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匣舟
2026-01-25 20:59:02
14281文字
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RKRN
ぼくらふたりでひとつの一等星
箱根駅伝に感化されて書いた三乱の加筆修正版です。トンデモ設定が多数あります。広い心で読んでください!
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「三ちゃん。こっちだよ〜。」
三治郎が陸上部の活動を終えてここに来るまでに美術部の活動を終えていたらしい乱太郎は入念なストレッチをしながら待っていた。いつもはこのくらいの時間に来るのに遅かったね?と尋ねてくる乱太郎に三治郎はうん、ちょっと用事があってね。と言いながら彼の隣でストレッチを始めた。
「そっか、
……
ねぇ、今日のコースどこ行く?」
「んー、今日は山沿い走る?多分この時間なら空いてるだろうし
…
。」
「山沿いね〜!アップダウンキツいから頑張らないとね〜!」
そう言いながら、三治郎の方を見て無邪気に笑う乱太郎につられて、三治郎もにこりと笑い返す。準備体操を終えた二人はじゃあ、行くよ〜。と言ってスタートの態勢に入る。
「よーい。ドンッ!」
パンッという乱太郎の手拍子の軽快な音を皮切りに二人は地面を蹴り上げて風と共に走り出した。スタートから先頭に立つためにどちらも譲らず並走して走って、追い抜かされそうになるたびに抜かされてなるものか!と必死に喰らいつく三治郎と乱太郎。その二人が通る道には一陣の風が吹く。
やっぱり今日も乱太郎と走るのは楽しいなぁ、と思いながら走る三治郎はちらりと今、自分と一緒に並走をしている乱太郎の方を見る。普段はのほほんとしていて何を考えているのかすぐ分かるのに、ランニングをしている時の乱太郎はいつもの優しい顔じゃなくて真剣な顔をして、その綺麗な翡翠の瞳の奥にゆらゆらと炎が灯ったように光り輝いている。
(なにが、趣味の範疇だよ。)
三治郎は走りながらそう心の中で毒を吐いた。お前の瞳の奥底はこんなにも勝利に飢えているというのに!と心の中で叫びながら、三治郎は乱太郎の背中を追いかけて走る。坂でキツイところから少しギアを上げて走る速度を早めてから乱太郎と何度目かの並走をしたときに、また彼の表情を横目に見ると。そこには先程と変わらない光を宿した瞳で前を見つめながらも、三治郎の視線に気づいたのかこちらを見て、ニヤッと口角を上げていた。三治郎にはその笑みが着いてこられるもんなら着いてきな。と挑発されたようにしか見えなかった。
その余裕綽々な乱太郎の態度にふざけるなよ!と言わんばかりに三治郎はギアをあげて加速すると、乱太郎もスピードを上げた三治郎についてくるためにギアを上げていく。結局、二人の競争は終わることなくゴール地点であるグラウンドに戻ってきて、乱太郎と三治郎は同時にゴールした。
「付き合ってもらってる身で言うのもあれなんだけどさ、三ちゃんオーバーワークしすぎじゃない
…
?」
そろそろ箱根駅伝に向けて調整もしてるのに私と走ってて大丈夫なの?と荒い息を整えながらも乱太郎が心配そうに三治郎に近づき声をかけてくる。確かにオーバーワークしすぎたかもしれないが、あんな挑発されて乗っかからないわけがないだろ。と内心思いながら三治郎も同じように息を整えながらも、乱太郎からの言葉に対して大丈夫と返そうとすると、三治郎と違う声が二人の背後から聞こえた。
「確かに、おまえさんの言う通りこれから調整するというとに飛ばしすぎじゃないか?なぁ、三治郎?」
「
…
お、大木先生
……
。」
三治郎と乱太郎の後ろに居たのは大川大学陸上競技部男子長距離ブロックの顧問である大木雅之助と今回の箱根駅伝のスターティングメンバーに選ばれている陸上部のメンバーだった。三治郎が伝えた通りにここに来たということは、八左ヱ門が伝えに来てくれたのだろう。雅之助から八左ヱ門に視線を移すと、三治郎が自分を見ているのがわかった八左ヱ門は、ニコと笑いかけながら三治郎に向かってピースをした。
「いやあ、それにしても速いな!途中まで竹谷と一緒に車でお前さんたちの走っているところを見ていたんだが、あまりにも二人が速すぎて途中で撒かれちまってな、この時間になってしまった。」
すまんなぁ、と悪いと全く思ってない様子でハッハッハッ!!と豪快に笑う大木に、三治郎はなんか迷わせてしまってすみません
…
。と頭を下げた。頭を下げた三治郎に、雅之助はいい、謝罪はいらんぞ!と言いながら豪快に三治郎の頭を撫でた。
「それにしてもお前さんは随分と走るのが速い!
