蜂宮
2026-01-26 12:07:58
7992文字
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教ルキの原稿尻叩き(🔞手前まで)

バレンタイン用の教ルキ。
直前まで魔トカゲは寝る時全裸なんじゃないかと悩んでいたけど、冬の寒さの中裸で布団にくるまってるのは流石に馬鹿なので服着てる。



今日から数日教授は休みを貰ったらしい。
昨日の試合が終わったあとに上機嫌にそう告げてきた彼の言葉は半分くらい鈍った脳みそが取り零していたが、とにかく数日はずっと一緒にいられるのだろうということだけ認識して、なんとなく気分が上がる。
私としても別に自分の意思で冬にここまで弱っている訳ではない。
少しでも長く、少しでも沢山教授と一緒に居たいという気持ちはあるのだ。それ以上に普段は寒さに対する嫌悪感が表に出てしまうだけで。

昨晩教授をベッドに招き入れてから、もう半日近く経っている。カーテンの向こう側には煌々と太陽が昇り、光と共に冷気を微かに部屋の中に連れてきていた。
布団から出ている頬や鼻先が冷たくなっていて、その事を自覚すると途端に体が冷えていくような感覚に襲われてしまう。
あァ嫌だ。そう思っていつものように、腕の中で大人しくしている教授の首筋に顔を押し付けて暖を取っていると、今思い出したとでも言いたげな声が彼から上がる。

?どうした?」
すまない魔トカゲ。昼は用事があるから席を外すよ。」

心底申し訳なさそうに、私の頭を撫でながら言われた言葉の意味を脳はすぐには理解してくれない。
数十秒は固まった末に喉から絞り出されたのは、愕然として引き攣った声だけだった。

……は?」

居なくなる?何故?私はここにいるのに?
教授の言葉が染み込んでくるに従って、温かかった筈の指先や尾の先が急激に冷えていくような感覚に襲われる。

別に普段も試合で昼間は居ないだろうと頭の冷静な部分が指摘してくるが、そういう問題ではない。
何しろ今まで教授と付き合ってきて、休日に彼が自分の意思で私の元から離れる事など初めてな気がする。
いつもはどこか行かなくてはならないとなれば必ず同行を求められるし、私も彼の傍に居たいから基本的にどこであろうと着いていっていた。

冬は私の活動範囲が酷く狭くなると理解している教授は予定など入れずに、いつも私の隣で大人しく一緒にいてくれる。
そう。だから、今回だってきっと数日は離れることなく共にいられるのだと思って

「い、いやだ。」

混乱と言葉にならない喪失感が襲ってきて、慌てた末に口からは稚拙なワガママが飛び出していた。
昼間、昼間ということは多分午後になる少し前くらい。もう10時は回っているし、やはりこのままだとすぐにいなくなってしまう。
そんなの嫌だ。何しろ離れる心の準備ができていない。

部屋はほら、暖炉に薪を沢山入れて暖かくしておくから。」
「そ、そうじゃなくて!本当に今日、君が行かなくてはならないことなのか?他の奴に任せてしまえばいいだろう!」

しばらくの間、私はごねた。嫌だ、行くな、寒いんだ、離れないで。平時に聞けばきっと恥ずかしさで顔を覆う羽目になる言葉を片っ端から出して、それでも首が縦に振られない事実に焦りが募っていく。

結果的に、教授は私が寒いから暖を取れなくなるのが嫌なのだと誤認したらしい。
教授の視線が外れる。ベッドから少し離れたところにある暖炉へと向く。
それだけでも衝撃でバランスを失った心が嫌だと悲鳴を上げた。
教授の腕を掴んで尾を右脚に巻き付ける。その動きで教授の視線が再びこちらを向いたことによって、ザワついていた胸は少し落ち着く。

すまない。どうしても外せない用事なんだ。」

それでも、外出は取り消してくれない。
反射的に開いた口からは、もうなんと言えば彼が隣に居続けてくれるのか分からず掠れた呻き声しか出なかった。
なんでこんなにお願いしているのに聞いてくれないんだ。
そんな怒りに似た感情がせり上ってきて、思わず教授の脚に絡みつけていた尾の先がシーツを叩く。
完全に無意識の行動であったが、それを見た教授が苦笑して私の背を優しく撫でた。その動きは普段から私を甘やかす時にする手付きそのもので、どれだけ怒りに燃えていてもこの手があるだけで許してしまいそうになる。

