ったらすっぱり切っちまうだろ」
「そ、……れはそうだが。けどな、おれはあいつに見限られるような軽い愛し方はしてねェ。どちらかが死んだって別れても離してもやらねェ」
「へーへーそうかよ。おれァてめェの惚気聞きに来たんじゃねェんだわ」
 つーかいい加減そこ拭けよ、と噴き出した酒浸しになったカウンターを指差され、ローは指図すんな、と無意味に抵抗しながら綺麗に拭き上げた。
「しっかし残念だぜ。別れたんだったらおれのものにしてやろうと思ったのに」
「てめェにゾロ屋は扱えねェよ」
「三十億の死の外科医サマにも扱えねェのに?」
…………ユースタス屋、てめェいったい何しにきやがった? まさかおれをおちょくるためだけに来たわけじゃねェよな?」
「半分はそうだぜ? 残りの半分のうち四割は噂の真相確かめにきただけだ」
「最後の一割は?」
「親切心」
……なんだって?」
 目の前の男からとんと聞き覚えのない言葉が聞こえて、ローは思わず呆気に取られた。一時共闘したとはいえ、そもそも敵船同士、その上船長にかけるにしてはずいぶん気安い。
 キッドは二杯目を煽りながら、にやりと悪どい笑みを浮かべる。
「すぐそこで酒場探してる奴に会ってよ。キラーがいま引き留めてんだが、そろそろ引き延ばすのも限界かもな」
……あ?」
「マジで別れたんだったらおれが手ェ出そうと思ってたんだがなァ。どうもそうじゃねェらしい。仕方ねェからどこぞの酒場でうじうじじめじめしてる陰気面に教えてやらねェこともねェと思ってよ」
 キッドが言い終わる前に青い半透明のサークルが広がる。すぐそこと言った通り、目的の人物はあっさりと見つかったらしい。そう膨らまずにサークルは拡張を止めた。そのまま移動するかと思いきや、ローは顔をしかめながら渋々といった体で口を開いた。
……西の港に停まってる商船。どうもきな臭い商売してるらしい。顧客にとんでもねェ高値吹っかけてたんまり溜め込んでるみてェだ」
「へェ。ちょうどでけェ買い物したばっかだ。一稼ぎしてくっか」
「それならさっさと動くことだな。この島にはハートうちはもちろん、ゾロ屋がいるってことは麦わらたいふうのめもいるんだ」
「早い者勝ちってか。上等、うちの一人勝ちだ」
「だといいがな」
 小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、ローが消える。代わりに敵船の船長が座っていた席に現れたのは見慣れた相棒の姿。キラーはすぐに状況を把握して、特徴的な笑い声を上げた。
「なんだ、トラファルガーに教えてやったのか」
「気に入った男がらしくもねェツラしてたらな」
 せっかくのチャンスだったのによ、とキッドはジョッキの中身を飲み干した。いつの間にか置かれていた多めの紙幣から今回の支払い分をカウンターに置いて、残りは懐へ。詫びか借りか知らないが、律儀なことだ。情報で相殺だったろうに。それだけ死の外科医にとって海賊狩りの存在は大きいということだろう。
「ところで相棒よ、ちょっくら一暴れしに行こうぜ」
「いいな。どこまで?」
「西の港」
 連れ立って酒場を出る。当然ながら外にはハートの船長の姿も麦わらの二番手の姿もなかった。もしまだぐずぐずしていたら率先して揶揄いに行っていたところだ。あんな陰険で陰湿で陰気な独占欲と執着心の塊なんてやめておけばいいものを。海賊狩りのことは気に入っているが、さすがあの一味なだけあって趣味が悪い。
「やっぱ欲しいモンはさっさと手に入れねェとな」
「ファッファッファ。違いない」



これでもわりと本気ではある