…
ずっと陸上をやってなかったのが不思議みたいだ!
…
この夢前と同じ速度で走れるとは
…
。」
大木は乱太郎と三治郎が一緒に並走して走ってきたところを見て来ているということで、この場にいる誰よりも興奮している。雅之助の後ろにいる陸上部メンバーも顔に出てないだけで乱太郎の走りを見ていた時は驚きと興奮を隠せておらず、二人のところに行くまでにはもう絶対にあの子を陸上部に引き込もうと全員が首を縦に振った場面があった。猪名寺乱太郎という逸材が居れば、絶対に箱根駅伝を優勝できる。と誰もが確信していたからだ。
「わしはお前さんの力も借りて、箱根駅伝に臨みたいと思っているのだが、勿論強制ではない。だが、我々の仲間になって欲しいと思っている。」
そう言って乱太郎に向けて手を差し出す雅之助。すると、それまでずっと黙っていた乱太郎は、眉間に皺を寄せて三治郎の方を見る。
「
……
ねぇ、三ちゃん。これって嵌めたの?」
「んー。嵌めたというより、僕が乱太郎の力をみんなに見てもらいたかったから来てもらったんだよ!」
「
……
やっぱり嵌めたんじゃん!私になんかに無理だよ!だって、趣味の範疇でやってるんだよ?」
「なーにが趣味の範疇だよ!僕より速い癖に!大木先生も、みんなも!乱太郎の走りを見ちゃったんだからさ、もう諦めて一緒に出ようよ!」
「
…
だーから無理っ!」
素人同然の私と三ちゃんとは違うの!とプンプン怒る乱太郎が可愛いなぁ。と思いながらも三治郎はニコニコと笑っていた。そんな二人のやり取りを見ている陸上部員たちは、まるで双子が喧嘩してるみたいな可愛らしい会話だな
……
。と思っているのを遮るように雅之助は三治郎に近づき、その背中をバシッと叩く。
いったっ!と叫ぶ三治郎にハッハッハ!とまた豪快に笑った雅之助は、再び乱太郎の方へ向き直るとこう言った。
「確かにお前さんにとっては嵌められたような形になってしまい申し訳ない。しかし、我々はお前の走りを見て確信した。猪名寺乱太郎、お前は箱根駅伝を獲るために必要な男だと。」
……
だから、もう一度言わせてもらう。猪名寺乱太郎、ぜひ我々の、大川大学陸上部の仲間になって欲しい。
…
お前さんの走りで我々を三連覇に導いて欲しい。
そう言って頭を下げる雅之助。自分たちの監督が頭を下げる光景を見て、俺たちも頭を下げなければ!と乱太郎の周囲に集まってきていた部員全員が一斉に乱太郎に向かって頭を下げた。今までの人生、こんな大勢に頭を下げられることなんてなかった乱太郎は、慌てたようにみなさん頭を上げてください!と叫ぶ。
三治郎はそんな乱太郎を見て、ほら、もう乱太郎は逃げられないよ。と言わんばかりに乱太郎のことを見つめていた。
「あの!私なんてまだまだ実力不足で足を引っ張ってしまうのでお役に立てませんよ
…
!?」
「いいや、お前は足を引っ張ったりしない。何故ならお前は強い!夢前と同等の力があるからだ。
…
我々と共に切磋琢磨して頑張ってほしい。」
「でっ、でも
…
!」
自分を卑下する言葉はもういい。
…
わしは、お前さんの意思が聞きたい。どうだろうか?と手を差し伸べる雅之助に、乱太郎は差し出されている手を取ろうかどうか躊躇しているようで、その手は腰の辺りで宙を彷徨っている。そんな乱太郎の姿を見て、三治郎は乱太郎の傍により、その手を取って雅之助の方へと伸ばした。
「っ
……
三ちゃん
……
!」
「なんでそんなに躊躇する必要があるの?言っとくけど、お前は素人じゃないからね?