っ、なんで
「すまない魔トカゲ。終わったらすぐに帰ってくるから。」
当たり前だろう!」

そこで寄り道などされようものなら、今度こそ尾で教授の背を叩き付けているところだ。
思わず強く出た声に笑いながら、それじゃあ行ってくるよなんて言われて慌てて壁にかかっている時計を見る。
彼から外出を宣言されてから早くも1時間は経っていた。
どれだけゴネていたんだと自分で自分に呆れ返る他ない。ベッドを出ていく教授が名残惜しげに私の首を撫でて、口元にキスを落とす。

そんなに残念そうにするなら、最初から行かなきゃ良いのに。
そう思っても、これ以上彼を困らせて嫌われでもしたらどうしようという気持ちになって声には出せない。
代わりに、早く帰ってこいという気持ちを込めて彼の頬をひと舐めして布団を頭から被った。


*


……遅い。
チラリと確認すると、時計の針は既に夕方の4時を指している。
てっきり3時過ぎには帰ってくると思っていた私は酷く拍子抜けしてしまった。
彼が出ていった扉を最初のうちは怒りに任せて睨みつけていたというのに、今では教授が居ないという寂しさと、置いていかれたという悲しさだけが沸き起こって私を責める。

せめて冬でももう少しまともに動けるだけの体質であったなら、多少無理をしても彼の傍についていけたのかもしれない。
だが、生憎とこれは生態反応のようなもので、私自身の気合いではどうしようもない症状だ。
いっその事きちんとした冬眠へと移行出来れば良いのに、そんな事にもならない中途半端な状況で放り出されている。
眠いのに数時間おきに目が覚める。寒くて動きたくないのに緩やかに腹は減る。
居なくなって欲しくない人も、私の意志とは関係なく出て行ってしまう。
嫌だ嫌だと思えば思うほど、思考は坩堝にハマっていく。
皮肉な事に、出て行く時に教授が暖炉の火を強めてくれた事で思考が多少はクリアになってしまい、今まで見ないようにしていた考えにまで目が向くようになってしまった。

彼はきっと今頃サバイバーの誰かと楽しく息抜きでもしているのだろう。
元はと言えば、教授が私に甘過ぎたのだ。冬、殆ど11月の後半から3月の後半辺りまで、試合の時以外はずっと私の腕の中でじっとしているなんて冷静になって考えてみれば正気とは思えない生活だ。
そんな事を彼は、私への愛情だけでやってのけていてくれた。
そして彼の愛に胡座をかいて、そうしてくれるのが当たり前だと思っていた私があまりにも傲慢だった。

もう少し、彼の事を考えてやるべきだった。
息抜きに外出だってしたかっただろう。他の誰かと話す時間だって欲しかったかもしれないし……あァ、そうだ。きっと研究だってやりたかっただろう。
それもこれも全部、私が「寒いからここにいろ」という一言で握り潰していた。
遅かれ早かれ、こうなる日は来たのかもしれない。
せめて、やりたいと言っていた事をもう少しでもやらせてやればこうやって放置されずに済んだのだろうか。

思考が嫌な方へと流れ、ズキズキと痛む胸をどうにかしたくて彼が脱いで行ったシャツを手に取る。
後でまとめて洗ってしまおうと考えているのだろう。何故黒を基調とした衣装へと着替えて行ったのかは謎だが、こうして彼の気配の残る物を置いていってもらえるのは、今の私にとっては何よりもありがたい。

人よりも退化した鼻は鼻腔から匂いを嗅ぎとるのが難しい。
ちろちろと舌を出し入れしてようやく教授の匂いを認識して、強ばっていた肩から少し力が抜ける。
教授がここにいるような気がして、少しだけ安心する。
そう思うと堪らなかった。白いシャツを胸に抱いて、何も考えなくて良いように丸まって目を瞑る。普段教授にしているみたいに。
薄らとやってくる眠気が逃避なのか久しぶりに頭を動かしたことによる疲労なのかは、判断がつく程の体力が残っていなかった。