…
僕の走りに着いてきてる時点でムカつくけど実力者だから。」
「
…
で、でも
…
駅伝とか、わかんないし
…
。」
「わかんないとかないよ、ただ一番に体力があって速い人が勝つ。
…
戦略とかは大木先生に任せればいいんだし、お前はいつもみたいにただ笑って走ればいいだけ。」
「
…
ぅ、」
「同じ土俵に立ってよ、乱太郎。ねぇ、お願い。」
僕のお願い、聞いてくれるでしょ?そう言って、こちらを見つめる三治郎の瞳はいつも陸上に誘ってくれる時と同じ瞳をしていた。ギラギラと炎を蔓延らせているような瞳でいて、こちらに懇願するような瞳。いつもならば、その瞳を受け止めていてもなお、ごめんね。と謝罪の言葉を口にしていた乱太郎だったが、今回は謝罪の言葉が口から思うように出なかった。ここまで自分の実力を認めてもらって断るなど優しい乱太郎にはできなかったからだ。
それもこれも全部こんな舞台を作り出した三治郎のせいだと、乱太郎は少しため息を吐きながら、半ば諦めたように雅之助に三治郎の手を借りながら差し出されていた手を取った。
「
……
わ、私でよければ、よろしく、お願いします
…
。」
「っ、」
「
……
っありがとう、乱太郎
……
!!」
陸上部として正式に仲間になり、一緒に駅伝に出ることを了承してくれた乱太郎に三治郎は飛び込むように抱きつく。ずっと乱太郎のことを何十年と陸上しよう!と口説き倒していた三治郎にとって、ようやく同じ陸上をしてくれると言ってくれたのだ。嬉しいわけがない。乱太郎は突然飛んできた三治郎を受け止めきれずに倒れてしまうと、その反動で後ろにいた大木の身体にぶつかってしまった。
「
……
ぁ、ごめんなさい!」
「はっはっはっ!いい、謝るな!」
それにしても、こんな嬉しい事はないな!猪名寺が我々の仲間になってくれたおかげで今年も箱根駅伝三連覇を狙えるぞ!と大声で笑いながら雅之助は三治郎ごと乱太郎を抱きしめた。自分の身体に急にかかる重みに潰れる〜!と涙目になりながら叫ぶ乱太郎を尻目に、ようやく自分の片割れと同じ土俵に立てる嬉しさのあまり三治郎は思わず笑みが溢れたのだった。
それから約二ヶ月の間、監督である雅之助が付きっきりで乱太郎を指導し、その間に部員たちと共に過ごす時間を増やして、少しずつだが徐々に部員たちとも打ち解けた乱太郎。やはりと言うべきか、雅之助が三治郎と同じくらいの実力があると言っていたのは本当であり、これまで教わっていなかった駅伝のルールを教わり、部員たちとの日々の練習で経験を積んでいく中で、乱太郎はメキメキとその力を伸ばしていった。
そんな中、十二月になりとうとう箱根駅伝の代表メンバーが発表される日が来た。選ばれるのは十五名のみ、選ばれた者は箱根駅伝という夢の大舞台で走ることができる為、部員たちは全員ソワソワとしている。
それは乱太郎も例外ではなく、選ばれるか選ばれないかは別にして、初めての大舞台。緊張と不安でいっぱいで今にも卒倒してしまいそうなほどなのだ。大丈夫、きっと大丈夫。と必死に言い聞かせながら、監督の発表を待つ。そして、全員が集まり、皆が静まったところで発表が始まった。
「
……
代表メンバーを発表する。まずは第一区、食満留三郎。」
「はい。」
「第二区は久々知兵助、第三区は浦風藤内。」
「はい!」
「はいっ!」
「
……
第四区は、夢前三治郎、第五区は猪名寺乱太郎!」
「はい!」
「
…
はっ、はい!」
次々と選ばれるメンバー達の名前が呼ばれていき、結果として選ばれたのは六区はいけいけどんどん〜!が口癖の七松小平太、七区は自称陸上アイドルと謳っている平滝夜叉丸、八区は生き物全般が大好きな竹谷八左ヱ門、九区はのほほんとしていながらも走るとなると速い時友四郎兵衛、十区は、乱太郎たちと同じ学年ながらもアンカーを皆本金吾が務めることになった。乱太郎は自分が選ばれたことに驚きながらも安堵で胸を撫で下ろし、その顔は晴れやかな笑顔だ。補欠は故障をしている陸上部のメンバーと他部活の人かメンバーに選ばれていた。
「
……
さて、今回が箱根駅伝が初めて走るメンバーもいるだろうが、今回は優勝
…
特に往路復路ともに記録を塗り替えられることが狙えるチーム編成だと思っている。もちろん、私としては絶対に勝てると思ってるんだが、それでも優勝、三連覇を目指すからこそ油断することなく精進して箱根路を走り抜けて欲しい。以上だ!」
雅之助がそう高らかに宣言した後、メンバー一同は大きく返事をした。そして、乱太郎は同じメンバーに選ばれた三治郎の方を向くと、三治郎もこちらを見ており、互いににこりと笑い合う。
すると、突然三治郎が乱太郎に向かって拳を突き出した。乱太郎は唐突な行動に首を傾げながら、拳の意図を考え、おそらくハイタッチの代わりであろうと推測した乱太郎は三治郎の拳に自分の拳を当てた。
「
……
乱太郎、ようやく同じ土俵に立てるね。」
「うん、
……
やっぱりどうしてもまだ実感はないけど、選ばれたなら、私は私ができることを全力でやるだけ。」
「うん、僕は区間一位、いや区間新取るから、乱太郎も区間新とってね!」
そう言って自分の目の前で嬉しそうに笑う三治郎に、やれるだけやってみるよ。と眉を下げて苦笑した。すると、そんな二人の様子を見ていた二年生の浦風藤内が近づいてくる。
藤内は近づいてくるなり、二人が合わせている拳の所に拳を突き出す。すると、乱太郎はそれに気づいて藤内の拳に自分の拳を当てた。三治郎が藤内の方を見ると、藤内もこちらを見ており、藤内が口を開く。
「僕も二人に負けないように頑張るからね。」
「俺も、負けてられないなぁー?」
藤内の言葉に便乗するように兵助も彼らの輪に入り、拳を突き出した。彼の突き出した拳に乱太郎と三治郎、そして藤内は三治郎の拳に自分の拳を当てる。すると、それに気付いた他のメンバーたちも順番に三人の近くに来て、順番に拳を突き出してくるので、そのたびに乱太郎は自分の拳を当てていった。そうして、選手全員の拳に触れると、留三郎は乱太郎の方を見てこう言った。
「乱太郎、緊張するだろうが、お前は自分らしい走りをしてくれたらいい。期待してるからな。」
「はい!」
「もし緊張したらな、いけいけどんどんの精神でいけばいいぞ!」
「はっ、はい!」
陸上部のキャプテンと副キャプテンの激励を受けた乱太郎は力強く返事をした。そして、三治郎が再び乱太郎の方を向いて、乱太郎の手を握りしめるとこう言う。
「
……
絶対に、勝とうね!」
「うんっ!」
そう力強く答えた乱太郎は、初めての箱根駅伝に向けて、拳を突き上げた。
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